GW-6

「ちょっ、待てよ!!」

 そう言いながら、走って逃げる燐を追いかける長四郎。

 なぜ、長四郎は燐を追いかけているのか。

 それは15分前の事であった。

 長四郎はホテルの部屋を飛び出した燐を探しに近くのショッピングモールに来ていた。

 何故、ここだったのかについては勘とだけ答えておこう。

 モール内を歩き回っていると吞気に、ブランド店で服を見ていた。

「おい、探したぞ」

 長四郎が燐に声を掛けた途端、持っていた服を長四郎に投げつけ走って店を出た。

 そこから長四郎の追跡が始まった。

 大人二人が、ショッピングモール内をマナーもわきまえず走り回る。

「どこぞの迷惑系YouTuberじゃないんだから」

 遂に手を伸ばしたら、追いつける距離まで近づいていた。

「捕まえた!!」

 燐の二の腕を掴み立ち止まらせる長四郎。

「離してよ!」

 振りほどこうとする燐であったが長四郎は離さないようがっしりと握っている。

「叫ぶよ」

 最後の忠告だと言わんばかりの燐。

 長四郎は取り敢えず、掴んでいた手を離す。

「もう、逃げるなよな。俺、28歳のおじさんなんだから。

それに、話が進まなくなる」

「ごめん」

「ま、一川さんの所に行こう。

お前、今、狙われているから」

 長四郎がさりげなく後ろに視線を向けると、スーツ姿の男2人が慌てて物陰に隠れる。

「え、何?」

 燐もまた長四郎が向ける視線の先を見ようとするが「見るな!」釘を刺す長四郎は続ける。

「まだ、走れるか?」

「あ、うん」

「じゃあ、行くぞ」

 長四郎は燐を連れて、ショッピングモールの裏口から外に出ると走り出す。

 スーツ姿の男二人も長四郎と燐を尾行する。

「なんで、走って逃げるのよ!!」

「それは秘密」

 必死に走って逃げる長四郎と燐。

 そして、今、走り終えたバイクが2人の前に止まる。

「あのこのバイク貸して貰えますか?」

 オーダーメイドスーツに身を包みサングラスが良く似合うダンディな70歳程度の男性に許可を願う長四郎。

「何かあったの?」

 事情を尋ねてくるダンディな男性。

「不審者に追われてるんです!」

 燐が涙を浮かべながら事情を話すと「OK!!」と二つ返事で2人分のヘルメットを貸してくれた。

「ありがとうございます!」

「頑張れよ」

 その言葉と同時に長四郎と燐を乗せたバイクは走り出した。

「あんた、バイクの免許持ってたの?」

 エンジン音で声が搔き消されないように長四郎に大声で話しかける。

「まぁね~」

「どこ行くのよ?」

「そこだ」

 例のチェーン店の喫茶店の駐車場にバイクは入って行く。

 駐輪場にバイクを止めて二人は入店する。

「まだ来ていないのか?」

 席に着くと同時に長四郎は、呟く。

「絢さん達の事?」

「ああ」

 注文を取りに来た店員に、長四郎はアイスコーヒーを2つ頼み燐に現状を伝える。

「ラモちゃん。残念なお話がある」

「何?」

「重要参考人じゃなくて容疑者として追われているよ」

「じゃあ、さっき尾行してたのって」

「刑事」

「絢さん達、何も言ってなかったじゃん」

「ラモちゃんが出ていった後に聞かされた。

それと、証拠が出そろってるぞぉ~」

「噓でしょ・・・・・・」燐の顔が青ざめていく。

「ま、そういうことだ」

「私、冤罪で捕まるの?」

「そうならないように、俺や一川さんがいる。

安心しろ」

「うん、ありがとう」

 燐は涙ぐみながら礼を述べる。

 そこで、修羅場に遭遇したかのような顔で店員がアイスコーヒーを置いて去っていき、30分程の沈黙が流れた。

 ドアベルが鳴り、店内に一川警部と絢巡査長が入って来た。

「ここを出ましょう」

 絢巡査長は二人が座っている座席に来ると同時に提案してくる。

「見つかりました?」

「もう時間の問題やろね」と一川警部。

「分かりました。移動しましょう」

「貴方は、こっち」

 絢巡査長は燐を連れて、トイレに行く。

 長四郎は会計を済ませ一川警部と共に先に店を出て、これからの打ち合わせする。

「ラモちゃん、どうしましょ?」

「そうやねぇ~」

「最適な匿う場所ありませんかねぇ~」

「あるやん。とっても良い所」

「え?」

「長さんの事務所」

「嫌ですよ」

「そこしかないよ」

「え~」

 すると、燐と絢巡査長が店から出てきた。

「じゃ、長さん。宜しく」

 そのまま一川警部は絢巡査長を助手席に乗せて覆面パトカーを走らせその場を後にした。

「はぁ~」っと、長四郎はため息をつく。

「行きますか」

 燐を後部座席に乗せて事務所に移動するのであった。

 バイクを事務所の駐輪場に止めてナンバーを控える。

 これは一川警部に照会してもらい持ち主を特定して、返すために行っている。

「さ、どうぞ」

 長四郎がドアを開け、燐を中に通す。

「ここが事務所ですか」

「ま、まぁ」

「いや、探偵事務所なんて来たことないのでドラマみたいな感じをイメージしていたんですが。

しっかりとした事務所なんですね」

 そう言いながら、燐が来ていた衣服を着た絢巡査長がソファーに座る。

「そんなに驚くことですかね?」

 珈琲を淹れながら長四郎は答える。

「それにあの有名高校生探偵の熱海長四郎さんと共に、捜査できることが嬉しくって」

「失礼ですが、年いくつですか?

あ、俺のこと知っているわりには年が若そうなので」

「24歳です」

「ってことは、年下か。

でも、俺のこと知ってるってことは、よっぽどの探偵マニアか。なんか?」

「いえ、警察学校で聞かされたんです」

「け、警察学校!?」長四郎は驚きのあまり、淹れていた珈琲をこぼしそうになる。

「警察にそこまで知れ渡っているとは・・・・・・」

「もう、有名人ですよ。

あの名探偵の相棒となっていた一川さんの下で働けることになって、こんなにも早く出会えるとは思ってなかったんで」

「はい、どうぞ」

 淹れた珈琲を絢巡査長に出す。

「ありがとうございます」と言って早速、口をつける絢巡査長。

「で、事件についてなんだけど。

絢ちゃんが最初に現場に臨場した時に、話聞いてラモちゃんが犯人だと思った?」

「正直な所、そうは思いませんでした」

「なんで?」

「勘ですかね」

「勘ねぇ」

 長四郎は、勘とかそういった物を毛嫌いするタイプの見た目をしていたので、人は見かけによらないものだと改めて思う。

「あの後、聞き込みを一川さんと手分けして行ったんですけど」

「ほう」長四郎は興味深そうな顔をしながら珈琲を口にする。

「一川さんがラモちゃんのマッサージを担当していた人に話を聞きに行ったそうなんですが犯行時刻にマッサージを行っていたと証言しているんです」

「でも、物証的にはラモちゃんが犯人の疑いが強いというわけか・・・・・・・」

 そこから腕を組み長四郎は、長考し始める。

 そこからしばらく沈黙が続き、そして。

「初歩的なことなんだけど、ラモちゃんの足取りって分かっているの?

犯行時間にラモちゃんが廊下の監視カメラとかに映っていた?」

「そこまでは確認していません」

「じゃあ、そこから調べていくしかありませんな」

「はい」そう返事をしながらメモを取る絢巡査長。

「どうも、お待たせしたば~い」

 燐を連れた一川警部が事務所に入ってきた。

「待ってましたよ」と長四郎。

「いや、ラッキーだった。

あいつら彼女の家にはまだ来とらんかったと。

お陰ですんなりとね」

 燐はキャリケースを自分の前に置く。

「で、私の冤罪は晴らせそう?」

「無理」

 燐の問いに即答する長四郎。

「噓でしょ・・・・・・」絶句する燐。

「なんていうのはうっそ~」長四郎が言うと同時に、長四郎の顔にスーツケースがめり込む。

 そのまま、卒倒し気絶する長四郎。

「あ、あたしは、お暇しまぁ~す」

 その様子を見た一川警部は、足早に事務所を出た。

「あ、この服」

 長四郎のことはなんのそのといった感じで自分が来ている絢巡査長の服について質問する。

「あ、明日返してくれれば良いから、貴方の服もクリーニングして返すから」

「だったら、私も」

「いいの、いいの。せめてもの罪滅ぼしだから。

同僚が迷惑かけたね」

「は、はぁ」

「じゃ、私もお暇します。明朝10時にこちらに来るって、伝えてください。では」

 絢巡査長はそう言い残して、帰っていった。

 残された燐は、自分の寝床を作るための改造に着手するのであった。

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