将軍-22

 もうダメだっ! 燐は年上の甘木田に覆い被さり身を呈して庇う。が、自身の身体に刺さる感じがせずゆっくりと目を開けると、ゲネラールは手首を抑えうずくまっていた。

「ヒットぉ~」

 クルクルと空中を回るブーメランを手の中に納め長四郎。

「熱海長四郎か・・・・・・」ゲネラールの口元がにやける。

「何してたのよ! 遅いっ!!」

「どうも、すいませんね」

 長四郎が適当な謝罪をしながら、ゲネラールに近づいていく。

「ようやく会えたな」長四郎がそう話しかけると「ああ」と返事した。

「大人しくお縄について頂戴」

 ゲネラールの腕を掴もうとした時、車のヘッドライトが暗い現場に明かりが灯る。

「全員、そこを動くな!!」覆面パトカーのスピーカーから指示が出る。

「バットタイミング!」

 長四郎が言うや否やゲネラールは腹にあるポケットの中から光量の高いLEDを取り出し長四郎の目に向かって光りを浴びせた。反射的に目を覆った隙を狙いゲネラールは長四郎の足首を蹴りバランスを崩した長四郎は地面に倒れる。

 ゲネラールはその隙を狙い、パーカーを脱ぎ捨て長四郎に被せた。そこからゲネラールの行動は早かった。現場に落ちていたドンペンの着ぐるみを拾い上げ差し迫って来る警察官達に向けて風呂敷を被せるようにして投げつけ視界を塞いだその隙にがら空きになったパトカーに乗り込み急発進でバックしていき現場から逃走していった。

「行っちゃった・・・・・・」

 燐は走り去っていくパトカーを只、眺めるしかなかった。


「どうなっているんだ!」

 固く握った拳でドンッと机を叩きつけ、光浦は唇を噛んで悔しがる。

「逃走した車両は見つかったのか!」

 光浦の横に座る管理官が怒鳴り声で捜査員に質問すると「今、捜索中です!!」捜査員が必死にやっていると言わんばかりに大声で返答する。

「本部長。どうされますか?」

「直ちに、広域警戒包囲網を」光浦は管理官にそう指示を出すと「広域警戒包囲網を行う! 地図を!!」伝言ゲームのように捜査員へ指示をした。

 会議室のど真ん中に大きい地図が広げられ、捜査本部に居るほぼ全員が地図の前に集まる。

「被疑者車両は、渋谷方面のどこかで走っているかと思われます」捜査員の一人が報告した。

「該当車両のナンバー、車種は判明しているのか!」管理官がそう尋ねると「所轄署の車両というところまでは判明しているのですが、只今、照会中です」別の捜査員が答えた。

「所轄署員を総動員して、検問を張るんだ!!」

「そうは言いますが、いきなりは無理です」

「無理でもやるんだ!!」

 こう言い出しては聞かないで有名な管理官であったので、捜査員達は渋々ながらその指示を実行するしかなかった。

「あの探偵が邪魔しなければ!」

 集まる捜査員の後ろに座る光浦が膝で机を蹴りあげる。

「はぁ~」

 子供のような事をするなよなと思う捜査員達は一堂にため息をつくのだった。

 そんな頃、佐藤田警部補と絢巡査長の二人は赤髪のヤンキー達から聞き出した情報を基に第一の被害者であろう人物を照会するために関東監察医務院へ来ていた。

「これで、最初の被害者だと分かれば良いんですが」

 DNA検査の結果を待つ絢巡査長は不安そうに言う。

「絢ちゃん。不安な顔をしたら、ダメだよ。良い結果が逃げちゃうよ」

 佐藤田警部補はチュッパチャプスを舐めながら、絢巡査長を励ます。

「にしても、なんで身代わりを作ったんでしょうか?」

「う~ん。一番は自分から遠ざける為、第二に警察の捜査が杜撰である事を証明するため」

「警察の捜査が杜撰って」

「だって、そうでしょ。ドッグタグから身元を割り出したとはいえ、顔は潰され指紋も焼かれて更利満の遺留品からDNA検査をしたのかっていうとしていないでしょ」

「確かに。というか、被害者の家から髪の毛とかって採取されてましたっけ?」

 絢巡査長はハンドバックから捜査資料を取り出して確認する。

「あ、してない。というか、髪の毛などのDNAに繋がるものが部屋から見つかってませんね」

「ふ~ん。本気で更利満と信じ込ませようとしてたんだ。奴さんは」

 佐藤田警部補がそう言うと同時に、鑑定検査室から担当官が出てきた。

「どうでした?」舐めていた飴を口から出し、検査結果を聞く佐藤田警部補。

「一致しましたよ。よく調べましたね」

 担当官からその報告を聞いた絢巡査長は安堵するのだった。

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