愛猫-14
「犯人は貴方だ。夜田久さん」
長四郎の発言で、全員の視線が夜田に集まる。
「そんなのでたらめだ」すぐさま夜田は、自分の容疑を否定した。
「でたらめですか。では、お聞きしますが貴方が検察当局の調査対象になっているんですか?」
「そんなの俺は知らない。国家権力が俺を陥れようとしているんだ」
長四郎の質問に弱々しく答える夜田。
「夜田さんの発言が本当なら恐ろしい話ですね。でも、根拠もなしにこんな話はしませんよ」
「どのような根拠ですか?」長四郎の言葉に、夜田は眉をひそめながら問う。
「よく聞いてくれました。ラモちゃん、例の物を」
「はい」
燐は全員に町工場で見つけた業務日誌のコピーを全員に配った。
「これは?」翡翠は説明を求める。
「この業務日誌のコピーは、夜田さんの実家で経営されていた町工場で見つけたコピーです。そこには、夜田さんが会社の金を持ち逃げして倒産するまでの軌跡が書かれています」
その説明を聞き終えた翡翠と陣内は手渡されたコ業務日誌に目を落とす。
「そ、それだけで俺が好江を殺すことと何の関係があるんだ!!」
「大いにありますよ。だって、夜田さんの会社が大きくなったきっかけでもあるんですから」
「きっかけだと!? 俺は真摯に事業に向き合って会社を大きくしたんだ! 変な言いがかりはやめてくれ!!」声を荒げて否定する夜田に長四郎は「そんな怒らないでくださいよ」と宥める。
「夜田さん、ここに書かれているのは本当なんですか?」
翡翠が質問すると夜田は困った顔をし、「そんなわけないじゃないですか。横乃海さんまで何を言うんですか」と返答した。
「実はここに来る前に、これを書いた専務さんから証言を取りましたよ」燐がここで口をはさんできた。
「えっ!」驚く夜田に「一応、専務さんの証言だけでは心もとないので経理を務めていた人からも証言が取れるようお願いしてますから信憑性は高いのではないかと」
燐の補足説明を受け身体をわなわなと震わせる夜田。
「そして、さらに事業拡大をする為にこの店の運営資金を横領し、賄賂の資金源として利用した。ですよね? 夜田さん」
「賄賂って何ですか?」
「あ、申し訳ない。そこの説明がまだでしたね」と前置き、長四郎は賄賂の説明を始める。
「実は東京地検特捜部が夜田さんを調べたのは、国のセキュリティシステムの入札に関して談合を行い、その権利を不正に獲得した疑いがかけられたものでしてね。最初の賄賂の金額が実家の会社から盗んだ金額と一致しましてね。それとともに、この店の口座から引き出された金額が送金、手渡されたであろう金額と合うんですよ。どうです? これでも、白を切りますか?」その問いかけに、夜田は苦虫を嚙み潰したような顔で長四郎を見る。
「そんな顔で見ないでくださいよぉ~」
長四郎は照れた表情を見せると横に居た燐が溜息をつく。
「確かに金盗んだのは、俺だ。だが、好江は殺していない本当だ!」
「じゃあ、どうして目撃証言があるんでしょうね」
「目撃証言?」
「ここの近くにあるスナックのママが事件当夜、貴方が来客として訪れたと証言しているんですよ」
「人違いじゃないのか?」
「そう言うと思って、呼んでいますけん。どうぞ」
一川警部に呼ばれ、バックヤードから気だるそうな顔をしたママが姿を現し「確かにこの人だったね」と証言した。
「嘘だ。でたらめ言うな!」
「でたらめとは何だい! 私はこの仕事を30年やっているんだ。来た客の顔は覚えるように鍛え上げんだよ!! 舐めるんじゃないよ!!!」
ママに恫喝されるとは思わず、その場に居たママ以外の人間が萎縮する。
「夜田さん、どうしてそこまで否定するんですか? 事件当夜に近所のスナックで飲んでいただけでこの店に来ていないと言えば良かったんじゃないですか?」
「そ、それは・・・・・・」
「それは?」長四郎が復唱すると「気が動転して」そう言いかけた時、尚道が夜田に駆け寄りジャンプすると夜田の顔に猫パンチを浴びせる。
「痛っ」夜田は床に倒れた。
「あ~尚道は誰か犯人なのか、分かっているみたいですね」
燐の言葉に夜田は項垂れながら上半身を起こすと「あんたの言うとおりだ。俺が好江を殺した」と自供した。
「あいつ、俺に説教してきやがった。金の扱いが雑な法人を上手いこと利用すれば事が運びやすかったのに」
夜田が悪態をつくと同時に燐が殴り掛かろうとするのを「ラモちゃん!!」長四郎が制しながら抱きかかえると、尚道が長四郎達の横をすっと通り抜けて猫パンチを何度も何度も夜田の顔にお見舞いする。
「やめろっ!」
必死で抵抗する夜田だったのだが、尚道の手は緩まらない。
「尚道、それまで」
翡翠が取り上げると尚道は翡翠の手の中で離せと言わんばかりに抵抗する。
「じゃ、詳しい話は署で聞きましょ」
一川警部が床に倒れる夜田を見下ろしながら言うと、絢巡査長は夜田の手に手錠をかけるのであった。
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