愛猫-13
長四郎は手伝いを終えた燐を連れて命捜班の部屋を訪れた。
「うわっ! 何これ~」燐は机に並べられた資料を見て驚く。
「渡してあるファイル貸して」
そんなのお構いなしで長四郎は燐のカバンに入っている「CATエモン」で見つけたファイルを要求する。
因みに、ファイルを借りる際、翡翠の許可は得ているので悪しからず。
「はい」燐からファイルを手渡された長四郎は目的のページを開き、机の上に置いてある特捜部が作成した資料と照らし合わせ始める。
「何これ」
「これは、誰かさんが「CATエモン」の金をちょろまかして奪ったであろう証拠」
「見せて」
燐は長四郎が持っているファイルをひったくり上げ、机の上の資料と照らし合わせる。
机の資料には2022/05/15 \20,000 Cと記載されていたのに対して、手の中にあるファイルには2022/05/15 口座からガグマ興産へ\20,000入金。ガグマ興産へ確認すると関知していないことを告げられた。という文と共に通帳のコピーが添付されていた。
これが10回以上もあった。送金先は全て取引先、しかも徐々に送金される額は大きくなっていた。
極めつけは、店舗拡大に辺り貯金していた500万円が下ろされていた。
「これ、犯罪じゃない?」
「うん、ゴリゴリに犯罪です」燐の問いかけに満面の笑みで答える長四郎。
「どうして、通報しなかったんだろ?」
「それは今年に入ってからだからでしょ。だから、そのファイルの一番最初の日付は、2022年12月27日になっているってことは、年末調整でチェックしている時に好江さんは気づいたんじゃないか?」
「成程ぉ~」長四郎の推理に燐は感心する。
「成程ぉ~じゃないよ。返して」
長四郎は燐の手からファイルを奪い返すと、再び照合の作業に戻った。
「ねぇ、そんなに確認して何になるの?」
「いや、間違いがないかなと思って」
「てか、これが事件と関係しているの?」
「これが好江さんを殺害した動機? になるんじゃないかな」と曖昧な答えを出す長四郎であった。
翌々日、「CATエモン」に事件関係者にあたる翡翠、夜田、陣内が集められた。
「今日はどのような話を?」
そう目の前にいる絢巡査長に話し掛けたのは、ペガサスの陣内であった。
「正直な所、私も知らないんですよ」
「えっ! 知らない!」驚く陣内に申し訳なさそうな顔をする絢巡査長。
「まぁ、事件についての話ですから気にせんといてください」
一川警部がすかさずフォローを入れると、店のドアが開く。
「あ、遅れてしまって申し訳ありません」
長四郎は入って来るや否や謝罪し、共に入ってきた燐もそれに合わせて頭を下げる。
「もう集まって頂いているみたいなので、早速話していきますね」
『はぁ』事件関係者の3人は声を揃えて返事をする。
「猫谷好江さんが何故、殺害されたのか。そこから話していきますね」
「何故、動機からなんですか?」翡翠が質問してきた。
「それはこの店の運営そして次店舗の運営に関わる重要な話だからです」
「えっ!」驚きのあまり絶句する翡翠に対して、男性陣は一切動じる様子はない。
「では、これを見てください。ラモちゃん」
燐は事件関係者の3人に長四郎が照らし合わせていた資料のコピーを渡した。
「これは?」説明を求める陣内。
「これは、店舗の金が横流しされている証拠です」
「横流し!? 横乃海さん、知ってた?」
「いえ、知りませんでした」
陣内の問いに首を横に振り否定する翡翠。
「続けても?」
「あ、どうぞ」陣内は手を差し出し、続けるよう願い出る。
「そこに書いてあるように取引先に送金されているようですが、そのような事実はありませんでした。取引先にも確認したので間違いありません」
「これはどこで?」夜田が質問した。
「片方はこの店に置いてあった資料です。好江さん、不正な金の流れに気づいて独自で調査していたんでしょう。もう片方の資料は東京地検特捜部が持っていた物です。特捜部の資料は金を盗んでいた奴が付けていた帳簿です」
「盗んでいた相手は分かっているんですか?」
「分かっていますよ。その人物が好江さんを殺した犯人です」
翡翠の質問に答えた瞬間、場の空気が変わったのを燐は肌で感じた。
そして、事件関係者の3人は誰が犯人なのか。互いを疑いの眼差しで見る。
「ああ、それと犯人はこの金を会社の運転資金に回していたことは分かっています」
『それで、犯人は誰なんです』翡翠と陣内は声を揃えて長四郎に尋ねる。
「お答えしましょう。犯人は・・・・・・」
長四郎はそう答えながら犯人に向かって指を差した。
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