復讐-13
森井そっくりの男は100m先のコンビニに向かって歩いていた。
その50m後にゆっくりとタクシーが走る。
男が入店するのを確認し、長四郎たちを乗せたタクシーはコンビニの前を走り去る。
数分後、男がコンビニを退店し帰路に着いた。
長四郎は絢巡査長にメッセージを送信した。
“森井の様子はどう?”そう書いて送信するとすぐさま、返信が来た。
“勤務態度に変わったところなし。至って、真面目。変な動きなし”
この返信を見て長四郎は具志堅に「Uターンしてアパートに戻ってください」と願い出る。
具志堅は長四郎の要望通りタクシーをUターンさせ、元居た場所へと停車した、
「どうするの?」燐が質問する。
「一か八かの大勝負に出る。開けてください」
ドアを開けるよう頼み長四郎はタクシーを降りた。それに続く燐。
「ラモちゃん、今度は音を立ててもいいから」
「え?」
「それと、話を俺に合わせろ良いな?」
「ちょっと、真意を説明しなさいよ」
「嫌だ」
「いやいや期かよ」
燐はボヤキながら長四郎について行く。
階段を昇り、森井の部屋の前に立つ二人。
長四郎はすかさずインターホンを鳴らす。
それも高速連打で。
すると部屋の中から「はい! はぁーい!!」と苛立つ男の声が聞こえてきた。
ドアが開くと中から森井に似た男がインターホンに手をかけている長四郎を睨みながら応対する。
「何ですか?」口火を切ったのは森井に似た男であった。
「何ですかって。宗教勧誘じゃないですよ」悪びれる様子もない感じで長四郎は答える。
「じゃあ、何なんですか?」
「申し遅れました。私、こういう者です」
長四郎は偽造名刺を渡した。
「何してるっ! 君も渡しなさい」長四郎は燐に名刺を渡すように言うが勿論の事、燐はその様な物を持っているわけもなく「ない」と答えそうになったがここは長四郎に合わせて「持ち合わせておりません」そう答えた。
「ったくぅ~申し訳ありません。この女性記者も私の同僚なのでお気になさらず」
「はぁ」
「それで、取材に協力して頂けませんか?」
「取材ですか?」
森井に似た男は取材協力の為だけにあんなにもチャイムを押したのか。そう思った。
「ええ。実はここら辺でツチノコを見たという目撃情報が入りましてね」
「ふっ、ツチノコって・・・・・・」
「私は居ると思っていますよ。ツチノコ」
「じゃあ、ご期待には沿えない。見てませんよ、そんな変な生き物」名刺を長四郎に突っ返す男。
「分っかりました。今日はありがとうございました」
肩を落としたように長四郎はその場を去った。
「失礼します」燐は男にそう言って一礼して長四郎の後を追う。
燐の姿が見えなくなった事を確認した男はドアを閉めると、慌てるように部屋に入り開きっぱなしのキャリーケースに投げ出された服を詰め込み始める。
「ホントにあれで良かったの?」
タクシーに乗り込みながら燐は自分の行動が正しかったのか質問した。
「まぁ、良かったような。ないような。部屋の中見える範囲だけでも観察できた?」
「ま、まぁ」歯切れの悪い回答をする燐。
「どうだった?」長四郎に問われた燐は先程、見た光景をもう一度振りかえる。
男の後ろに見えた光景は、玄関はキッチンに繋がっているようで奥の部屋のカーテンは開けられていた。
日当たりの良い部屋のようで、そこまで物が視認出来ないといった環境ではなかった。
パッと見た感じ、一人暮らしの部屋といった印象を受けた。
そして、燐は奥の部屋に見えた物を整理する。
印象に残ったのは次の四つであった。
テーブル
座椅子
山盛りになった服の山
開きぱなっしのキャリーケース
この中で事件に関係にありそうな物それは・・・・・・
「開きぱなっしのキャリーケースが置かれていた。それぐらいかなぁ~」
『それだけかよ!!』
燐の話を聞いた長四郎と具志堅は声を合わせてガクッと肩を落とす。
「でも、あの男が他県から来たのは間違いないでしょ」
「それはどうかな? ホテルに居る方がそうかもしれないし」
「そうか・・・・・・」燐は下を向く。
「ま、あそこで接触したから何か動きはあるはずだぜ」
長四郎がそう言うと一川警部から着信が入る。
「こちら沖縄県警です。事件ですか? 事故ですか?」
「事件とです」一川警部は長四郎の悪ふざけにノる形で応答する。
「ほう」
「今、経文 卸の部屋におるんやけど。彼のパソコンから毒物の購入履歴が見つかったと」
「やっぱり、そうでしたか」
「それと、長さんに調べて欲しいって言われてた件やけど・・・・・・」
「これで腑に落ちました。その購入履歴をこっちに送信して貰えますか?」
「よかよ」
「最後にもう一つ、調べて欲しいですけど」
「何ね?」
長四郎は一川警部に調査内容を伝えると通話を終了した。
「一川さん、何て言っていたの?」
燐は一川警部の用件について質問する。
「大したことじゃない」そう答えアパートに目を向けると燐が言っていたキャリーケースを抱えた男が部屋から出て来た。
「あ、出て来たね」具志堅も気づいたらしくタクシーを発進させる準備をする。
男はアパートの前で立ち尽くしていると一台のタクシーが止まった。
どうやら、配車手配をしていたらしく男を乗せるとすぐさま走り出した。
「この時間だと、船だね」具志堅は車内の時計を見て言った。
時刻は、午後2時20分を示していた。
「どこの港か検討はつきますか?」
「う~ん」少し考え「那覇港なはず」と長四郎の疑問に答える具志堅。
「了解です。じゃあ、追尾お願いします」
長四郎はシートベルトを締めてタクシーを発車させるようお願いするとタクシーは走り始めた。
「どうして、港何ですか? 空港でも良いと思うんですけど」
燐は具志堅の発言に疑問を感じ質問した。
「海外へと高飛びすると考えた時にね、空港を考えがちだけど空港警察が目を光らせているから意外とバレたりするもん。しかしね、港だとそういった心配が減るからね」
「で、あの男が船で国外逃亡すると」
「そう。行先は台湾やろうね」
燐と具志堅がその様な会話している際、長四郎は絢巡査長と肥後にメッセージを送っていた。
那覇港に集合するようにと。
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