復讐-12

 ホテルの宴会場に設置された捜査本部に集められた捜査員達。

 捜査を切り上げられての招集だったので、何があったのかとひそひそと話し合っていた。

 そこに姿を現した長四郎と肥後は、壇上に立った。

「皆さ。今、ここに集まってもらいありがとうございます」マイクを使い長四郎が話し始めた。

「早速ですが、用件を伝えます。この事件の犯人はまだ居ます」

 その一言で捜査本部はどよめきだつ。

「驚くのはまだ早いよぉ~」肥後が捜査員達を制す。

「もう一人の犯人は、経文 卸。男達が6年前に起こした暴力事件の被害者家族です」

「という事は、その経文何某も復讐の為に、三人も殺害したそういう事ですか?」モブ刑事1が質問する。

「その通りです。一連の犯行は女性一人では無理です。あなた方も捜査していてその事は分かっていたはずだ」

「という事で、これから経文卸が沖縄に潜伏しているはずなのでそれを捜索する」

 肥後はこれからの捜査方針を捜査員達に発表すると「え~」という声が上がる。

「お手数をお掛けして申し訳ありません。取り敢えず、那覇空港そして沖縄出発の港を当たってください」

 長四郎の一言を受けて『はい!!』っと返事をして出て行こうとする。

「あ、待って。写真、写真!!」肥後は免許証データから持って来た写真を捜査員達に配り始める。

 その写真の男は森井にそっくりだった。

「じゃあ、俺達は俺達のやれることをやりましょうか?」

 写真を配り終えた肥後にそう話しかける長四郎。

 その頃、燐は一人ロビーで手持無沙汰の状態で共用のソファーに座っていた。

「ぶつぶつぶつぶつ」一人小声で文句をたれる燐。

「ラモちゃん、ここで何してるの?」

 絢巡査長が話しかけてきた。

「絢さん」燐の声色が少し明るくなる。

「長さんは?」

「あいつ、相棒の私をほっぽいて1人で動いているんです。相棒をなんと心得ているのか」

「まぁまぁ。にしても、参ったな。長さんのアイデアを借りたいと思ったんだけど・・・・・・」

「残りの2人、まだ犯行を認めてないんですか?」

「うん、しかも6年前の事件も冤罪だっていう始末で」

「それは大変ですね」

「そうなの」溜息を吐きながら頭を抱える絢巡査長。

 するとエレベーターホールから長四郎と肥後が出てきた。

「あ、来た」

 燐はこちらに歩いて来る長四郎を指さす。

「来てやったよ。寂しいだろうと思ってな」

「誰が寂しいって」燐は舌を出して長四郎を挑発する。

「あら、絢さんどうされました?」

 ここで肥後が絢巡査長の存在に気づき用件を尋ねた。

「いや、実は・・・・・・」

 男達が犯行を認めないことを長四郎と肥後に再度、説明した。

「それは困ったねぇ~」肥後はしかめっ面になりながら長四郎を見る。

「それ後回しに出来る?」

「え?」長四郎のまさかの提案に耳を疑う絢巡査長であったがそんなのお構いなしで長四郎は話を続ける。

「そっちの件はこっちが片付いてからでも大丈夫。一川さんにも俺から言っておくから」

「そういう問題では・・・・・・」

「ねぇ、あんたの方はそんなに大事なの?」と燐が食ってかかる。

「大事だね。あいつらが仮にムショから出て来てからまた同じことが起こるぞ。ほっといたら」

「それもそうね」絢巡査長は長四郎達の現状を把握していなかったが納得する。

「絢さん・・・・・・」食ってかかった自分の立場がなくなり燐は困り顔になる。

「さ、行くとしますか。小童」

「どこに?」

 長四郎に行き先を尋ねると「秘密」とだけ答え、一人歩き始めるので燐は仕方なくついて行く。

「あの私はどうすれば?

 隣にいる肥後に今後の方針を質問する絢巡査長。

「それはね、付いて来てもらえる?」

「はい」

 絢巡査長は肥後と共に行動を開始した。

 そして、長四郎と燐は具志堅の運転するタクシーに揺られながら森井が住むアパートへと向かっていた。

「今日、日勤のシフトで森井さんは働いているんだよ」燐はこの行動に異論を唱える。

「そうなんだー」

「そうなんだって。真面目に聞いてんの?」

「聞いてる。聞いてる」適当に相槌を打ちながら長四郎は窓の景色を眺める。

 そんな2人をルーム越しに眺めながら微笑む具志堅は黙々とタクシーを目的地まで走らせるのだった。

 昨日、タクシーを駐車させた所に停車する。

「少し、待ってて貰えますか?」

「おう」

 具志堅は長四郎にそう返事し、送り出した。

「良いか? アパートに入ったら声を出すなよ。それと音もなるべく立てるな」

「何で?」

「何でも」

 こうして、2人は音を立てないよう慎重に森井が住む部屋の前に移動する。

 部屋の前に到着すると、長四郎はスマホを取り出して電気メーターを撮影した。

 ドアに耳を当て音がするか確認するが、そこまでは確認できなかった。

 行こうというジェスチャーを燐にして、部屋の前を後にしタクシーに戻った。

「お帰り~」具志堅は二人を出迎えながらドアを開ける。

「どうもです」長四郎はそう返事をしながらタクシーに乗り込む。

「ありがとうございます」燐も続いて乗る。

 ドアがしまったタイミングで「電気メーター回っていたな」と長四郎が話し始めた。

「そうだっけ?」

「そうだよ。ほら」

 先程、撮影した動画を燐に見せる。

「ホントだ。でも、部屋から音しなかったよ」

「それが今の問題なんだよ。これ、見て」

 長四郎は経文卸の写真を見せると「あっ、森井さん」驚いた声を出す燐。

「そっくりだろ?」

「うん、そっくり」

「これで分かった? どうして、俺が森井にこだわるのか」

「うん」

 燐が頷いたタイミングで森井の部屋から森井のそっくりさんが出てきた。

「お兄さん、出て来たよ」具志堅がその事を教えてくる。

「何で、あそこにいるの?」

「それを調べるの。具志堅さん、あの男を尾行してください」

「はいさー」

 具志堅はタクシーを走らせるのだった。

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