復讐-11

 ホテルに着いた長四郎と肥後は2人目の被害者・取田が吊るされた非常階段へと来ていた。

「ふーん」鑑識が撮影した現場写真を見ながら事件現場地上から眺める長四郎はどこか腑に落ちないそう言った顔をする。

「肥後さん、女性が一人で成人男性を持ち上げてこんな風に吊り上げる事は可能だと思いますか?」

「無理ね」

 長四郎の持っていた写真をひったくりながら燐が姿を現した。

「ラモちゃん。おそようございます」

「はい、おそよう。って、何言わすのよ!」

「今、11時50分だよ」

「置いていったのはそっちじゃない」

「あーはいはい。喧嘩しない」

『喧嘩してない!!!』また、長四郎と燐に一喝される肥後であった。

「すいません」

 肥後はしょぼんとしながら謝罪する。

「で、現状はどうなの?」

 燐は現時点で分かっている事の説明を長四郎に求める。

 それから「かくかくしかじかでして」と大雑把な説明を燐にした長四郎はそれが終わると非常階段を昇り始めた。

 それに追随する燐と肥後。

 取田が吊るされた踊り場に着くと長四郎は突如、1人で事件を再現するジェスチャーを始めた。

 首を絞め倒れた取田の死体をの首に紐を結び直したり柵に紐を結びつける動作をし、死体を投げ捨てる一連の動作を手を変え品を変えで20回程行った。

 それを見守っている燐と肥後も10回を超えた辺りからそろそろ終わりにして欲しいそう思っていた。

 20回目が終わったタイミングで長四郎は口を開いた。

「どうです? 女性一人でやれそうでした?」

「う~ん、絞殺するのと投げ捨てる以外は簡単にやれそう」肥後は率直な感想を述べた。

「ラモちゃんは?」

「そうね。被害者がラリっていて正常な判断が出来ないと仮定した場合、絞殺は意外と簡単なのかもしれない。けど、投げ捨てるのはキツイそう思う」

 燐も昨日、詩の姿を見ているのであの細身な体では成人男性を投げ飛ばすのは難しいそう思っての感想だった。

「やっぱり、そうだよな」そう言い1人頷き、長四郎は非常階段に繋がるドアからホテルに入る。

 そして、非常ドア近くに設置してある防犯カメラをジッと長四郎は見つめる。

「そう言えば、このカメラに詩さんの姿はあったんですか?」

「いいや。映っていなかったって報告を今朝、受けた」

「細工若しくは」

「あの時みたいなタイムラグ?」

 燐が話すタイムラグについて知りたい方は「探偵は女子高生と共にやって来る。」第弐話-GWをお読み下さい。

 以上、姑息な宣伝タイムでした。

 どうぞ、「探偵は女子高生と共にやって来る。」第陸話-復讐を引き続きお楽しみください。

「その可能性もなくはないが、無理だろうこの距離じゃ」

 長四郎達が今居る所から部屋までは30m程、離れていた。

「そうかぁ~」悔しがる燐。

「そろそろ花火 詩が宿泊していた部屋にガサ入れ入るけど行く?」

 肥後は腕時計を見ながら長四郎に尋ねる。

「行きましょう。真犯人いや、共犯者に繋がるものがあるかもしれない」

 そう言って、歩き出そうとする長四郎だったがすぐさま、ピタリと立止まる。

「ちょっと、早く行きなさいよ」

「ラモちゃんに頼みたいことがある」

「何?」

「森井っていう従業員居たろ?」

「うん、あの人ね。それがどうかしたの?」

「その人が出勤しているか。フロントに行って確かめてきて欲しい」

「自分で行けばいいでしょ」

「俺はガサ入れ行かなきゃだから。それにこれはラモちゃんの方が得意でしょ。俺なんかより」

「そ、そう」まんざらでもないといった顔になる燐に追撃する形で肥後が「ラモちゃん、宜しく」と言ったのが効いたのか、燐は駆け足でエレベーターに向かって行った。

 男2人はニタっと笑い、自分達の仕事に向かった。

 詩が宿泊していた部屋は男達が宿泊していた真下の部屋であった。

 そして今、鑑識捜査官達がひしめき合い鑑識作業に当たっていた。

 落ち着くまでの間、肥後は森井を疑う理由を聞いた。

「長さんは森井っていう従業員を疑っているわけ?」

「ええ」

「どうして?」

「それは・・・・・・」答えかけようとした時、「肥後さん」鑑識捜査官に呼ばれ二人は部屋に入室した。

 上の部屋とは打って変わって、綺麗に使用されていた部屋であった。

「これを見てください」

 殺害に使用された毒物が入った瓶、注射器等が入ったダンボールを見せさせられた。

「これの購入経路を調べないとね」

「それなら、東京に居る一川さんに頼みましょう」

「そうしてくれる?」

「はい。任せてください」

 長四郎は部屋を出て邪魔にならない所で電話をかけ始める。

 1コール以内に電話に出た一川警部。

「もしもし、ちょうさんね。そっちの調査はどうなっとると?」

「順調とは言えませんね。実は追加で調べてもらい事が」

「何ね?」

「一連の事件の犯人が花火 詩との事なのですが、毒物等の購入履歴を調べて欲しいんです」

「合点承知の助。それで頼まれてたことなんやけど」

 長四郎は森井が住むアパートの張り込む前に、一川警部に過去の事件の遺族について調べて貰っていたのだ。

「どうでした?」

「うん、経文 取根男さんには奥さんと子供が追ったよ。でもね、奥さんは2年前に他界しとうよ」

「そうですか。子供は男ですか?」

「ご名答。男、よく分かったね。名前は経文へぶん おろし。」

「その息子が共犯かもしれません。その経文さんの息子の行方を大至急追ってください」

「分かった。それとなんだけど、絢ちゃんの方は順調そう?」

「難航しているみたいです」

「そう。ありがとう。至急、調べるけん。分かったら連絡するから、そん時は宜しく」

「お願いします。失礼します」

 そこで、通話を終えると肥後が近づいてきて現状を報告してきた。

「ダメ、事件に繋がりそうな物はこれといってなかった」

「やっぱり。にしてもラモちゃんからの連絡がないな」

 丁度、そのタイミングで電話がかかってきた。

「居たわよ。森井さん」

「そうか。変わった事はなかった」

「なかった。てかさ、あんたのおかげで変な目で見られたんだけど」

「それは申し訳なかった。戻ってきてくれ」

 そこで通話を切った長四郎は肥後にこう告げた。

「至急、捜査員を集めて下さい」と。

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