復讐-10

 浜辺に警察官達がひしめき合っていた。

 鑑識作業や周辺で目撃情報を募る刑事達が慌ただしく動いており、長四郎は濡れたままの身体で捜査の邪魔にならないよう事件現場から少し離れた隅の方で海を眺めていた。

「早く着替えないと風邪ひくよ」燐が声を掛けても応答がない。

「ねぇ、聞いているっ!!」少し声を張り上げて耳元で喋ると身体をビクッとさせて長四郎は燐の方を見た。

「風邪ひくよ」

「そうだな」そう答え再び長四郎は海を眺める。

「どうしたの? らしくないじゃん」

「らしくないか・・・・・・」

 急にセンチメンタルになっている長四郎を見て燐は、気味悪いそう思っていると「なぁ、人殺して海を眺めるってどんな心境なんだと思う?」長四郎は燐にそう尋ねた。

「どんな、心境って・・・・・・そうね、今回の場合は復讐殺人だから「貴方の仇は討ったわよ」とかそんな感じじゃない?」

「ラモちゃんはそう感じたのか」

「いや、感じたとかじゃないんだけど」

「おーい! 長さぁーん!!」肥後がこちらに駆け寄って来た。

「どうしました。肥後さん」

「今、病院で垂水の死亡が確認された」

「彼女の言ったとおりになったか」

「花火 詩がそんなこと言ったの?」

 長四郎は最初に発見した時の状況を肥後に説明した。

「そうか。取り敢えず、花火 詩を殺人の容疑で緊急逮捕したから。取り調べは明日になると思うから今日はホテルに帰っていいよ」

「分かりました。もう、身体が寒くて」身体をぶるぶると震わせる長四郎。

「あの肥後さん。明日、私達も取り調べに参加させてくれませんか?」

「OK! 明日、9時に迎えに行くから。じゃ」

「宜しくお願いします」

 燐がそう言う前に肥後はその場から立ち去って捜査員の中に混ざって行った。

 その帰り道、おっちゃんが運転するタクシーに揺られながらホテルへと戻る長四郎。

 車内は重い空気に包まれ一言も喋らないままホテルに到着した。

「すいません。巻き込んでしまって」料金を払う前におっちゃんに謝罪する長四郎。

「気にしないで。あんな体験初めてだったけど、お兄さんは大丈夫? お嬢ちゃんも」

「俺達は馴れっこなんで大丈夫です。料金、お幾らですか?」

「今日は貸し切りだから・・・・・・」運賃表を見て料金を確認するおっちゃん。

「うん、1万3千円」

「はい、これで。後、領収書を。宛名は熱海探偵事務所で」

「熱海探偵事務所ね」復唱しながら領収書の宛名欄に熱海探偵事務所の文字を記載していくのを見ながら長四郎はトレイに2万円を置いた。

 おっちゃんはお札入れからお釣りの7千円を取り出し長四郎に渡す。

「今日はありがとうね」

「いえ、こちらこそ。また、お世話になるかもしれません。その時は宜しくお願い致します。具志堅ぐしけんさん」

「はいさー」おっちゃんいや具志堅はそう返事をする。

 長四郎と燐はタクシーを降りてホテルに入った。

 翌日、朝9時きっかりに肥後はロビーに姿を現した。

「おはよう、長さん」

 ロビーで新聞を読んでいた長四郎に肥後は声を掛ける。

「おはようございます。どうです? 捜査の方は」開いた新聞紙を閉じながら返答する。

「う~ん。昨晩、サラッと聞いたんだけど」

「何か気になることでも?」

「それは会ってみてから判断してみて」そう言いながら辺りを見回すと燐の姿がなかった。

「あれ、ラモちゃんは?」

「これです」

 長四郎は寝ているというジェスチャーをする。

「行きましょう」

「そうね」

 男2人、ホテルを出て詩が留置されているチブル警察署へと向かった。

 長四郎達が出たすぐ後、燐がエレベーターから駆けって出てきた。

「寝坊した。あれ?」

 その場に居るはずのない長四郎が居ないので、どこに居るか連絡しようと思ったのだがまだ眠いので二度寝する事に決めて部屋に戻っていった。

 チブル警察署に着いた長四郎は早速、詩が取り調べを受けている取調室へと通された。

「お待たせしました」それまで取り調べをしていた刑事達に長四郎を連れて来た旨を伝え、刑事達は肥後にバトンタッチして取調室を後にした。

「昨日は、どうも」そう席に座りながら、長四郎は詩に話しかける。

「あなた、探偵なんですってね」

「ええ」

「私が一連の事件の犯人だと推理したの?」

「いいえ。警視庁の刑事です。貴方が行方をくらましているという情報が入りましたから。必然的に貴方に疑いの目が」

「そう」

「何度でも申し訳ないのですが、貴方がどの様に男達を殺したのか教えて頂けませんか?」

「何度でも答えてあげるわ」

「お願いします」

「警察が何もできないから・・・・・・」

 そこから詩は自分の犯行を語り始めた。

 詩は主人の職人が男達の殺害されてからというもの一向に逮捕しない警察に業を煮やして、自分の手で男達に裁きを下そうと自分自身で男達の行方を探した。

 すぐに男達の居場所や素性は掴めた。普段の行いが悪いから尋ねる人は素直に教えてくれた。

 次にどの様に殺害しようか計画した。

 警視庁管内で事件を起こせばすぐに自分が犯人であるとバレてしまう。

 その為、他県で事を起こそうと思い候補地を選んでいると職人と行く予定だった沖縄で殺害しようと計画を立てた。

 男達の宿泊先と旅券そして、簡単に殺害できるようにトリカブトのエキスと脱法ハーブを用意した。

 それからすぐに、女を武器にし男達に近づいた。

 真っ先に食いついたのは茶髪の男・規陽 ダナであった。

 規陽をあっという間に手玉に取り、この沖縄旅行を提案した。

 すると、あっさり食いつき、仲間達も旅費が詩持ちとしりその計画に賛同した。

 当初は詩も一緒に行く予定だったのだが、急用ができたと噓をつき男5人を先に送り出し、自分は気づかれないよう男達が沖縄に行ったことを確認した。

 それからすぐに遅れた便で自分も沖縄へと向かった。

 沖縄に着くと空港にある宅配便のテナントでエキスと脱法ハーブ、注射器の入ったダンボールを受け取りホテルに移動した。

 一度、下見がてらホテルのバイキングメニューを確かめ翌日の夜も出る食材にトリカブトを混入させようとコッソリタッパーにしまい部屋へと持ち帰った。

「それで注射器を使用して、毒物を食材に混入させた」

「はい」長四郎の言葉に頷く詩は話を続けた。

 翌日の夜、計画は決行された。

 毒物を混入させた食材を酔った女性客を装い、ふらつき倒れそうになると見せかけて全手の皿に載せ急ぎ足で去っていった。

 そして、部屋で震えている男達の部屋に詩は訪ねた。

 規陽に会いたくて仕方なく追ってきたと。正直なところは殺したいその一心であったが。

 不安がる男達にハーブを進めるとこれまた、素直に吸引し始めて錯乱し始めた。

 その中でも一番効いている取田にしようと、2人きりになりたいとそそのかし非常階段へと連れ出した。

 そこで、昼間ホームセンターで購入した紐を使用して取田を絞殺した。

 使用した紐を非常階段の柵に括り付け、首にもう一度紐を掛けて死体を柵の向こう側に投げ絞首刑のように吊るした。

 だが、誤算が起きた。

 警視庁からの要請で、男達が職人殺害容疑の重要参考人として警察署の留置場に居られた事だ。

 どうしようかと考えていると偶然、逃げ出した垂水と再開した。

「助けてくれ」と言うので人気の少ない例の浜辺へと連れて行った。

 なるべく海に落としやすいよう海際を歩かせた。

 隙が生まれた瞬間、垂水を海へ思いっきり突き飛ばしよろめきながら倒れた。

 運よく波打ち際じゃなかったので、詩は両腕を押さえる形で馬乗りなり頭を必死押さえつけて溺死させた。

「という風に殺しました」淡々と答えた詩の顔はどこかスッキリしたように見えた。

「ありがとうございました」

 長四郎は肥後に外で話したいことがあるとアイコンタクトをし、取調室を出た。

 少し離れた所で肥後が感想を求めてきた。

「どう?」

「出来すぎてますね。あの短期間になせる業じゃない」

「やっぱり、そう思うよね」

「ええ。それより絢ちゃんは?」

「残った2人の取り調べ。向こうは向こうで難航しているらしい」

「そうですか。あの一度、ホテルに戻りたいんですけど」

「了解」

 こうして、長四郎と肥後はホテルに戻り捜査することになった。

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