復讐-14
森井に似た男は那覇港船客待合所で乗船の手続きを済ませ、乗船案内まで共用のベンチで待つことにした。
5分程経った辺りだろうか。
「どうも、すいません」と断りを入れて男を挟むように誰かが座った。
今日は平日なので混んでないのに隣に座るとはどういう奴なんだと思い、隣に座った人物を見ると、つい1時間前に部屋を訪ねてきた記者2人つまりは長四郎と燐であった。
「先程はどうも、経文卸さん」と長四郎が切り出す。
「経文 卸? 誰ですか。それ」
「またまたぁー、僕を助けてくれたじゃないですか」
「私が貴方を? 何かの間違いでしょう」
「では、貴方のお名前は?」今度は燐が男を問うた。
「私は、も」男がそう言いかけた時、長四郎が「森井」と一足早く答えた。
「ご存知じゃないですか」
男の背中に冷や汗が流れるが悟られまいと必死で平然を装う。
「そうですね。でも、変なんですよ。本当の森井さんは貴方の後ろに居るんですから」
長四郎は後ろを振り向くとそこには誰も居なかった。
「誰も居ないじゃないですか」心の中でほっと男は安堵した。
「あり?」長四郎はこんなはずじゃなかったと辺りをキョロキョロと見回す。
「ちょっと、タイミングが早かったんじゃない?」燐がすかさず文句を言う。
「いや、声かける前に絢ちゃんから後5分でこっちに来るって」
「目安でしょ。それ。バカじゃないの?」
「バ、バカはないだろう。このヒステリックJKがっ!!」
男をほっぽいて痴話喧嘩を始める長四郎と燐。
その隙に男はこの場から立ち去ろうとすると『立つな!!』二人同時に一喝され「はい、すいません」と謝罪し逃げきれないそう思い素直に腰を下ろした。
それから約10分、男を間に挟みながら長四郎と燐は口論を続ける。
逃げたくても逃げられないこの状況で男は天に救いを求めたその時だった。
「また喧嘩してる。ほら、連れて来ましたよ。長さん」
2人の喧嘩を仲裁する形? で絢巡査長が入ってくる。
「ありがとう。絢ちゃん」長四郎は絢巡査長に礼を言い燐には舌打ちする。
気を取り直す形で咳払いをし、男を見て話を再開させる。
「申し訳ない」最初にそう前置きし「本当の森井さんはこの人です」長四郎は絢巡査長の隣にいる森井に目を向けると森井はそっくりな男に話始めた。
「俺に黙って何処に行こうって言うんだよ」
「す、すまない」森井に謝る男。
「さ、本当の森井さんが現れたので貴方の正体を教えてもらえますよね?」
「あんたの言う通り、俺は経文 卸だ」
遂に男は自分の正体が経文 取根男の息子・経文卸だと認めた。
「一連の事件の犯人も貴方が?」燐が質問すると「それは少し違う」と何故か卸ではなく長四郎が答えた。
「なんで、あんたが答えるのよ」
喰ってかかる燐を無視して長四郎は自分の推理を披露する。
「この事件の発端は経文 取根男さんの暴行事件から始まります。この事件のその後について警視庁の知り合いの刑事に調べてもらいました。
貴方のお父さんは事件から3年後に他界されていますね。原因は神経障害による呼吸困難とのことでしたよね?」
「その通りだ。お袋も後を追うように親父の死から1年後に病気で亡くなった。スキルス性の末期がんだったよ。親父の介護に追われた結果だと俺は今でも思っている。
だが、お袋が死んだのは親父のせいとは思っていない。全ては親父をあんな体にしたゴミどもだっ!!」卸は悔しがるように自分の膝を拳で叩く。
「それで復讐を?」
燐の言葉に頷いて認める卸は目に涙を溜める。
「そこで男達の復讐を計画した貴方は男達の身辺調査を開始し、凶器や殺害方法も同時に思案した」
「そうだ。そして、ある程度の準備は仕上がり後はゴミどもを殺す舞台場を用意するだけとだった」
「丁度同時期に、花火 詩さんのご主人が殺害される事件がその時に起きた」
「そこまで分かっているのか。凄いな、あんた」
「いえいえ」謙遜する長四郎。
「で、続きを」燐が早く聞かせてくれといった顔で卸を見つめる。
「あのニュースを見た時にピンっと来たんだよ。もしかして、ゴミどもの仕業じゃないかなって。あの男達の調査をしていたおかげであいつらの居住範囲は知っていたし、事件が起きた場所もその近所だったこともあり、俺は奴らがたむろしている場所へと向かった。
何ならそこで殺そうと思ってな」
「でも、辞めた。それは何故?」
「あいつらの言葉を聞いて、簡単に死なせたくはない。絶頂からどん底に叩き落としてから殺してやりたい。それで、被害者遺族の花火さんを誘って実行に移した」
「その言葉ってどんなのだったのですか?」
燐のこの質問に聞くところはそこじゃないだろう。そう思った長四郎であったが動機理由を聞く為にも卸の言葉に耳を傾ける。
「「あのおっさん、大した金持ってなかったな」そう言いやがったんだ。その時、悟ったんだよ。ここでゴミどもを殺しても残された花火さんの心は晴れない。なら、いっそ一緒に殺害して貰おう。そう考えて、彼女に接触した」
「警察に通報される可能性だってあるのに。どうして、その様なリスクを?」絢巡査長がここで質問をした。
「そうだな。遺族の人なら俺の気持ちが理解できるそう思った。もし、通報された時は、された時で捕まる前にゴミどもを殺そうそう計画していた」
「成程」絢巡査長は疑問が解決し納得する。
「私に聞きたいことは?」
「貴方と森井さんの関係は?」
「双子の兄弟」また卸が答える前に長四郎が燐の疑問に答えた。
「そう。私とこいつは、生き別れた兄弟。大げさに言えばそういった所」
「兄の言う通りです。私の両親は子供が作れない夫婦の所に養子縁組で僕を迎え入れたんです。それ以降も付き合いはありましたし、物心がついた時には両親からこの話を聞かされましたので、親戚と言うよりかは兄弟として互い接していました」
「そうだったんですか」
「で、顔がそっくりなので貴方は利用された」
「そのようですね。どうして、俺に言ってくれなかったんだ?」
長四郎の意見に同意すると共に、自分を頼らなかった兄に憤りを感じる森井。
「お前には残された両親がいるからだ」
卸の両親は自分の両親でもある。そう言いたかったが、存命する育ての両親の顔が浮かび言葉を飲み込んだ。卸の思いを無駄にしない為に。
「詳しい話をここで聞くのはあれなので、本来聞くべき場所に移動しましょう」
長四郎の言葉に「そうだな」と素直に従う卸は立ち上がり、警察署へ向かう覚悟を決める。
「そうだ。どうしても聞きたいことが」
「何だ?」
「詩さんの供述内容は、ほぼ事実だと思っているのですがその所はどうなんでしょう?」
「あんたの言う通り、彼女の供述は俺が関わっていないようになっているだけでそれ以外は事実だ。にしても、あんた何者だ? ただの警察官には見えないが」と聞いてくる卸に長四郎はこう答えた。
「俺は、警察官じゃなくて探偵。しかも、女子高生と共にやって来る探偵です」
「ふっ、そうか」
その回答を聞いた卸の口がほころび、到着したばかりの肥後にその身柄をチブル警察署へと移送されるのだった。
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