詐欺-6

 管理人のお爺さんから貰った500mlのペットボトルのお茶を飲みながら、切り札の到着を待つ長四郎と燐。

 30分後、その切り札が赤海の部屋に到着した。

「はぁ、はぁっ」息を切らしながら、玄関口でへたり込む切り札。

「遅いぞ。切り札」

 長四郎がやれやれと言った感じで抱き起し、配信部屋と運んだ。

「す、すいません。運動不足なのもので」

地牛ちぎゅう君さぁ、同じ高校生なのにだらしない」

 燐は切り札として呼んだ地牛に冷たい言葉を送る。

「あんな事言ってるけど、ラモちゃんもへばってたからな」

「やっぱり」と長四郎の言葉に納得する地牛。

「何、納得してるのよ!!」

「ご、ごめん。それで僕を呼んだ訳を聞かせてください」

「そうだったな。実はこのパソコンのロックを解除してもらいたい」

 長四郎はそう言って、デスクトップパソコンを指差す。

「ラジャー」地牛はサムズアップしながら返事をし、USBメモリをデスクトップパソコンに差し込むと、パスワード解除プログラムが作動し始めた。

「これで今、パスワードを解析、解除していますから」

「お~すごっ」長四郎が感心していると地牛が「ここって、へケべケの部屋ですよね?」と質問した。

「ご名答。よく分かったな」

「いや、ウチの学校で起きた事件ですよ。分かって、当然じゃないですか」

「そうだな。お、終わったみたいだぞ」

 解析が終了し、パスワードが解除されデスクトップ画面に変わった。

「あの、お調べになりたいことは?」

「奴が抱えていたタレコミが知りたいかな」

「では、SNSアカウントのDM、メール、無料通話アプリのメッセージ等を調べてみますね」

「宜しくぅ~」長四郎はそう返事し、先程から姿の見えない燐を捜索する。

 部屋数は少ないので、燐はすぐに見つかった。

 燐はキッチンで冷蔵庫の中を覗いていた。

「何か変な物でもあった?」長四郎がそう答えると燐は首を横に振り否定した。

「この人、配信で稼いでいたのに自炊していたんだと思って」

「え?」

 長四郎が冷蔵庫の中を見ると野菜や調味料、飲み物等で満杯になっていた。

「確かに、自炊していたみたいだな」

 部屋はゴミ屋敷に近い物なのだが、弁当の柄といった物は皆無に等しくジャンプ、サンデー、マガジン、ガンガン等の漫画誌、空になったペットボトル、使い古されたティッシュばかりではあった。

 少し臭うのは、直近で作った料理の切れぱっし等の生ごみだろうと長四郎は考えた。

「なんか、部屋も質素だし。金持ちっぽくないよね?」

「そんなもんじゃねぇか? 金持ってますアピールしていると変なのが寄ってきたりするしな。それにここの住人は配信をやる際、真っ暗な部屋で配信をしていたからここを特定されないような対策はバッチリだった」

「ふーん、そうなんだ」

「ラモちゃん、へケべケの配信とか見ないの?」

「見ないよ」

「ゴシップネタとか好きそうなのに意外だな」

「それ、私の事バカにしてる?」

「とんでもない」

 全力で首を横に振り否定する長四郎に「データ、集まりましたぁ~」という地牛の声が配信部屋から聞こえてきたので、燐から逃げるように移動した。

「で、どうだった?」成果を尋ねる長四郎。

「ここからは新様に確認してもらわないと?」

「新様?」

「いやだって、あなた徳田とくだ 新之助しんのすけって言うんでしょ? だから、新様じゃないですか」

「ああ、そう言えばそうだったな」

 長四郎は地牛に名前を聞かれた時、徳田新之助と名乗った事を思い出した。

 この時の事を知りたい方は第玖話-オニ-16を読んでみて下さい。

「じゃあ、新様で許可する」

「それは、どうも」と地牛はそう返答し、モニターに視線を移す。

「どれどれぇ~」

 長四郎も地牛と一緒になってモニターを見て、事件に繋がりそうなタレコミを探す。

「こんなに多いと大変だなぁ~」吞気に長四郎は画面に映っているタレコミを見る。

「ホントですよ。全部見て言っていたら、明日までかかりますよ。一応、明日学校なんで」

「あ、ホントに。偉いなぁ~ちゃんと、学校に行こうって言うその精神が素晴らしいもの。誰かさんとは大違い」

「ねぇ、誰かさんってだぁ~れ?」

 燐は満面の笑みで長四郎にヘッドロックをかけ絞めあげる。

「あ、昔のボキのことでぇ~す」

「あら、そぉ~」そう言いながら、長四郎を解放する燐。

「ゲホっ、ゲホっ。地牛、タレコミをKuunhuber限定に絞り込んでくれるか?」

「了解しました」

 すぐさま、キーボードを叩きKunnhuberだけの情報に絞り込んだ。

「出ましたよ」地牛に言われ、長四郎は目ぼしいものがないか確認する。

 このKuunhuberだけのタレコミでも百件は超えているのだが、長四郎は一ヶ月前に来ていたタレコミに食いついた。

「なぁ、この“捜索願い”って言う件名のタレコミを見せてくれないか?」

「はい」

 地牛はそのタレコミ情報のメールを開いた。

 そこには、次のように書かれていた。


 いつも配信を楽しく拝見しております。


 今回、連絡差し上げたのはへケべケさんの事務所に関わる事案だと思ったからです。


 私の姉は、民チャンネルというKuunhubeチャンネルをやっているのですが、先日、へケべケさんが所属する事務所Kuunに行ったきり帰って来ていません。


 同業者のKuunhuberの企画に参加しているのでしょうか?


 姉は失踪前、Kunnの代表取締役から誘いを受けたと言っておりました。


 何かご存知であれば、お返事ください。


 お忙しい中、ご連絡してしまい申し訳ございません。


 以上で、文面は終わっていた。

「どう思う? 地牛」

「どうでしょうねぇ~でも、失踪とは穏やかじゃないですね」

「ねぇ、事件の話と逸ている気がするんだけど?」燐はこの失踪事件について調べようとする二人にツッコミを入れる。

「んなことは分かっているってぇーの。へケべケは、何か返信しているか?」

「えーっと」地牛は長四郎の問いに応えるように返信欄を見るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る