オニ-11

「被疑者として捕まえていた少年の一人が犯行を自供しました」そう齋藤刑事に告げられた長四郎と一川警部は高笑いする。

「モブ刑事、何の冗談だよ?」長四郎はひきつけを起こしながら齋藤刑事に質問する。

「冗談じゃありません!」

「じゃあ、古典的な形で落としたって事?」一川警部も笑い涙を拭いながら尋ねると「そ、そういう事です」齋藤刑事が悔しそうな顔をして答えると二人は再び大笑いする。

「ちょっと、どうして笑うんですか!!」

 この一大事に笑い転げる二人に注意する齋藤刑事の言葉は、彼らの耳に入っていなかった。

「いや、悪い。悪い。あまりにも面白かったものでな。ねぇ、一川さん」

「長さんの言う通りばい」

「あの何がそんなにおかしいんですか?」

「いやだって、警察官としてのプライドを大事にした結果が冤罪を生むんだもん。ここでドヤってた時の顔を思い出すと。あ~もうダメっ」

 長四郎は堪えきれなくなり今度は、声を殺して笑い始める。

「一川さんからも何か言ってくださいよ」流石に手に負えないと思った齋藤刑事は一川警部に頼むがこちらも声を殺して肩を大きく揺らしながら笑っていた。

 この光景を見て、齋藤刑事は深いため息をつくのであった。

 二人が落ち着くまで、約10分程かかった。

「良いですか?」二人に話しても良いか確認すると『はい、大丈夫です』と二重唱で返答した。

「自供したのは風間でした」

「風間かよ。だから、風間なんだよ!」何故か、ご立腹の長四郎に「あんたは、風間の何なのだ」とツッコミを入れたくなるが、齋藤刑事はグッと堪え話を続けた。

「風間は事件当夜、事件現場に行くと見知らぬサラリーマンが居たとのことです。これから集会なので立ち去って貰おうと思い声を掛けると、サラリーマンは酔っていたらしく酷くウザ絡みをして来て、カッとなって刺殺したと言うのが彼の供述です」

「あれ? 被害者からアルコールって検出されていたっけ?」

「検出されていませんでしたが、これを」

 一川警部の疑問に答え、齋藤刑事は平凡の死体検案書を一枚手渡す。

「あ、死体検案書にはアルコールが検出されたって書いてあるね。しかも、泥酔状態のアルコール量が書いてあるばい」そう言って、長四郎にも見せると「あ、ホントだ」という返事だけが返ってくる。

「では、これを見てください」

 齋藤刑事がもう一枚の死体検案書を渡す。それも平凡の死体検案書であった。

 長四郎と一川警部は顔をくっつけ合わせて二枚の検案書を読む。

「何が違うとね?」齋藤刑事に尋ねると長四郎が「アルコールですよ。アルコール」と齋藤刑事よりも早く答えた。

「熱海さんが仰る通りです。アルコールが被害者から検出された事が追記されたんです」

 齋藤刑事は補足説明をした。

「という事は、また司法解剖をしたって事かい? モブ刑事」長四郎の問いに「いいえ、違います」と答え説明をする。

「実は、この文言が急に出て来たんです」

「急に?」一川警部は鋭い目つきで齋藤刑事を見る。

「ええ、そうです。今日これを渡された時はびっくりしました」

「よくこの原本を持っていたな」

「熱海さん、よくぞ気づいてくれました。実はこの原本、本来は命捜班の人達に見せる物で僕が保管していたんですけど。ここへ来た時、持ってくるのを忘れたみたいで机の中に保管してあったんです」

「成程ね」と長四郎が一人納得していると、一川警部が「この原本、預かっても良か?」と尋ねる。

「はい、お願いします」齋藤刑事は一礼し頼む。

「あ、そうだ。お主は検索能力に長けていたな」

「は、はぁ」長四郎にいきなりそう言われ、戸惑い気味の齋藤刑事。

「じゃ、この会社の社員が変死を遂げていないか。調べてくれ」

 長四郎は珠美が勤めていた有限会社デッカ社員が令和2年の2月に事件に巻き込まれていないか、照会を頼む。

 齋藤刑事は何の事か分からないまま、データに照会を掛ける。

 ものの30秒程で、照会を終えた齋藤刑事は「これがHitしましたけど」と二人にデータを見せる。

「あーやっぱり、事件は起きとったみたいやね。長さん」

「そうですね」

 そんな二人の会話の内容についていけなかったが、今回の事件に関わっている事は間違いないので事件の概要に目を通す。

 事件は、令和2年2月10日に発生した。有限会社デッカに勤務する上山うえやま 弘子ひろこが奥多摩の山中の吊り橋の下で転落遺体となっている所を発見された。

 上山弘子の服装はスーツ姿で、帰り道に何者かに拉致されて吊り橋に運ばれ投げ落とされたというのが捜査本部の見解であった。

 だが、犯人の糸口は見えず事件は迷宮入りしていた。

「これで犯人が絞り込めたね。長さん」

「ええ、後はどう追い詰めるかですね」

「あの二人で勝手に話を進めないで下さい。自分にも説明を願えますか?」

「ったく、これだからモブ刑事は。良いだろう。説明しよう。メカの素とはヤッターワンを強くするエネルギーの一種なのだ」

「はい?」齋藤刑事は意味が分からず聞き返すと「そんなんだから、モブ刑事なんだよ。ねぇ、一川さん」長四郎が同意を求めると「そやね」とだけ一川警部は答えた。

「こっちは真面目に聞いているんです!」少し語気を強める齋藤刑事。

「へいへい。分かりましたよ」

 長四郎は妻の珠美も今回の事件に関わっている可能性がある事を教えた。

「成程、そういう事でしたか」

 齋藤刑事は納得したといった感じで、一人頷く。

「理解してくれたのは、良いんだけど。これからどうするかだ。その風間って子が自供したんなら他のお友達も噓の自供し始めるかもだな」

「それは防ぎたいです」食い気味に齋藤刑事は発言する。

「にしても、あの二人を引っ張る糸口がないのが痛いよなぁ」長四郎は打つ手がないといった感じで天井を見上げていると「それはどうでしょうか?」と声がした。

 三人が振り向くと絢巡査長が部屋の入口に立っていた。

「絢ちゃん、何か見つけたと?」一川警部の質問に「はい」と即答する絢巡査長は一枚の写真を三人に見せる。

 その写真を見た長四郎達は声を揃えて『これは!?』と驚くのだった。

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