オニ-12

『これは!?』

 長四郎、一川警部、齋藤刑事は絢巡査長が持ち帰った写真を見て驚愕する。

 その写真には、一台の事故を起こした車が写っていた。

「この車は?」齋藤刑事が説明を求めると「川尻が二件目に起こした際に使用した車の写真」と答えた。

「あー自動車工場の写真かぁ~これ」長四郎は取られた場所についての感想を述べる。

「よう見つけて来たね。絢ちゃん」

「ありがとうございます。一川さん」

「で、これはどこの自動車工場で見つけてきたの?」

「事件現場の公園近くの板金工場で見つけました」

「写真の通りだったら、ボンネット思いっきり引っ込んでいるけん。犯人が持ち込んだって事で良かと? 絢ちゃん」

「そうです。一川さん」

「犯人の特徴は? 男ですか?」齋藤刑事の質問に「女だろ?」と続けて長四郎が質問する。

「よく分からりましたね。長さん」

「まぁねぇ~」

「その女って、川尻珠美ですか?」

「そこまではちょっと、分からない」

 絢巡査長は、齋藤刑事の質問に難しいそうな顔で答える。

「じゃあ、顔写真がいるね。長さん」

「ええ、そうですね」と答える長四郎の後ろから「あるわよ。近影の顔写真」と声が聞こえた。

 部屋に居る大人四人が振り向くと燐がドヤ顔で立っていた。

「はい、これ。川尻珠美の履歴書です」

 燐は絢巡査長に履歴書のコピーを渡した。

「凄い。これをどこで?」絢巡査長が出所を尋ねると「それは聞かない方がいいと思うぜ」燐ではなく長四郎が返答した。

 その意味を察したのか、絢巡査長はそれ以上の事は聞かなかった。

「それでどうだった? 川尻珠美と接触してみた感想は?」

「うーん、写真と比べて美人だった?」その答えに大人達は呆れのため息をつく。

「な、何よ。その他にもあるわよ」

「それは何?」長四郎は冷ややかな感じで質問した。

「血生臭い匂いがした」

「それって・・・・・・」齋藤刑事は今まで誤魔化された回答がすぐそこにあったので、拍子抜けする。

「やっぱりか」

「やっぱりって事は、川尻珠美も犯人だって事?」燐の問いに「そう」とだけ一川警部は返事した。

「これからどうしますか?」絢巡査長がこれからの捜査方針について尋ねる。

「うーん、でもこの二人を追い詰める証拠無かけんねー参ったなぁー」一川警部は腕を組み苦悶の表情を浮かべていると、絢巡査長が持ち帰った写真を見ていた長四郎が口を開いた。

「そうでもないかもですよ」

「どういう事? 長さん」

「これ、よく見てください」そう言って、一川警部に写真を渡す。

「これがどうしたとね?」

 一川警部は受け取り、その意味を考える。

 だが、一川警部はその意味が分からず困っていると横で見ていた齋藤刑事が「バンパーが無いですね」と言った。

「正解!! 多分、犯人が持ち去ったんだろうな」

「どうして、この写真を見ただけで分かるの?」

「どうしてって、その写真にはバンパーは映ってないし。普通は凹んだバンパーも修理するだろう。と言っても交換にはなるだろうけど」

「いや、工場の人がバンパーを外した状態で写真を撮ったかもよ」燐が反論すると長四郎は嘲笑しながら「それだったら、絢ちゃんが壊れたバンパーの写真を持って帰って来るでしょ」と答えると絢巡査長に救いを求める目で見る燐。

「いや、私を見られても困るんだけど」

「あーあ、絢ちゃんを困らした」

「うるさい!」燐のストレートキックが長四郎の鳩尾に炸裂され、そのまま床に突っ伏してしまう。

 その光景を見た齋藤刑事は、この女の子には逆らわないようにしようと心に誓う。

「そのバンパーの行方を追うんですか?」燐の怒りに触れないように恐る恐る話す。

「それは・・・・・・・」絢巡査長は即答せず、突っ伏している長四郎に視線を落とす。

 床に突っ伏している長四郎が「追うのだったら、今回の凶器を追う方が固いというか。これは俺の想像だけど、凶器を家に保存しているんじゃないかな」そう言いながら顔を上げる。

「それが長さんの言う証って事で良かと?」

「流石、一川さん。よく分かっていらっしゃる」

「え、その話で行くと犯人に「あなた、凶器持ってますよね?」って直接尋ねる話に聞こえるんだけど」

「ラモちゃん、そんな訳ないじゃん。誰が、「はい、凶器持っています」って答える奴がいるんだよ」

「あんた、喧嘩売ってんの?」燐に詰められ長四郎は視線を合わせないように「いえ、滅相もございません」とだけ返事する。

「とにかく、その重要参考人に接触しないと始まらないですよ」齋藤刑事のこの言葉に「んな事は、分かっているぅぅぅぅぅぅぅんだよ!」と水を差す長四郎。

「調子に乗るな!」綺麗なツッコミの叩きを入れる燐。

「でも、ストレートじゃいけないからね。どうしたもんやろ?」

「そうですね」一川警部の意見に同調し考え始める絢巡査長。

「それなら、言い手がありますよ」真っ先に発言したのは燐であった。

「ラモちゃん、何か良い手があるの?」

「はい」絢巡査長の問いに自信満々に答える。

「あの君、非合法な手段はダメだよ」一応、齋藤刑事は釘を刺すが燐は気にしないといった感じで話を続けた。

「実はあの会社もサーバーにハッキングがかけられたらしいんですよね。これって、威力業務妨害ですよね?」

「じゃあ、そこから突っつくとしますか!」

「待ってください! 今回の事件と何にも関係ないじゃないですか!!」

 一川警部が立てた捜査方針に食ってかかる齋藤刑事に「そこから、重要参考人と関わり合いを持つんだよ」と宥めるように長四郎は言った。

「そ、そうなんですかぁ~」

 こいつらは、いつもこうなのかといった顔で齋藤刑事は困惑する。

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