能力-5

 具志堅が持ってきた車載カメラの映像を、長四郎は確認していた。

「いい加減、私達にも見せなさいよ」

 燐は長四郎に苦言を呈すが、長四郎は返事も返さず動画を見入っている。

「はぁ~ダメみたいです」

 長四郎の真後ろに座っている一川警部と絢巡査長に報告する燐だったが、二人は聞いていないといった感じで自分の作業に集中しているようだった。

 一人することのない燐は不服そうな顔をし、端から端を行ったり来たりする。

「はっははっはは」突如、長四郎が笑い出した。

「何か分かったの?」

「さっぱり、分からない」

「またそれ~」燐は呆れかえる。

「それ、ガリレオのモノマネですか?」

 絢巡査長が反応を示すと、長四郎は嬉しそうに「正解だ」と福山雅治のモノマネをしながら答える。

「懐かしいですね」

「絢ちゃんも世代のドラマか」

「はい。小学生の頃、見てましたもん」

「俺も俺も」

「そんな話より事件を解決しなきゃ」燐が懐かしむ二人にツッコミを入れる。

「そう。ガツガツしなさんなよ」

「ガツガツするわよ」

「ラモちゃん、ガツガツしても冤罪を生むだけやけん」と一川警部は冷静な口調で燐を諭す。

「でも、そんな祐著なこと言っていたら犯人に逃げられますよ」

 燐が一川警部に反論すると長四郎が鼻で笑った。

「何がおかしいの?」

「おかしいねぇ~」

 長四郎はがそう答えると燐は拳を固め発車準備に入る。

「おいおい、殴るのは無しだぜ」長四郎は身を守る姿勢を取りながら言う。

「あんたが変な事を言わなきゃ良いだけの事でしょ?」

「でも、言いたくなるから」

「ああっ!?」燐は面血をきりながら長四郎に詰め寄る。

「おー怖っ! そんな顔していると嫁の貰い手がなくなるぜ」

 その言葉を言い終えた瞬間、「トゥドゥーン!!! 熱海―アウトー」燐のその言葉と共に長四郎の腹部に強い衝撃が走る。

 床に倒れている長四郎を燐は冷徹な目を向け見下ろす。

「立て」

 燐にそう言われ長四郎は立ち上がるとぐすっ、ぐすっと涙を流していた。

「あ~ラモちゃん。長さん、泣かせたぁ~」

 一川警部が小学生みたいなことを言う。

「アンッ!?」今度は一川警部に睨みを利かせる燐に「何でもありません」俯きながら一川警部はしゅんとする。

「私のことは嫌いになっても、AKB48のことは嫌いにならないで下さい!!」長四郎は涙しながらそう言うと燐は「はいはい」と軽く受け流す。

「さ、お遊びはここまでにして。絢ちゃん、確認してもらいたいことがあるんだけど」

「はい。何でしょうか?」

「大学の関係者に、この映像若しくはこの動画に映っている水川教授らしき人物の目撃情報がないか調べて来てくれない? 捜査員多めで」

「分かりました」絢巡査長は目配せで一川警部に了承を取ると一川警部は頷き了承した旨を伝えると、絢巡査長は所轄署の刑事達を率いて都帝大学に向かった。

「では、サイキック木馬とラモちゃんが怪しいというプロデューサーとディレクターを呼んできてください」

「あいよっ!!」

 一川警部はすぐさま、行動に移した。

 サイキック木馬、プロデューサーの丹湯、ディレクターの大判がその場に集められた。

 長四郎は並んで立つ三人の靴をさりげなく目を向けると、丹湯と大判の靴に泥汚れが付いていた。

「私達に聞きたいこととは何でしょうか?」

 最初に話を切り出したのは丹湯であった。

「水川教授についてです。事件前日にプロデューサーの・・・・・・」

「丹湯です」

「丹湯さん。丹湯さんと大判さんは事件前日に水川教授にお会いになったんですよね?」

「ええ、そうですだよな。大判」大判に確認をすると「はい」とだけ答えた。

「では、サイキック木馬。貴方に尋ねます。貴方が超能力で事件前日に超能力で殺害したそう仰っていました。その時の状況が分かるのであれば、お教え願いたい」

「分かりました」

 サイキック木馬はそう返事し、目をつむると身体を小刻みに揺らし始めた。

 透視をした時のように。

「ラモちゃん、動画と同じ事やっている」

 長四郎は半笑いでサイキック木馬を指さす。

「クハァッ!!」サイキック木馬は目を見開き、ハァハァと息を切らす。

「何か分かりましたか?」長四郎は笑うのを必死に堪え声を震わせながら質問する。

 長四郎のその態度に「えっ」と驚きつつサイキック木馬は「ええ」と一言返事した。

「では、その状況を説明してください」

「は、はい。水川教授がタクシーを降りて校舎に入っていくんです。そして、人気の少ない廊下を歩いている所で紐が勝手に水川教授の首に巻き付いたんです」

「そして、その紐が水川教授の首を締めあげた」長四郎の発言に頷くサイキック木馬。

「その後は、貴方が死体をこの会場にテレポートさせるまで見つからなかったというわけですか」

「はい。その通りです」サイキック木馬は長四郎の推理を認めた。

「凄い。これは視聴率うなぎ上りだ!」嬉しそうに喜ぶ丹湯を見て燐はスタッフの話の信憑性が高いと思うのだった。

「そうですか・・・・・・」長四郎は少し間をおき丹湯に話しかけた。

「丹湯さんが水川教授と別れる際、それか水川教授がこちらの会場のチェックをしている時に自分が超能力で殺されるかもしれないとかその様な事は言っていませんでしたか?」

「いいえ」自信満々に即答する丹湯と同意するように大きく頷く大判。

「ふっ、恐るべし超能力といった所か」

 長四郎はやれやれといった感じで、天井を見上げる。

「僕は自分の能力が怖い・・・・・・・」サイキック木馬は自分の両手を見ながら、自戒の念に囚われているようだった。

「すみませんが、我々は調べたいことがまだありますのでここで待っていて頂けますか?」

「それは、構いませんが」丹湯はそう返答した。

「では、ここでお待ちを」

 長四郎はそう言い燐、一川警部を連れてロビーを後にした。

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