能力-4

「遅い!!」

 長四郎は一川警部達を連れて来た燐を𠮟りつける。

 燐が一川警部達を呼びに行ってから15分以上経過していたからだった。

「やかましいわ!!!」燐のストレートキックが長四郎にお見舞いされる。

「ふべしっ!!」

 長四郎は断末魔と共に卒倒する。

「それで私に聞きたいことというのは?」

 大判が用件を尋ねると長四郎はすくっと立ち上がり、「車についてです」そう答えた。

「車ですか?」

「ええ、昨日乗っていた車についてです。どの車ですか?」

 駐車場に止まっている車を見ながら、長四郎は大判に質問した。

 大判は昨日乗っていた車の前に移動し、「この車です」と指をさして答えた。

 車は至って普通の日本車の乗用車であった。

「これですか・・・・・・」

 長四郎は車の周囲をグルグルと回りながら、監察をしていた。

「あの私、疑われているんですか?」

 隣に突っ立っている一川警部に大判が質問した。

「いや、それはないんじゃないですかね?」

「そうですか」

「あの、ドア開けてもらえますか?」

 長四郎の依頼の答える形で、車のロックを解除する。

「ありがとうございます」礼を言い助手席のドアを開けて中を観察する。

 車内は汚かった。

 車は2,3年前に発売された車種なのだが、内装は10年経過したように汚れており吸い殻ケースには吸い終えたタバコが山積みになっており、脱ぎぱなっしの衣類や靴が後部座席に投げ出されていた。

 車中泊をしていると言っても過言ではない雰囲気を醸しており、この車で送迎されるのは嫌だなと長四郎は思った。

「昨日もこの状態でしたか?」

 車内から大判に質問をすると「はい、そうですけど・・・・・・」大判は答えた。

「成程」

 今度はシートに目を向けると座面部分には変わった所は無かったが、背もたれの上にあるヘッドレストを支える支柱に変なくぼみを見つけた。

 まるで、後ろから引っ張ったような歪みがあった。

 その歪みのせいで、ヘッドレストも後方に傾いているようだった。

 長四郎は確かめる為、後部座席に腰を下ろしてヘッドレストに頭をもたれかかると確かにヘッドレストは後方に倒れているような感じがした。

「ふん」と鼻を鳴らし助手席から降りると今度は、その真後ろの後部座席のドアを開ける。

 後部座席の足元に落ちている服に汚れが付いているのを見つけると口元を緩めニヤッと笑う長四郎。

 ドアを閉めると「ありがとうございました」大判に礼を言い一川警部に話しかける。

「一川さん、この車に鑑識は?」

「鑑識はしとらんよ。それがどうかしたと?」

「では、鑑識をかけてください」

「どうして?」燐が説明を求める。

「水川教授が拉致された可能性があるかもしれないからな。その現場がこの車かもしれない」

「そういうことね」燐は納得する。

 すると、モブ刑事が走りながらこちらに来た。

「一川警部。新たな目撃情報です」

「何ね?」

「昨日の15時頃、水川教授らしき人物を載せたというタクシー運転手からの証言を得られました」モブ刑事がそう報告した。

「ちょっと! 教授、拉致されていないじゃない!!」

 燐は長四郎の胸倉を掴み揺さぶる。

「俺は可能性を示しただけだって!!」長四郎は揺さぶられながら、必死の弁解をする。

「何が可能性よっ」

 揺さぶる手を緩めない燐を制止する絢巡査長。

「ラモちゃん、そこまでにして。長さん、グロッキーになっているから」

 その言葉を受け、長四郎を見ると白目を向きグロッキー状態になっている長四郎の姿があった。

「きゃっ!!」

 燐が手を放したと同時に、長四郎は地面に倒れ込むのだった。

 場所を移して観覧客が居たロビーでタクシー運転手の話を聞く長四郎達四人。

 タクシー運転手の名は具志堅ぐしけんと言い、一川警部と絢巡査長に水川教授を乗せた時の状況を喋っていた。

 横で話を聞く長四郎と燐は話の内容は入ってこず、目を点にして凝視していた。

 それは何故か。その容姿は沖縄で出会ったタクシー運転手の具志堅にそっくりだったのだ。

 これについて詳しく知りたい方は「探偵は女子高生と共にやって来る。」第陸話-復讐を読んで下さい♡

 宣伝にお付き合い頂きありがとうございます。では、話に戻ります。

「それで水川教授を乗せて、都帝大学まで送っていたと」絢巡査長が聞いた内容を再度確認する。

「水川教授かどうかは分かりませんが」具志堅はそう答えた。

「すいません。沖縄にご兄弟は?」長四郎が事件に関係ない質問を具志堅にした。

「ちょっと、長さん」絢巡査長は窘めるのだが、具志堅はびっくりした顔で「どうして分かるんですか?」と長四郎に聞く。

「いえ、貴方にそっくりなタクシー運転手さんに出会いましてね。もしやと思いまして」

「たぶんその人は、ティーチニィニィですね」

「ティーチニィニィ?」燐は馴染みのない言葉で首を傾げると自分が方言を話していると自覚した具志堅は「一番目の兄っていう意味です。私は6番目です」と訳して答えた。

「そういう事ですか」納得した燐は頷いて返事する。

「では、事件について。水川教授が分からないとおっしゃっていますが、それは何故ですか?」長四郎が事件について質問した。

「客の顔を一人一人覚えているタクシー運転手はそうはいませんよ。接客業は特にそうでしょう」

「そうですね。タクシーには車載カメラは?」

「ありますよ」

「昨日の乗せた時の映像を見せてください」

「分かりました」

 具志堅はタクシーに録画データの入ったSDカードを取りに行った。

「ねぇ、私さ面白い話を聞いたんだけど」

「面白い話?」長四郎は眉をひそめ燐を見る。

「そう、犯人に繋がるかもしれない話」

「ラモちゃん、もったいぶらずに教えて」絢巡査長にそう言われ燐は話し出した。

「実はこの番組のプロデューサーとディレクターがヤラセをしているかもしれないんだって!!」

「それだけ?」と長四郎が言う。

「そうじゃなくて、死体が落ちてきたタイミングとか如何にも出来過ぎだって言いたいの!!」

「という事はだ。ラモちゃん的にはサイキック木馬の殺人を手助けした若しくは、その二人が犯人だ。そう言いたいわけか?」

「さっきからそう言ってんじゃん!」

 燐は長四郎の腕を叩き、その音が静まり返ったロビーに響き渡る。

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