オニ-18

 川尻夫妻が逮捕されてから一週間が経った。

 冤罪で送検されそうになっていた風間達、不良グループは釈放され、ゴリ押しで捜査を推し進めた木谷田課長は懲戒処分が下だった。

 そして、長四郎達はというと事件解決祝いで焼肉へ来ていた。

「いやぁ~長さんの作戦勝ちやったね。さ、飲んで。飲んで」

 一川警部は嬉しそうに、長四郎のグラスにビールを注ぐ。

「どうも。どうも」そう返しながら、注がれたビールを一気に流し込む。

「お~良い飲みっぷりやねぇー」

「一川さん、程々にしてあげてください」

 絢巡査長はそう注意すると『めんご。めんご』と長四郎と一川警部は口を揃えて、謝罪する。

 そんな二人を見て、燐は少し詰まらなさそうに網の上に載った肉をひっくり返す。

「ラモちゃん、どうしたの?」

 燐の様子がおかしいので絢巡査長が理由を聞くと「何でもありません」とどこか寂しそうな顔で返事をする。

「あーラモちゃんはねぇ~川尻からスカウトされてたんだけど、それがあんな事になっちゃって、とん挫したから凹んでんの」

「そういう事」長四郎の言葉に納得した絢巡査長はカルビを食べる。

「違いますっ! あんた、適当な事言ってんじゃないわよ!!」

 長四郎の耳をぎゅっと引っ張り上げる。

「痛たたたたたた」

「この二人はいつも、こんな感じなんですか?」齋藤刑事は恐る恐る絢巡査長に質問する。

「そうだよ。ほら、君も食べな」

「はぁ」

 絢巡査長にそう促され、ロースを口の中に入れると肉汁が口の中いっぱいに広がりかつタレの甘みが白ご飯を引き寄せ、追撃で白ご飯を口の中に入れるとこの世の贅沢と言わんばかりの味が舌を満足させる。

「はぁ~」燐は一人、大きな溜息をつく。

「ラモちゃん、溜息をつきすぎると幸せが逃げてくばい」

「はぁ~」一川警部の助言を聞くもより落ち込む燐。

「マジで、変だよ。ラモちゃん。何があったの?」

 絢巡査長が心配そうに燐に声を掛けると「実は・・・・・・・」何故、落ち込んでいるのか話し始めた。

「あの弥里杉のマスク作るのに思いのほか予算がかかって・・・・・・」

「えっ! 幾らかかったの?」

「百万」燐が答えるよりも先に長四郎が答えた。

「ひゃ、百万!?」

 一番、反応が大きかったのは齋藤刑事であった。

「仕方ないだろう。本物の弥里杉って奴を生贄に出来ないんだから」

「それはそうですけど・・・・・・」齋藤刑事はそこで黙る。

「それで、その請求が親にバレちゃって」

「あーそれで落ち込んどったと」一川警部の言葉に黙って頷く燐。

「百万も使えばそら怒られるわ」

 他人事といった感じで長四郎は肉を頬張る。

「あんたが使わせたんでしょ!!」

「いや、別に払わなくても良かったんだよ」

「はぁ?」燐は眉を上げ、長四郎を睨み付ける。

 では、ここで長四郎が立てた作戦をご紹介しよう。

 長四郎は、地牛がハッキングした内容を知っていると踏みそのハッキング元を明かせば何か動くと推理し、行動を開始した。

 川尻の前で、齋藤刑事がハッキング者をうっかり漏らすという事をしてもらう。

 川尻は得た情報から変蛇内高校に勤務する珠美に、ウラを取るように指示をした。

 そこで、燐の出番である。

 燐が珠美の前で弥里杉がハッキング系に強いと吹聴する。

 それから、弥里杉がいつ襲撃されるか分からなかったが人柱役の弥里杉はパパ活斡旋業者の容疑で警察の取り調べを行う為、学校を暫くお休みするハメになっていた。

 一応、学校には病欠としマスクが出来上がるまでの間、お休みして頂いた。

 そして、マスク完成後、長四郎はそれを被り変蛇内高校の制服を着て登校し、その日のうちに例の事件に運良く巻き込まれ、逮捕することが出来たのだ。

 因みに、平凡協の血が付着した凶器、今まで使用された凶器その一部が川尻夫婦の家から押収され、それが決め手となり過去の事件も訴追されることになった。

 では、現在の話に戻ろう。

「あんたが特殊マスク作れば捜査が進むって言うから、作ってあげたんでしょ!!」

「あげたって・・・・・・それは、どうもありがとうございました。ペコりぃー」

 長四郎はふざけた感じを出しながら頭を下げる。

「で、親御さんからなんて言われたとね?」

「罰として、一ヶ月学校に通う事って言われたらしいっす」

「なんで、あんたが答えんのよ!」

 燐は長四郎の肩に思いっきり肩パンする。

「痛って。はい、暴行事件発生。おい、モブ刑事。この小娘を逮捕しろっ」

 酒を飲んでいるからか。少し気が大きくなる長四郎は齋藤刑事に燐を逮捕するよう指示する。

「あんたさ、酒のチカラ借りて気が大きくなっているかもだけど。私を逮捕させてごらんなさい。報復があるのを覚悟したうえでね」

 燐は指をポキポキと鳴らしながら長四郎に警告をするのだが、その燐の言葉は自分の方に向いていると思った齋藤刑事は高い肉だけをそそくさと焼き食べ終える。

「自分は仕事に戻りますんで」と机に5千円を置いた齋藤刑事はそそくさと店を出て行った。

「ラモちゃん、悪かった。悪かったから許して!!」

 ヘッドロックをかけられながら、謝罪する長四郎は近くに置いてあった高い肉が載った皿を燐に見せる。

「この肉を食べて、落ち着いて下さい!」

「ん? 肉ないじゃないのよぉー」より強く絞め上げる燐。

 長四郎は今にも落ちそうになっているのを見ながら、別の高い皿の肉を焼こうと思い絢巡査長は肉の皿を見ると肉はなかった。

 もう一つの高い皿をもみると皿に載っていなかった。

「ラモちゃん、落ち着いて!」

 絢巡査長がストップをかけるとヘッドロックを辞め「どうしたんですか? 絢さん」と尋ねる。

「高い肉が一枚もないの」

「あ、ホントだ」

「あー斎藤君が、全部食っとたけん」一川警部は吞気にビールを流し込む。

『はぁ!!!』

 女性陣の怒りの声が店中に響く。

「どうして止めなかったんですか!」という燐に「いや、美味しそうに食べるなぁーと思って」と答えた。

「ラモちゃん、征伐!!」

「御意」

 絢巡査長のゴーサインを受け、一川警部にヘッドロックをかける。

「助けて、長さん!」

 スキンヘッドの頭をペチペチと叩きながら、長四郎に助けを求めるが長四郎もグロッキー状態で助けられる状態ではなかった。

「食べ物の恨みは怖いんじゃぁー」

 燐はそう言いながら、一川警部を落とす勢いで絞め上げていく。

「た、助けてぇ~」

 その一川警部の断末魔は、遠くを歩く齋藤刑事の耳に届くのだった。


                                     完

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