有名-7

 そして、例の事件の朝。

 事務所兼自宅で寝ていた長四郎の下に1本の連絡が入った。電話の主は、一川警部であった。

「はい、もしもし」寝起きのガラガラ声で応対する長四郎。

「あ、長さん。朝早くから悪かね。実はね殺人事件が起きたと」

「はぁ」

 どうして俺にそんな話をしてくるのか、と思いながら長四郎は話を聞く。

「いや、単に連絡したわけじゃないとよ。被害者がさ、長さんが追っとう事件と関わりがある人やないかなと思って連絡したんよ」

「分かりました。今すぐ行きます。場所を教えてください」

 長四郎はメモを取る準備を始め「お願いします」とメモに住所を書き記していく。

「では、直ちに向かいますので。待っていてください」

「はぁ~い」

 そこで通話を終了した長四郎は着替えはじめた。

「一川さん、何だって?」別の部屋で寝ていた燐が話しかけてきた。

「何でもねぇーよ。ラモちゃんは、美雪ちゃんの所に行って」

「やだ」

「子供じゃないんだから。駄々ごねないでさ」

「私、まだぴちぴちの17歳。つまりは、子供。だから良いんだよぉ~」

「はぁ~」長四郎は呆れて物も言えず、ただ溜息をつくのだった。

 そうして、事件現場を訪れた2人。

「以上が、俺が知りうる限りの情報です」

 一川警部にこれまでの経緯を伝えた長四郎。

「成程。こん人はストーカー事件に関わっとうわけやないとね」

 一川警部は、被害者・栗栖裕の遺体を見ながら現状を把握した。

「この事件はどの線で捜査されるんですか?」燐が挙手しながら質問する。

「目撃証言があってね。やんちゃな若者達が被害者らしき人物を尾行しとったらしいけん。という事で、おやじ狩りの線で捜査しようかっていう話になっとうよ」

「そうですか。ありがとうございます」燐は礼を言う中、長四郎は栗栖の遺体をまじまじと見つめていた。

「何か気になる事でもあると?」

「いや、おやじ狩りでここまでするかなって。財布は取られていたんですか?」

「財布は残されとったんやけど、金は入っとらんかったばい」

「そうですか。絢ちゃんは今、どうしてるんですか?」

「聞き込みに行っとうよ。絢ちゃんに用?」

「というより、頼みたいことがあるんです」

「頼みたいことって、何?」燐が興味深々に聞いてくる。

「ラモちゃんは知らない方が良いこと」

「あっそ」

 憤慨した燐は事件現場から出て行ってしまった。

「あーあ、怒らしちゃった」一川警部は長四郎の身を案じるような語り口で喋る。

「良いんですよ。ラモちゃん、こうだと思ったら一直線じゃないですか。良くも悪くも」

「まぁ、そうやね。という事は今回の事件が長さんのストーカー事件に関わっとうって事?」

「それを絢ちゃんに調べて欲しいんすよ」

「分かった。あたしから頼んどくけん。そんで、どう事件に関わっとうか教えてくれん?」

「了解です。今回の事件は、人違いで殺されたんじゃないかと」

「人違い?」

「そう本当の標的は、澤村美雪のマネージャーじゃないかと」

「根拠はあると?」

「いやね、先日、澤村美雪のマネージャーから服をってたんですよ。この人」

「ああ、そういう事か。ストーカーが指示を出してマネージャーを襲わせるつもりやったけど、実行犯が勘違いしてこげん事になったって事やね」

「その通りです」

「じゃあ、長さんはそのストーカーが誰かを分かっとうと?」

「勿論。お耳を拝借」

 長四郎は一川警部に自分の推理に基づくストーカーの正体を語ってから事件現場を後にし、美雪の仕事場へと向かった。

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