仲間-16

 長四郎、燐、絢巡査長の三人は夏月会長が講演しているLINE CUBE SHIBUY SHIBUYAへと来た。

「ねぇ、私達ここに来て良かったの?」

 燐は夏月会長から直々に接見禁止令が出されている事に対して、長四郎の意見を伺う。

「良いの。良いの。あのおっさん、予定では今日、殺される予定だから」

「どうして分かるの?」

「勘」燐の問いにそう答えて、会場に向かって歩き出す。

「ラモちゃん、安心して。警護の警察官をたくさん配置しているから」

 絢巡査長に言われた燐は会場周辺を見ると、SPっぽい警察官がウロウロと歩いていた。

「ホントですね」少し安堵する燐だった。

「あのさ、講演終わるのは何時だっけ?」

「え~っと、16時なのであともう少しですね」

 長四郎はそう言われ自分のスマホで時間を確認すると、後10分で16時になろうとしていた。

 長四郎は一人、どこかへと歩き始めた。

「あいつ、どこ行くんだろう?」

「さぁ?」

 絢巡査長と燐は首を傾げながら、長四郎を見送るのだった。

 講演を終えた会長の出待ちをする二人であったが、会場のどこにも怪しそうな人物は見当たらず貴島や磯部の姿も見えなかった。

「居ませんねぇ~」燐はキョロキョロと見回しながら退屈そうに夏月会長を待つ。

「あ、出て来た」

 絢巡査長の視線は、LINE CUBE SHIBUY SHIBUYAの玄関口から警察官に囲まれながら出て来た。

 会長の背後には、派手目な黄色の服に身を包んだ静の姿もあった。

「派手な色の服だなぁ~」そう感想を述べる燐の視界に眩しい光が差し込む。

「眩しいっ!!」

 一瞬、視界を外してから光の正体を確認すると、二階の窓から長四郎が手鏡を反射させ燐に気づくよう促したのだ。

 そして、長四郎は何かに向かって指を差していた。

 燐はすぐ様、その指している先に目を向けた。

 そこには、ワゴンタイプの車から夏月会長に銃口を向けている磯部とすぐに逃げ出せるよう運転席に座る貴島の姿があった。

「絢さん!! 会長の方をお願いします!!!」

 燐は絢巡査長にそう告げ、走り出した。だが、磯部の銃は発射態勢に入っているようで慎重に狙いを定めている段階が燐から見えた。

「間に合わないっ!!」燐がそう呟くと「ラモちゃん!!!」長四郎はそう声を掛けて尖った枝を投げる。

 燐はそれを受け取ると、近くで風船を配っているコーナーがあり「ごめんなさい!!」そう断りを入れ出来上がったばかりの風船を割る。

 その瞬間、パァ~ンっと音が響き渡り警察官達が一斉に夏月会長を抱きかかえて盾になる。

 そして、その音に驚いた磯部はあらぬ方向へ誤射してしまった。

「すまん」磯部はそう言い銃身を車の中に引っ込めようとするのだが、全くもって動かないので何が起きたのか確認する。

 そこには、銃身を持った長四郎が立っていた。

「もう、お終いにしましょう」長四郎は、そう二人に告げた。

 それから、夏月会長に事件の全貌が掴めたので説明したいと直訴した長四郎は今、燐と絢巡査長の二人を連れ立って会長室に来ていた。

「どうして、私が殺される事になったのか、説明してくれ」夏月会長は自身の椅子にふんぞり返りながら長四郎に説明を求める。

「はい、分かりました」長四郎はそう答えて夏月会長の机へと移動し「失礼」と断りを入れて中段の引き出しを開ける。

「勝手に開けるな!!」夏月会長が引き出しを閉める前に長四郎は白い手帳を取り出した。

「これが今回の事件の発端ですよね? 新垣静さん。おっと、失礼。今は旧姓の星野静さんでしたね」

「バレてたのね」

「バレますよ。旦那さんのこと聞き出そうとしたら、あんなに激昂なさるんですもの。何か関わり合いがあると思って警察に調べてもらったんです」

「そうでしたか」何故か、静は堂々としている。

「お前も俺を殺そうとしたのか!!」机をバンっと叩いて怒りを露にする夏月会長。

「そうよ。あんたが私の旦那を殺したんだから、当然の報いでしょ」

「な、何ぃ~」夏月会長は顔を真っ赤にし、身体をフルフルと揺らす。

「まぁ、殺したと言ってもあんたが殺人を教唆した側、殺された二人が実行犯ってところですか?」

 長四郎は静に質問すると黙って頷いた。

「ところで、長さんが持っている手帳は何ですか?」

「これの正体は、この会社の不正の記録。頼んでいた紫外線ライトは持って来てくれた?」

「はい」

 絢巡査長は長四郎に持ってきた紫外線ライトを渡す。

 受け取った長四郎は手帳を開き、紫外線ライトを当てると文字が浮かび上がってきた。

 そこには、どこの誰に幾ら渡したかが書かれていた。

「これって、新垣さんが疑われてた賄賂の証拠だよね」

「ラモちゃん、ご明察。これを告発しようとしていたんじゃないか。新垣さんは」

「そうです。主人はこの事を告発しようしていました。だけど、この中の一部だけを切り取ってその罪を擦り付けて口封じの為に殺したんです」

「何、訳の分からない事言ってるんだ! お前ら、この女の言う事を信じるのか!!」

「少なくとも、ジジィの言う事よりは信用できるんじゃない。なぁ、ラモちゃん」

「長四郎の言う通り」

「それで、あなたはいつ、徹田さんと長部さんがご主人を殺した事を知ったんですか?」

 絢巡査長は自分の疑問をストレートに静へぶつける。

「主人に何があったのかを調べるために、ここへ入社したんです。そして、調べていくうちに主人の上司であった徹田と当時、こいつの秘書を務めていた長部があの事件に関わっていた事が分かったんです。試しに、酒飲ましてすこぉ~し、色仕掛けしたらすぐに自分がした犯行をスラスラと喋ったんです」

「そういう事でしたか」

 絢巡査長は納得し、何か言いたげな長四郎にバトンを渡す。

「それで、どうしてご主人の友達が協力することになったんですか?」

「当初は一人で計画を進めていたんですけど、お線香を上げに来てくれた河合君に見抜かれまして。彼、主人に更生の手助けをしてもらったとかで主人を慕ってたんです。しかめっ面の私を見て先輩の貴島さんや磯部さんに相談したみたいで」

「成程。それであなたは協力を仰いだ」

「そうです。銃の製作にも協力しました。標的を狙いやすいタイミングをセッティングしたのも私です」

「それで、銃の製作者の二人が住居する町田で犯行が行われたわけか」

「その通りです。銃が安全である事を確かめた貴島さんと磯部さんの手から河合君の手に渡り長部を殺しました。長部が殺された後、あなた達が河合君の周りを嗅ぎまわっているとの事だったので、貴島さんの知り合いが居るという湘南に逃がしたんです」

「なんて、身勝手な奴だ」憤慨する夏月会長に「それはあんたの事だよ」燐はぴしゃりと言い放つ。

「何を小娘風情が!!」

「ラモちゃんの言う事はごもっともだが、自分都合で人に罪を擦り付けて殺害する奴は身勝手じゃないとでも言うのか!!! ああ!?」

 長四郎は夏月会長に詰め寄り問いただすと、視線を逸らしだんまりを決め込む。

「では、新垣静さん、夏月会長。署の方で詳しい話を聞かせてもらいますので」

 絢巡査長は二人に告げ、手を叩くと他の刑事達が入って来て二人を連行した。

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