希望-9

「お待たせ」

 絢巡査長が2人に声を掛けると、『あ、来た』と二重唱で答える。

「あの店にSUITOがあるの?」

「SUITO?」燐が首を傾げる。

「円柱の事だろ。絢ちゃんに送った物はあの店の中にある」

 長四郎はそう言って、店を指差す。

 店は相変わらず、ひっきりなしに客が入り続ける。

「あの店内で、変な動くことは出来ないですよね」

「そうね」長四郎は絢巡査長の言葉に、退屈そうに返答した。

「一番は、SUITOを他の客に触らせない事じゃない?」

「ラモちゃんの言う通り。私がSUITOを回収して来ます」

「いってらっしゃーい」

 長四郎は手を振って、絢巡査長を見送る。

「私達は捜索を続ける?」

「いや、犯人の仲間が見張っているかもしれないから。そいつを見つける」

「見張っている奴って」

 燐は周囲を見渡すが、特に怪しそうな人物は見られない。

「どこにも居なさそうだけど」

「そう思うんだったら、それで良いんじゃない?」

 長四郎が言うや否や、燐の踵が長四郎の足の甲を思いっきり踏みつけられる。

「痛っ!」

「ざまぁないわ」

 涙目の長四郎は足の甲を抑えて、ケンケン飛びをする。

「ラモちゃん、何かあったの?」

 SUITOが入った紙袋を携えた絢巡査長が燐に話しかける。

「いや、実はかくかくしかじかで」

「かくかくしかじかで、こうなったって訳ね」

「そうなんです」

「かくかくしかじかで会話を成立させるなよな」

 長四郎は痛みに堪え、ひねり出すように女性陣に話しかける。

「そんな事はどうでも良いの。それより、それ持ち出して良かったんですか?」

「うん。起爆しない方法を教えてもらったから」

「へぇ~」

 燐が感心していると、「おい、あまりそういう話はしないでくれ。どこかで聞かれているかもしれないからな」と釘を刺す長四郎。

「ご、ごめん」

「長さん、監視人が居るってどういう事ですか?」

「良い質問だ。絢ちゃん。今まで発見されたSUITOは全て人混みが多い場所に置かれていたろ。そんで、あそこは店だ。親切心を働かせた客がそれを店員に渡したらどうする?」

「あ、そうか。あそこにわざと置いていたって事は、そこが、一番効き目があるって事か!」

 燐は閃いたと言わんばかりの顔で、自分の推理を披露する。

「That’s Right.もし、あそこから離れたりでもしたら意味がないし、それに勝手に誤作動でもしてみろよ。計画がおじゃんだ」

「だから、そうならないように監視人が居るってことですか?」

「そぉ、言う事」

「で、見つけたの? 監視人」

「モチの論。あそこ」

 長四郎が指を差した先には、ハンバーガーショップで電話をしながらこちらを見つめている男であった。

「見つかったみたいだね」

「見つかったみたいだね。じゃないでしょ! 捕まえるよ」

 燐が歩き出した途端、店の中に居た男が慌てた様子で退店しようとするので、燐は入り口に向かって走り出そうとするのだが、大勢の外国人観光客の団体が燐の目の前を横切り先に進めない。

「ああ、もうっ」

 通り過ぎ去った後に店を見ると男の姿は無かった。

「逃げられた!!」

 燐は頭を抱えて悔しがるのだった。

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