将軍-10
第四の事件は、文京区のマンションが多く建ち並ぶ閑静な住宅街にある美容室で起きた。
「被害者は、
先に現場へ臨場した刑事から被害者の説明を受ける長四郎、燐、遊原巡査、明野巡査の四人。
長四郎は続く説明を聞きながら、自分へ向けられたメッセージを見る。
“どうやら、動き出したらしいな。さぁ、勝負と行こうか。ゲネラール”
それが被害者の血で床に書き記されていた。
「趣味の悪い奴だよね」燐はメッセージを見ながら、感想を述べた。
「犯罪に趣味も良いもねぇよ。泉ちゃん」
「はい。どうしました?」長四郎に呼ばれた明野巡査が用件を尋ねてくる。
「現場をさ、散策してみたいんだけど。良い?」
「えっと・・・・・・ ちょっと、確認してみます」
明野巡査はすぐに現場を指揮している刑事の元へ行き、許可を得ようと説得を試みる。
「ダメだ。そもそもなんで、探偵を連れてくるんだ? お前、本当に刑事か?」
明野巡査はボロカスに言われ、悔しさのあまり涙を浮かべる。
「なぁ~に言ってんだか」そう言いながら、遊原巡査が説得に加わった。
「なんだ、お前?」刑事は俺に意見するのか? といった顔で遊原巡査に詰め寄る。
「挑戦を叩きつけられている本人を連れてこないと意味がないでしょ。それに、挑戦を受けている本人が調べたいって言っているのに拒否して犯人の手掛かりをもしも見落としたりしたらこりゃ、一大事ですよね。俺はそういう事をきちんと上の人に報告しますから」
「分かった。但し、現場を荒らすなよ」
「了解しました」遊原巡査は敬礼し、明野巡査を連れてその場を離れた。
「泉ちゃん、大丈夫?」燐が心配そうな顔で明野巡査を気遣うと「うん、大丈夫」と明野巡査は気丈に返事をする。
「で、探偵さん。何から見ますか?」
「遊原君。俺のペースがあるから、そのじゃじゃ馬娘二人を連れて喫茶店でお茶でもしといて」
長四郎はズボンのポケットから千円札を取り出して、遊原巡査のジャケットに突っ込む。
「じゃ」
長四郎は手を振って、行けのジェスチャーをしながら血に染まった美容室を歩き始める。
「探偵さん。これじゃ、足りません」
遊原巡査の指摘に長四郎は思いっきりズッコケた。
三人を現場から遠ざけた長四郎は一人現場で、自身の気になる事を解決するために事件現場の散策を開始した。
最初に目をつけたのは、レジであった。見たところ現金は盗まれていなかったようだが、長四郎は無性にそこが気になった。
「現金は手つかずだが」そう言って、レジ台の下にある顧客のカルテに手を伸ばす。
五十音順で並んだファイルの中からさ行のファイルを手に取る。
「さらり、さらり。さらりぃ~」
さとうきび畑のメロディを口ずさみながら、目的の名前を探す。
「ビビ、ビビ、ビビぃ~ンゴ」
更利満のカルテを見つけた長四郎は、そのページを嬉しそうにパンッと叩く。
長四郎は血に染まっていない理髪椅子に腰を降ろして、そのカルテを読む。
そのカルテには更利の髪質や頭の形、好みの髪型という美容室ならではの情報と共に、プライベートの情報が書き記されていた。
「ふ~ん。仕事の帰りにここへ寄るのが常か・・・・・・」
長四郎は興味深そうに更利のカルテを読み続ける。何故、長四郎が更利を気にするのか。
それは、殺された中で一人だけ身元が分からないような工作がしてあった事がどうしても気になっていたのだ。
それに挑戦も更利満の身元を調べるように言われたことで、この男に事件解決の糸口があるという考えを基にこうして、プライベートの情報が書かれているカルテを穴が開くようなぐらい凝視して読み込んでいた。
「あいつ、何をやっているんだ?」
事件現場に残っている刑事が長四郎を同僚の刑事と不思議そうな目で見る。
「ねぇ、ゲネラールってどういう意味なんだろ?」
喫茶店でお茶をしている燐がそう話し始めた。
「英語なのかな?」隣に座る遊原巡査に聞く明野巡査。
「知らないよ。調べてみろよ。その為のスマホだろ?」
燐はその言葉に従い、ゲネラールの意味を検索した。
「あ、出た」
三人は顔を突き合わせてスマホを見る。
「ドイツ語?」
「将軍って、意味なんだ。なんか、中二病みたいな奴だな」
「遊原君。奇遇だね。あたしも一緒の事、思った」
年下から君付けで呼ばれるとは思わず、どう反応してよいのか戸惑う遊原巡査であった。
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