将軍-9

 更利満が勤務していた会社へ訪れる前に長四郎達五人は、昼食を取るためチェーンの牛丼屋で食事をしていた。

「頂きます」長四郎は提供された牛丼つゆ抜き特盛に合掌し、頬張り始める。

「つゆだくは分かるけど、つゆ抜きって初めて聞いた」

「うるさいね。今、事件の事考えているんだから。黙って食べてなさいよ。不登校高校生」

 長四郎の嫌味に燐はムスッとしながら、牛丼つゆだく頭大盛の牛丼を口の中に掻っ込む。

「祐希。やっぱり、凄いね。ご飯食べながら事件の事を考えているなんて」

「ああ、そうだな」

「二人共、騙されちゃいけないよ。長さんがああ言うときは、基本嘘だと思った方が良いよ」

 付き合いの長い絢巡査長が遊原巡査、明野巡査に長四郎の人となりをレクチャーし、若い刑事達は頭の片隅にメモするのだった。

 昼食を終えて、文京区にある更利満の勤務会社を訪れた。

 身元が判明した後、すぐに刑事達が聞き込みにきた。が、根掘り葉掘り聞き込み去っていった。

 しかし、事件から数日経って別の刑事達が来たことで何かしらの進展があったのだと長四郎達の応対をした社員はそういう態度を見せた。

「すいませんね、お忙しいところ。事件に関しては、何も進展ありませんよ」

 長四郎は社員の態度から察して、最初にそう告げた。

「そうですか。残念です。でしたら、今日はどのようなご用件で?」

「はい。更利さんの人柄とかどのような勤務態度であったかなどをお聞きしたく参った次第です」

「そうでしたか。人柄と申しましても、特段申し上げるような事はありませんでしたし、勤務態度に問題があったということはなかったです」

「そうですか。では、質問を変えます。貴方個人の印象というのは、どうでしょうか?」

 社員は少しの間を置き、口を開いた。

「印象に残らないというのが正しい表現というのでしょうか」

 自衛隊で聞いた話と同じだ。長四郎を除く四人一緒の事を思った。

「そうですか。すいませんが、こちらではどのような仕事をなさっていたかだけお教え頂けますか?」

「ええ、構いませんよ。弊社は、医療器具を販売している会社でしてね。彼はその営業をしておりました」

「では、営業先からの評判とかはどうでした?」

「そうですね。クレームとかは一切ございませんでした」

「分かりました。ありがとうございました」長四郎がいち早く席を立つと「ああ、最後にもう一つだけ」と立ったまま質問の許可を得ようとする。

「何でしょうか?」

「更利さんの以前の職業をご存知でしょうか?」

「ええ、知っていますよ。看護師ですよね」

 まさかの職業に燐、絢巡査長、遊原巡査、明野巡査は固まる。

「成程。お時間を頂戴して申し訳ございませんでした」

 長四郎はそう言うと、足早に出ていった。

「ね、どういう事よ。看護師って意味わかんない」会社を出て燐がすぐに口を開いた。

「ラモちゃんの言う通りですよ。こっちの調べだと、陸自を辞めてすぐにこの会社に再就職しているのに」明野巡査も首をかしげながら、う~んと考え込む。

「被害者は看護師免許なんて持っていませんよね? 確認された時、どうしたんだろうな」

 遊原巡査は自身が思った疑問を口にした。

「謎が深まるばかり」絢巡査長も分からないといった顔で空を見上げながら、コインパーキングに向けて歩を進める。

「絢ちゃんさ、あの会社調べてくれない?」

「それは構いませんけど。長さん、そのことが事件と関係あるんですか?」

「分からない。けど、気になるから調べてよ。お願い」長四郎は手を合わせてぶりっ子風の口調で頼み込む。

「分かりました」絢巡査長はその依頼を引き受ける。

「私達は何をすれば?」明野巡査が長四郎にお伺いを立てると、「あ、君たちは吾輩達ともう少し第一の被害者を追ってもらうから」と答えた。

 そんなことを話していると、遊原巡査の携帯が鳴る。

「はい。もしもし」

「もしもし、じゃないだろ」佐藤田警部補の覇気のない声がスマホのスピーカーから聞こえる。

「今な、捜査本部から通達があってな。第四の事件が起きた」

「第四の事件!?」遊原巡査のその一言に四人は立ち止まる。

「そう、今度は文京区の美容室だ。お前たち、今どこに居る?」

「文京区です」

「じゃ、現場に向かってくれ。住所はメッセージで送るから」

「了解」そこで通話を終了し、「ここ文京区で、起きたみたいです」と告げた。

「絢ちゃんは会社の方を調べて。じゃ、行くぞ!」

 長四郎の号令と共に、絢巡査長を除く三人は駆けって現場に向かった。

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