第拾肆話-希望

希望-1

「早く歩きなさいよ!」

 私立変蛇内高校に通う高校2年生の羅猛らもう りんは早歩きをし、後ろを歩く私立探偵の熱海あたみ 長四郎ちょうしろうを急かす。

「ラモちゃん、急がなくても神社は逃げないよ」

 今、長四郎と燐は初詣に参拝する為に元旦の日から熱海探偵事務所の近所にある神社へと向かっていた。

「そんな事は、分ってるわよ」

「じゃあ、ゆっくり歩けば良いじゃん」

「あのね、私は今日忙しいの。これから、元旦バーゲンに行ったり両親が日本に帰ってくるから迎えに行ったりやる事目白押しなの」

「だったら、1人で動けばいいだろ」長四郎は燐に聞こえないようボソッと呟く。

「何か言った?」

 長四郎のボヤキが燐の耳に届いたらしく、般若のような顔をした燐が長四郎の方を見て告げた。

 だが、長四郎の耳には「グチグチ言っていると、殺すぞ」そう聞こえたので「お願いします。殺さないでください」とすぐに謝罪する。

「何、言ってんの? あんた」

 燐はそう言いながら視線を元に戻して、歩を進める。

「あ~忙しい」

 燐はそうボヤキながら歩くのだが、大抵忙しいっていう奴は忙しくないんだよなと長四郎は思いながら燐の後に続いて行く。

 そうこうして、2人は目的の神社に着いた。

 初詣の参拝客で神社はごが出来ており本殿に辿り着いて参拝するまで、最低でも1時間かかるぐらいであった。

「さっきから文句ばっかりね。何? 私と居ることが不満なわけ?」

 素直に「はい」と答えそうになるのをギリギリの所で制止し「滅相もございません」とだけ答えることに成功し安堵する。

「本当はそう思っていない事ぐらい分るわよ」

 燐はそう言って、長四郎の耳を引っ張る。

「痛たたたたた」

 新年早々、燐からの制裁を受ける長四郎は散々な1年になりそうだなと心の中で思った。

 それから1時間半後、参拝を終えた長四郎と燐は次の目的地の渋谷109へと向かう。

「あのぉ~ラモちゃん」長四郎が怒りに触れないように恐る恐る声を掛けると「何?」とぶっきらぼうに返事する燐。

「どうして、私目がバーゲンに付き合わなければならないのでしょうか?」

「上客へのサービスぐらいしなさいよ。そんなんだから、初詣不倫調査の依頼が来ないのよ」

 そう言いつける燐なのだが、「大晦日から年明けにスケジュールを開けておけ」と自称上客からの指示が事前にあったせいで長四郎は本来の依頼を断ざるを得なかったのだ。

「ねぇ、あの人変じゃない?」

 燐が指さす方には、足元がおぼつかない男性がこちらに向かって歩いてくる。

 ただの酔っぱらいだろうと思っていた長四郎だったのだが、男の表情を見てそれが違う事見抜いた途端に男は地面に倒れた。

「大丈夫ですか!」

 長四郎は倒れた男に近づき声を掛けると、男は長四郎の腕を掴み自分の口元に長四郎の顔を近づけようとする。

 長四郎は男の意思を汲み取り、顔を近づける。

「頼む。奴らを止めてくれ」微かに消えそうな声で長四郎に語り掛ける男。

「奴ら? 止めるって何を?」

「羽田空港。バイオテロ」

 男はそれだけ告げると息絶えた。

「ラモちゃん。買い物は中止だ。警察に通報を」

「もうやっているわよ」

 燐はスマホを耳に当てながら答えるのだった。

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