異人-7

 長四郎の取り調べが開始されて、早3時間が経とうとしていた。

「この不毛な時間はいつまで続くんですか?」

「簡単な話だ。お前が殺人幇助を認めたら、解放されるんだよ」

「刑事さんが、そんな事言って良いんすか?」

「どういう意味だ?」

「深い意味はありませんよ」

 長四郎は、不敵な笑みを浮かべながら答えた。

 その態度に少し苛立ちを覚えた厭那は長四郎の胸ぐらを掴み「ふざけるのも大概にしろよっ!」と恫喝する。

「お~怖っ!」変顔の長四郎は、身震いする。

「貴様ぁ!!」

 ふざけた態度を続ける長四郎の身体を揺さぶる厭那に「そこまで!」と声が掛かる。

 長四郎と厭那は声がしたほうを見ると、絢巡査長が立っていた。

「あんたは?」厭那がそう尋ねると「命捜班の絢です。彼はこちらで引き取りますから」淡々と長四郎の身柄を引き取る旨を伝える絢巡査長。

「そんな話は聞いていないし。許可はあるのか?」

 重要参考人の長四郎の身柄を渡したくない厭那はごねる。

「一課長の許可は得ています」

「分かった。好きにしろ」

 厭那は不服そうに承諾し、長四郎の身柄を絢巡査長に引き渡した。

「助けに来るなら、もう少し早く来てよね」

 命捜班の部屋に向かいながら長四郎は絢巡査長にそう話しかけた。

「いや、この事知ったのは30分前ぐらいですからね」

「ふ~ん」

 そんな会話をしながら、命捜班の部屋に辿り着いた2人。

 部屋に入ると、一川警部と学校を抜け出したであろう制服姿の燐の姿があった。

「私に感謝しなさいよ」開口一番、燐は長四郎に告げた。

「ははぁ~ん。ラモちゃんが命じてこうなったのか」

 一人納得した長四郎は、使い捨てカップに珈琲を注ぎ入れ始めた。

「そうじゃなくて。ありがとう。が、最初に出てこない?」

 長四郎は使い捨てカップを机の上に置き笑顔で拍手し燐にこう告げた。

「ありがとう」

 すると、一川警部も笑顔で拍手し始め燐に声を掛ける。

「ありがとう」

 もれなく、絢巡査長も拍手し始め言った。

「ありがとう」

 そんな言葉を3人から送られた燐は、満面の笑みで次のように返事するのだった。

「どういたしまして」


 燐に、ありがとう


 長四郎に、さようなら


 そして、全ての推理小説ファンに


 ごめんなさい


 終劇


「いや、終われるか!」燐は激しめに長四郎の頭を叩く。

「安心しろ、ラモちゃん。「何があったのか知りたければ劇場版へ」商法が使えるからな」

「意味分かんないし。てか、そんな商法聞いたことないし」

「ラモちゃん、意味が分からなければ「リメイク版で問題解決」商法というのもあるから安心して」

 絢巡査長はそう告げ、サムズアップする。

「絢さんまでボケられたらちょっと、しんどいです」

 燐は疲れたといった感じで肩を落とす。

「ま、おふざけはこんくらいにして。長さん、取り調べで何を話したか教えてくれんね?」

 一川警部にそう言われた長四郎は「え~どうしようかなぁ~」と身体をくねくねしながら渋る。

「気持ち悪い」燐はストレートな言葉をぶつける。

「ストレートな表現は止めて。ガラスのハートに響くから」

「分かったから。はい、答えて」

 燐にそう促された長四郎は話し始めた。

「終始、ミシェル・ガルシアの依頼内容は何だったのか? 事件当時のアリバイを聞かれたぐらいすかね」

「それで、何て答えたの?」

「依頼内容は守秘義務でお答えできましぇ~んって答えてぇ~アリバイに関しては、答えたよ。近所の居酒屋で飲んでましたって」

「なるへそ」一川警部は納得した様子で、取り寄せた捜査資料に目を落とす。

「それ、捜査資料ですか?」

「うん、そうやけど。絢ちゃん、長さんに渡してあげて」

 絢巡査長は一川警部の指示通り、長四郎に捜査資料を渡した。

 長四郎は渡された捜査資料に軽く目を通し終え、一川警部に告げた。

「ミシェルと話することは出来ますか?」

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