映画-2

「で、お兄さんの情報を教えて」

 鼻にティッシュを詰めた長四郎が再び、里奈に質問する。

 因みに、長四郎が鼻にティッシュを詰めているのか。

 それは、ぐりぐりのされすぎで鼻血を出してしまったからである。

 本編に戻ろう。

「名前は、三玖瑠みくる 恵一けいいち。24歳。会社員です」

「会社員ね。差し支えなければ勤務先を教えてくれる?」

「家徳帯株式会社の本社に勤めています」

「本社・・・・・・お兄さんの業務内容までは分からないよね?」

「すいません・・・・・・」

「いや、気にしないで。それで行方不明になったのが、一か月前だという事だけど。

その予兆というか。何かそういったものは無かった?」

「あり・・・・・・ませんでした」何か含みのある言い方をする里奈。

「それで、警察の見解とか聞いたりした?」

「いや特には・・・・・・やる気がない感じでした」

「何よ、それ。警察なら税金に見合った仕事しろって感じだよね」燐は腕を組み、ジジ臭い事を言う。

「そんなことはさておき、会社からは失踪前の行動とかは聞いた?」

「いいえ」

 長四郎はそこから攻めてみようと思う。

「分かりました。じゃあ、何か分かり次第、連絡します」

「ありがとうございます。宜しくお願いします」

 里奈は長四郎に一礼すると事務所を出る。

 それに追随する長四郎。

「そこまで、送っていきますよ」

「いえ、そんな」

 階段を降り玄関口を出ると、1台のバイクが止まっていた。

「これ、ハーレーダビッドソンXLH883だよね」

「はい、私のです」

 バイクに跨りヘルメットを被りながら嬉しそうに答える。

「渋いバイクというか何というか。ワイルドだね」

 長四郎はバイクをまじまじと見ていると、燐が後ろから叩いてくる。

「何、ジロジロ見てるのよ」

「バイクを見ていただけじゃん!!」

「噓!! 絶対、里奈の足、見てた!!!」

 里奈は咄嗟に手で足を隠す。

「ラモちゃん、自分が大根足だからって、やっかんで突っかかってくんなよな」

「んだと!? コノヤロー!!」

 長四郎を締め上げる燐。

「くっ、苦しい!!!」

 燐の手をタップしていると、里奈が話しかけてくる。

「もう行っても良い? これからバラエティの仕事なんだけど」

「ああ、ごめんね。引き留めちゃって。また、明日ね」

「うん、また明日」

 里奈は燐にそう言うとバイクを走らせ仕事現場に向かった。

「よしっ、私達は調査開始よ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 反応のない長四郎を見ると、締め上げられたままの長四郎は泡を吹き白眼を向いて気絶している。

「えっ!! 噓っ!!」

 燐は慌てて長四郎の頬を叩き、目を覚まさせようとするが、反応しない長四郎。

「どうしよう。しっかり、しっかり!!」

 燐はそこから、必死に長四郎を起こそうとするのだった。


 翌日、長四郎は1人、恵一の勤務先の家徳帯株式会社の本社ビルを訪れていた。

 一回、受付ロビーで受付を済ませ担当者が来るまで近くのソファーに腰かけていると同僚の小早川こばやかわが長四郎の応対をしに来た。

「あの探偵さんですか?」

「あ、はい。私、熱海探偵事務所の熱海長四郎と申します」

 長四郎は名刺を渡すと、小早川も自分の名刺を差し出す。

「小早川さん。本日、こちらに伺ったのはですね」

「三玖瑠の事ですよね」

「はい、何か失踪の手掛かりが得られないかなと思いましてね」

「はぁ」

「どうでしょう。知っている範囲でお答え頂きたいのですが・・・・・・」

「そう言われましてもね。私も知っている事なんて何一つありません。突然のことで、戸惑っているんですから」

「そうですか。では、答えにくい質問を。仕事上でトラブルになっていたりとかしていませんか?」

「それは無いです。社内外、あんなに評判の良い奴いませんよ」

 小早川の発言に噓はないと感じる長四郎。

「あの差し支えなければ、失踪当日の三玖瑠さんの行動を覚えている範囲で教えて頂けますか?」

「ちょっと、待ってくださいね」

 小早川は、スマホのスケジュール帳を確認する。

「ありました。ありました」

「失礼します」

 長四郎は失踪の当日のスケジュールを見せてもらう。

 三玖瑠恵一の失踪当日の行動は次のようなものであった。

 午前8時に出社。

 午前8時半の始業から午後12時まで事務処理を行う。

 昼休憩を挟み外回りに出かけた。

 廻った取引先は、2社。

 株式会社マットとCAT株式会社の2社。

 2件目のCAT株式会社の打ち合わせが終了後、恵一はそのまま直帰したとの事だ。

「御社は、他の社員スケジュールも見れるようになっているんですか?」

「はい。でも、これの通りに動くわけではないんですし、殆どの社員は使っていませんしね」

「という事は、三玖瑠さんはこれを使われていたと」

「そうですね。アクシデントが無ければ彼はこの通りに動きますから」

「凄いですね」

「ええ、本当に」

「大変、参考になりました。お忙しい中ありがとうございました」

「いえ、あの・・・・・・」

「何でしょう?」

「必ず三玖瑠を見つけてください。彼は、この会社に居なくてはいけない人間なんです。

後、私の仕事が増えるんでね」

「分かりました。ベストを尽くします」

「宜しくお願い致します」

 小早川は長四郎に深々と頭を下げる。

 長四郎は家徳帯株式会社を出たその足で、失踪人が訪れたとされる株式会社マットとCAT株式会社へと向かった。

 その2社からも良い情報は引き出せなかった。

 そして、話を聞いた恵一の担当者達は、事件に関わっているとは思えなかった。

 長四郎はそこで、失踪届を受理した本職に頼ろうと思い立ちすぐ様、電話を掛ける。

「もしもし、一川ひとつかわさんですか? 協力してもらい事がありまして」

「そりゃあ、こっちのセリフばい。

ちょっと、話を聞いてもらえる?」

「分かりました。どちらに向かえば宜しいですか?」

「その心配はいらんと思うけど」

「え?」

 長四郎の肩がポンポンと叩かれ、振り返るとあや巡査長が立っていた。

「また折り返しまぁ~す」

「吉報を待っとるけんねぇ~」

 そこで一川警部との通話は終了し、絢巡査長について行く長四郎であった。

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