映画-3
喫茶カラフルで絢巡査長と向かい合わせに座り、長四郎は渡された捜査資料に目を通していた。
殺人事件の捜査資料なのだが、ここ二か月立て続けに発生しており被害者、殺害方法もバラバラで共通点がない。
そして、犯人の特定が困難な状態であった。
「警察もお手上げなのが良く分るわ」
「そうですか。つまり」
「俺でもお手上げ。I have no idea」長四郎は両手を上げ、手の施しようがない事を伝える。
「参ったなぁ~」
絢巡査長は困り顔で、天を見上げる。
「そんなに困っているの?」
「はい」
「ふ~ん」
再び、捜査資料に目を落とす。
最初の事件は、2か月前に起きた。
港区の倉庫で芸能事務所のマネージャー・
次の事件は最初の事件から1週間後、個人商店の弁当屋に勤務する
3件目は、自販機補充者の
4件目の事件は、時計屋の
事件は、閉店後に発生したとされる。
それからすぐに、5件目の事件は発生した。
結婚プランナーの
5件目の事件から2週間、立て続けの殺人事件は発生していなかった。
だが丁度、2週間経ったある日、また事件は起きた。
今度の被害者は清掃業者の
6件目の事件から三日後、今度は化粧品会社社長の
毒物の入手経路及び混入方法は不明。
8件目の事件はそれから五日後、運送業者の
計8件の事件が起きているのだが、被害者達に共通点はなく殺害方法もバラバラかつ愉快犯であれば自分の犯行であることを知らしめる為に、何かしらの痕跡を残すはず。
それすらないので警察は困っている。
しかし、一連の事件が連続殺人ではない可能性だってある。
警察も一応、個別の殺人事件として捜査はしているのだが、事件関係者の中に犯人に該当する人物がおらず業を煮やした警察上層部は、連続殺人も視野に入れ一川警部率いる命捜班に連続殺人としての捜査を任せたらしい。
と言われても名の手掛かりもない状態では、一川警部達も手の施しようがない。
長四郎もまた同様であった。
「でも、この7件目の事件の被害者は分かりやすく恨み買ってそうだけど」
長四郎は顔を上げ、しかめっ面の絢巡査長に話しかける。
「確かに7件目の事件だけは、該当リストが作成されているんですけど」
「人数多すぎて絞り込めないと?」
長四郎のその言葉に絢巡査長は頷く。
「参ったね。それは」
「本当です」
そう言いながら、絢巡査長はカフェラテに口をつける。
「何かお役に立てなくて申し訳ない」
「いえ、謝ってもらうようなことは」
「取り敢えず、頭の片隅に入れておくから。
もう少し、分かったりしたらまた連絡して下さい。と一川さんに言っといて」
「はい、ありがとうございます」
そう言伝を絢巡査長に頼んだ長四郎は、会計を済ませカラフルを出てスマホの時計で時間を確認し、休み時間であると踏んで里奈に電話を掛ける。
ワンコール以内で電話に出た里奈。
「もしもし、熱海探偵事務所の熱海です。本日、お電話したのは調査でお願いしたいことがございまして・・・・・・」
「嫌です」
その声は聞き覚えのある燐の声であった。
間違えて掛けてしまったのかと思い、スマホを耳から離し通話相手を確認すると三玖瑠里奈になっていた。
「何の真似だよ。ラモちゃん」
「あれ、バレた?」
「バレた? じゃねぇ~よ。里奈ちゃんと違って、濁声だから一発で分かるわ」
「ああ、そう。濁声で悪かったわね!!」
「ちょっと、貸して」
ここで、通話相手が里奈に代わり助かったと思う長四郎。
多分、あのままでいけば通話を切られる所であった。
「すいません、お忙しい中。
実はお兄さんの調査で聞き込みを行ったんですが、良い成果が得られなかったんです」
「はい」
「それで大変申し訳ないのですが、お兄さんの部屋を見せて頂くことは可能でしょうか?」
「構いませんけど。私、これから映画の撮影で帰宅するのが多分、23時頃になるんです。
ここ最近、そのようなスケジュールで」
「分かりました。じゃあ、撮影終了後に撮影所集合で宜しいでしょうか?」
「構わないんですけど。撮影所の受付が20時で終っちゃうんで、入れないんです」
「では、撮影所内で待たせてもらいます。
申し訳ないんですが、許可を取って頂けませんか?」
「はい。マネージャーに頼んでおきます。何時頃来られますか?」
「そうですね。18時頃に撮影所に伺います。宜しくお願いします」
「18時ですね。了解しました。許可が取れたらメッセージで連絡しますので」
「ありがとうございます。では」
通話を切った長四郎は昨日、壊れたノートパソコンの代替品を購入する為、撮影所に行くまでの空き時間に秋葉原の電気街へと向かった。
だが、目ぼしい商品はなく長四郎は、肩を落とすのであった。
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