映画-4

 指定された18時に長四郎は、世田谷区にある撮影所の正門前に来ていた。

 里奈のマネージャーが迎えに来る手筈になっていた。

 5分程、待っていると後ろから声をかけられる。

「あの、探偵さんですか?」

「その濁声はラモちゃんだな」

「正解ぃ~」

 燐はそう言いながら、長四郎を締め上げる。

「お、お許しを!!」

「ダメ~」

「あのぉ~ここで騒ぐのは辞めてください」

 1人の女性が2人に注意してくる。

「すいません」

 燐は謝罪しながら、締め上げる手を緩める。

「ゲホッ! ゲホッ!!」

 喉元を抑え咳き込む長四郎。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい」

「あのもしかして、探偵の熱海さんですか?」

「そうですけど。あ、マネージャーさんですか」

「はい。私、三玖瑠里奈のマネージャーをしております小倉おぐら 舞香まいかと申します」

 舞香は自己紹介をしながら、長四郎と燐に名刺を渡す。

「これはご丁寧にどうも」

 長四郎もまた自分の名刺を渡す。

「里奈から話は伺っておりますので、どうぞ」

 舞香に連れられ撮影所内に入っていく長四郎と燐。

「なんで、ラモちゃんが付いて来るのよ!」舞香に聞かれないよう小声で燐に理由を尋ねる。

「だって、助手だから」

「俺がいつ、ラモちゃんを助手だって言ったよ」

「言ってました。前回の話合-13で「彼女は私の助手の羅猛 燐です(長四郎の声真似)」って」

「あれは、言葉の絢だろ!! 何、本気にしてんの。帰れよ」

「嫌よ。そう言われると益々、帰りたくなくなる!!」

「あの! 他のスタジオでも撮影しているので静かにしてください!!」

 小声で話しているつもりがいつの間にか大声に変わっていたらしく舞香から再度、注意される2人。

『すいません』

 2人声合わせて謝罪し、また小声で「ラモちゃんのせいで怒られた」「いや、あんたのせい!」と小競り合いをしながら里奈が撮影しているスタジオに向かって歩き出す。

「ここです」

 舞香はスタジオのドアをなるべく音を立てないように開け、長四郎と燐を中に入れる。

 スタジオ内は絶賛撮影中であった。

 舞香の案内の元、撮影の邪魔にならないようスタジオの隅で3人固まって撮影風景を見学する。

 見学を始めて10分が経過した頃、撮影にカットがかかるや否や長四郎はトイレに駆け込む。

 用を足していると清掃業者が清掃しに入ってきた。

 長四郎はその清掃業者を見て既視感を覚える。

 スッキリした長四郎がトイレを出た瞬間、既視感の正体を思い出す。

 例の殺人事件の被害者と同じ業者であった事に。

 元の持ち場所に戻る途中、スタジオに弁当屋が入って来る。

 どうやら夕食用の弁当の配達らしい。

 弁当屋が抱えている容器に書いてある名前を見て、長四郎はまた既視感を覚える。

 頭を張り巡らせると、例の事件の被害者にも同じ弁当屋に勤務する人がいた。

 長四郎は偶然が重なっただけだと思いながら、持ち場に戻ると弁当を2つ抱えた燐が出迎える。

「私たちの分だって!!」長四郎にそう言いながら、燐は弁当を渡す。

「ありがとう。あの、頂いて良いんですか?」

申し訳なさそうに長四郎は舞香に確認をする。

「ええ、どうぞ。あの里奈の楽屋に案内しますのでそこで食べて下さい」

「何から何まですいません」と長四郎は頭を下げる。

「いえ、仕事ですから」

 舞香が長四郎達を案内しようとするとスタッフが大声で話し出す。

「スポンサーのマネホー化粧品さんから飲み物の差し入れを頂いております。1人、2本まで好きなのを持っていってください!!」

 その一言で、キャスト、スタッフが一気に群がる。

「良かったら、熱海さん達もどうぞ」

 舞香の案内に何も反応せず、ぼぉーっとする長四郎。

「ねぇ、聞いている? 飲み物貰って良いってさ」

 長四郎を小突く燐。

「えっ!! ああ、ちょっと、悪いんだけど先に食べといて」

「あっ、ちょっと!!」

 燐に自分の弁当を渡し、スタジオを駆け足で出て行く。

 長四郎は撮影所内にある自販機を探す。

 長四郎が探す自販機はすぐにあった。

 スマホを取り出し、一川警部に電話を掛ける。

「もしもし、長さんどうしたとね?」

「実は、例の事件の共通点を見つけたかもしれません」

「え!? それホント?」

「調べてみない事にはですが、事件解決になるかと」

「了解!! 詳しく話を聞かせて」

 一川警部はメモの準備をする。

「今、世田谷にある撮影所にいるんですけど被害者全員ここの撮影所に何かしら関わっていると思われます。

仮に、撮影所だけではなく撮影中の映画かもしれませんがそこら辺を調べてもらえますか?」

「映画ね、分かった。調べてみるけん。

長さん、忙しいのにありがとうね」

「その代わりに今度、ご馳走してください」

「勿論、任せといて」

 そこで通話を終えた長四郎は、正門にある警備員室に向かう。

「あの、すいません。

一つお伺いしたんですが・・・・・・」

「はい、何でしょう」

 長四郎に声を掛けられる前まで、警備員は雑誌を読んでいたので少し驚いた表情を見せる。

「この撮影所にインコ便が訪れる大まかな時間を知りたいんですけど」

「時間ですか?」

「はい」

 警備員は時計を見ながら、記憶を引き起こす。

「確かぁ~ 11頃だったかと」

「11時頃ですね。ありがとうございました」

 長四郎は警備員に礼を言い、スタジオに戻る。

 音を立てないようにスタジオのドアを開けると、キャスト、スタッフ共に絶賛食事中であった。

「あ、すいませ~ん」

 長四郎は映画上映中に入場してくる客のように、コソコソと移動する。

 里奈の控え室のドアをノックすると「はい」と中から返事が聞こえた。

「熱海です。入っても宜しいでしょうか?」

「どうぞ」と舞香の声がする。

「失礼します」

 中に入ると里奈は弁当を食べながら勉強をしており、燐は弁当を食していた。

「用は終わったの?」

 口をもごもごさせながら長四郎に尋ねる燐。

「ああ、俺の弁当は?」

 自分の弁当が見当たらず辺りを見回す長四郎。

「えっ!? 食べるの!!!」

「つまりは、食べたのね」

「うん」と悪びれる事もなく頷く燐。

 長四郎は項垂れ、横にいる舞香に肩を叩かれ励まされる。

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