有名-11
次の現場は、スタジオ近くにある総合公園だった。
現場に到着すると、美雪の穴を埋める要員として夢川苺の姿があった。
「あ、来ましたよ」
苺は美雪を見つけると、近くのスタッフに来たことを告げた。
「大丈夫ですか!!」
スタッフはすぐさま美雪の元へ駆け寄る。
「はい。大丈夫です。それより・・・・・・」
ロケの心配をする美雪に「大丈夫です。ギリギリ間に合っていますから」とスタッフは答えた。
「良かった。じゃあ、お願いします」
「はい。では、撮影入りまぁーす」
スタッフの合図と共に撮影は開始されようとしていた。
そして、苺には別のスタッフから帰宅するよう指示を出されていた。
「ラモちゃん、絢ちゃん。ここを頼む」
長四郎は2人にそう告げると、苺の後を追い始めた。
「あいつ、どうしたんだろ?」
燐は1人行く長四郎を見送りながら、首を傾げる。
「さぁ? まぁ、考えもなしに行動してないでしょ。流石に」と答える絢巡査長。
「いや、あいつならありえますよ。考えもせずに行動しているのは、いつもの事ですから」
燐はまだストーカーの存在に気づいていないのかと思いながら、絢巡査長はそれ以上の事は語らず美雪のガードに集中するのだった。
苺を追いかけた長四郎はというと、事務所に向かう為に乗り込んだタクシーに無理矢理同乗していた。
「いや、申し訳ない。無理矢理乗ってしまって」
長四郎はヘラヘラした物言いで、隣に座る苺に話しかける。
「いえ」
苺は長四郎と目を合わせないように窓の向こうの景色を見る。
「あ、そうだ。苺さんにお話したいことがありましてね」
「話ですか?」
「ええ。澤村美雪の事です」
美雪の名前を出した途端、苺の表情が曇った。
「実は彼女、襲われたんですよ。ストーカーの一味に」
「へぇ~大変でしたね」
興味ありませんといったオーラを出しながら、スマホに目を落とす苺。
「それでですね。ストーカーの一味が返り討ちにあってこう言っていたんですよ。「こんな話、聞いてない。苺は嘘ついていたのか」ってね」
読者の皆様もお気づきだろうが、いつものハッタリである。長四郎は苺の反応を観察すると、平然を装っているがスマホは小刻みに震えていた。
「まぁ、苺さんの名を語った第三者だと思いますがもしかしたらお知り合いなのかと?」
「どうして、私が美雪の事を襲わなくちゃいけないんですか?」
「その通りです。普通は、襲う理由はありません。ですが・・・・・・」
「ですが?」
「競合他者を消そうとすれば、当然の理由になるんですよ。とはいえ、普通の人間はしませんから。安心してください」
「・・・・・・」
だが、苺からの返答はなかった。
タクシーが交差点で止まったタイミングで長四郎は口を開いた。
「すいません。運転手さんここで降ろしてください」
「あっ、はい」
長四郎は1万円を運転手に渡すと、そのままタクシーを降車した。
タクシーが走り出したのを見送ると、スマホを取り出してGPSアプリを起動させた。
降車する際、苺のカバンにGPSを仕込んでいたのでその動作確認の意味があった。ちゃんと、動作している事を確認した長四郎は警視庁に向かうため別のタクシーに乗り込んで向かうのだった。
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