大物-9

 カラスがカァ~ カァ~ と鳴く夕刻の頃。

 運転席のシートをフルで倒して、天井を黙ったまま見つめる長四郎のスマホが鳴る。

「おっ、来たな」

 スマホを取り出して、内容を確認する。

 燐が下校するとのメッセージが入った。学校からこちらに向かえば三十分はかかる。

 長四郎はそれを見越した上で、「熱海長四郎、起動! ウィーン」と一人呟き運転席のシートを戻し上体を起こす。

「起動完了! なんて、バカな事を言っていないで仕事。仕事」

 車を降車し、トランクを開ける。

 トランクには脚立、ドッグフードの袋、バケツ等の救出道具が入っていった。

 手袋をはめ、ヘルメットを装着しヘルメットに付けたヘッドライトの点灯を確認していると、一台の車がコインパーキングに入ってきた。

「お、来たか」

 トランクを閉め入ってきた車が駐車するのを待ち、目的の人物が降車してくるのを待つ。

「長さん、お待たせ」助手席の窓を開き長四郎に挨拶するのは、一川警部である。

「どうも」

 長四郎は覆面パトカーの後部座席に座る。

「で、どうです? 準備の方は?」

「ま、ボチボチでんなぁ~」

 急な関西弁に戸惑いつつ、絢巡査長は話を続ける。

「それで、私達の役目は何ですか?」

「え? 聞いてないの?」

「はい」

「ちょっと、一川さん。話してくれって言ったじゃないですか?」

「あたしは絢ちゃんに説明したばい」

「なんて?」

「それは・・・・・・」

「それは?」

「長さんから手伝って欲しい事があるって」

「あるって。ま、良いや。絢ちゃんには、救出した音々さんの保護をお願いしたいのよ。これから、ラモちゃんも来る。手筈としては、俺が森下邸に潜り込む」

「待ってください。それって、不法侵入して救出するって事ですか!!」

「ちょっと、声が大きいよ。でも、正攻法じゃ助け出せないでしょ?」

「そんなことは」

 そんなことはないと言いたがったが、未だ確証が持てない状態で令状が発行されるとは思えず口を噤んでしまう。

「ここは目を瞑ってさ、俺の話を聞いて頂戴よ。ね?」

「はい」

「で、俺が音々さんを救出。そんで、偶然通りかかった女子高生が音々を発見。そしてこれまた偶然パトロールしていた捜査一課の刑事二人が保護する。そういうシナリオだ」

「分かりました。じゃあ、ラモちゃんの到着を待ちます」

「話が分かる刑事で良かった。前に居たよな、急に消えたけど。文句だけは多い刑事」

「そう言えば居ったような気がするね」一川警部はどこか懐かしそうな目をする。

「長さん」

「何? 絢ちゃん」

「もし、失敗した場合はどうするんですか?」

「失敗した場合か。考えてなかったわ」

「考えてなかったって」

「もし、失敗しそうになったら、Bプランに変更だ」

「元々、Aプランすらないのにですか」

「Yeah」

「Yeahじゃないでしょ」

 絢巡査長は顔を手で覆い隠し、あきれ返る。

 二十分後、燐が合流して紅音々さん救出作戦が開始された。

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