話合-9

 長四郎の要望で絢巡査長、燐はマガジン亭サンデーの自宅へと来ていた。

 場所は事件現場の演芸館から徒歩10分の所に、サンデーが住んでいたアパートはあった。

「意外と綺麗だな。男の一人暮らしの割には」

 長四郎は部屋の隅々に視線を移していき、本棚にびっしりと敷き詰められたノートを見つける。

 その中の一つを手に取り長四郎は、中身を検める。

 そこに書いてあったのは創作落語の話のネタ帳であった。

 ノートには、何度も修正した事が見て取れた。

 ノートの中身を長四郎が写真に収めていると、燐は退屈そうに訪問理由を質問する。

「ねぇ、この部屋で事件に繋がることがあるの?」

「それは分からん」

 きっぱりと答える長四郎は、撮影を終えてノートを棚にしまう。

「またそれ~」

 燐は呆れたといった感じで、天井を見上げる。

「あ、なんか書いてある」

「え?」

 燐の視線先に目を向ける長四郎。

 天井にA3サイズの半紙に達筆な文字でこう記されていた。

“あ~それであたいのこと金槌でぶつって言ったんだ ”

「これ、どういう意味?」

 燐は首を傾げながら長四郎に意見を求める。

「子は鎹か・・・・・・」

「何、それ」

「絢ちゃん、この部屋にはもう用は無いわ」

「分かりました」

 長四郎達3人は、サンデーの部屋を後にする。

 再び、演芸館へと聞き込みがしたいという長四郎の希望で3人は演芸館まで歩く。

 その道中、絢巡査長のスマホに一川警部から着信が入る。

「おはようございます。どうしました?」

 絢巡査長は電話に出るや否や、すぐに用件を聞く。

「いや、絢ちゃん。今、どこ居ると? あたしが出勤したら、所轄署の刑事が「本庁は何してるんですか!?」って、詰め寄られて困っとるとよ」

「あのメッセージは見て頂けてないんですか?」

「え? メッセージって何?」

絢巡査長は長四郎がサンデーの部屋を物色している間に、一川警部に長四郎が依頼した内容をメッセージで送っていた。

「ちょっと、代わって」

 長四郎からそう言われた絢巡査長は、スマホを渡す。

「もすもす、長四郎だす」

「おう、長さん。絢ちゃんと何調べとると?」

「そんなことより、調べておいて欲しいことが」

「ほう」

 そこから長四郎の依頼内容を聞き、所轄署刑事を連れて行くとだけ伝え通話は終了した。

「はい、ありがとう」

 スマホを絢巡査長に返すと、長四郎はぶつぶつ独り言を言いながらスタスタと先行して歩いて行く。

「急にどうしたんだろう。あいつ」

「さぁ?」

 燐の問いに絢巡査長は、首を傾げるしかできなかった。

 演芸館に着いた3人は、絢巡査長と燐には客席で落語を聞くようにとだけ告げ長四郎は1人、裏口から舞台裏へと向かう。

 今日もまた、楽志の創作落語が大爆笑をかっさらていた。

 その盛況ぶりは楽屋口まで、聞こえるほどであった。

「今日もこれまた大盛況なことで」長四郎はそう言うと、楽屋へと侵入する。

 長四郎のお目当ての物はすぐにあった。

「あった。あった」

 長四郎が手に取ったのは楽志に話を聞きに来た際、楽志が慌てて隠したノートであった。

「拝見しますよっと」

 早速、中身を確認すると長四郎の睨んだ通りサンデーが書き記したネタ帳であった。

 なぜ、分かるのか?

 それはサンデーの家で撮影した写真と見比べながら、そこに記載されている筆記体が似ているからだ。

 とはいえ、まだ鑑定に出していないので99.9% 一致したとは言えないが、サンデーの書く字は個性的なので素人目からもよく分かるものであった。

 取り敢えず、長四郎は表紙と何ページかだけ写真に収めてノートを元あった所に戻し、楽屋を後にする。

 裏口に向かいながら長四郎は考える。

 本当に、楽志が犯人なのか。

 殺害する動機としては、充分である。

 盗作疑惑が上がる前に、始末するのは当然のこと。

 しかし、楽志が盗作した落語を披露したのはサンデーの死後であった。

 だとしたら、作品を自分の物にする為の計画的犯行と言わざるを得ない。が、毒物の入手先がどうも腑に落ちずにいる。

 被害者の命を奪った凶器は新種の毒化合物、しかも使用されたのは今回の事件と6年前に起きた高校での毒殺事件の2件だけ。

 一介の落語家が毒化合物を作れるのか?

 まぁ、化学マニアとかなら出来ないこともないが何故、見ず知らずの高校生を殺すのか。

 これが一番、解せないでいる。

 実験の為に殺害したのなら6年もの間、沈黙をしていたのが気になる。

 どうせすぐに、毒物が同一の物であることが判明するのだから、時を置いたとしても2,3年後でも良いはずだ。

 そんな事を考えていながら、裏口を出た長四郎に一川警部から電話が掛かってくる。

「しもしも~ 長さん、分かったば~い」

「聞かせてください」

「あの楽志っていう落語家さん、例の事件があった高校の卒業生でね。

これまた、驚かんとってよ。実はね」

「高校事件が起きた当日、母校を訪れていたですよね?」

「That’s Right!!」

「申し訳ないんですけど、彼が所属していた部活動を調べて頂けますか?」

「あいよ」

 そして、2人が得た情報を共有する為、報告会を喫茶カラフルで行うことを決め一川警部は聞き込みの続きを長四郎はその足で喫茶カラフルに足を向けるのだった。

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