話合-10

 長四郎は喫茶カラフルで、珈琲を味わいながら一川警部の到着を待っているとドアベルが鳴る。

 一川警部かと思い、入店した客を確認すると燐と絢巡査長であった。

 すぐ様長四郎は、頭を屈めて二人にバレないよう隠れる。

 だが、そうは問屋が卸さなかった。

「何してるの?」

 身を隠す長四郎はあっさり発見され、燐が声を掛ける。

「見ての通り、珈琲を飲んでる」

 愛想笑いを浮かべる長四郎。

「ふ~ん」

 燐は長四郎の隣に座り、絢巡査長は真向いの席に座る。

「お、おい。何で座るんだよ。

絢ちゃんは分かるけど、ラモちゃんは帰れよ」

「嫌だ。乗り掛かった舟でしょ。ですよね、絢さん」

 長四郎の帰宅命令を聞かず絢巡査長に賛同を求め、絢巡査長は静かに頷いて燐に賛同する。

「あのさぁ、ラモちゃん。過去2件の事件は、分かるよ。まだ。

だって、依頼人だったから。でも、今回は依頼人じゃないでしょ」

「言っていなかったっけ? 私、あんたの助手だから」

「勝手に決めるなよ」

 長四郎は悲しい顔を浮かべながら、項垂れる。

 そこから燐と絢巡査長は寄席で聞いた落語の感想会が開催され、長四郎は沈黙を貫くのであった。

 45分後、一川警部が喫茶カラフルを訪れると普段、静かな店が賑やかになっていた。

 客もまばらだったのが満席状態で、何なら軽い行列まで出来ていた。

 取り敢えず、長四郎が席を取っているはずなので、並んでいる客に申し訳ないと思いつつ入店する。

「あ、すいませぇ~ん。今、満席なので外で並んでお待ち頂けますか?」

 長四郎がパフェを運びながら一川警部にそう伝える。

「長さん、バイト中?」

「ま、そんなところです」

 近くの2人席に座っている燐がカフェラテを飲みながら話す。

「あ、ラモちゃん。困るよぉ~事件の話しなきゃいけんのにぃ~」

「そう思うんだったら、あいつの手伝いでもしたらどうですか?」

「良いよ」

 マスターがそう言いながら、一川警部にエプロンを渡してくる。

「あのぉ~注文良いですかぁ~」

「はぁ~い! ただいまぁ~」

 一川警部は声がした方にすぐ様エプロンを身につけて、注文を取りに伺いに行くのであった。

 2時間して、店内はようやく落ち着きを取り戻した。

 客も長四郎、一川警部、燐、絢巡査長の4人だけになった。

「これで落ち着いて話ができるようになったね」

 燐は一仕事終えた感じで、疲れ切り放心状態の長四郎と一川警部を見ながら発言する。

「いいよな。ラモちゃんは・・・・・・」

「何よ」

「だってさ、原因を作って置いて自分は高みの見物なんだもん」

「え!? そうなの!!」

 一川警部は初耳だと言わんばかりに背もたれから身体引き離す。

「そうですよ。ラモちゃんが「うわっ! このパフェ、超かわいい!! インスタにあげよう」で客が押し寄せて来て、マスター一人は手におえなくなり、ラモちゃんの「あんたも手伝いなさいよ」の鶴の一声で手伝った結果、今に至るわけですよ」

「はえ~ いわゆるバズるやったっけ? ラモちゃん、すごかねぇ~」

 感心している場合じゃないだろと長四郎は思う。

「私を誰だと思っているのよ」

 髪を振り上げる燐。

「はい、これ」

 マスターは長四郎と一川警部に、バイト代替わりと言わんばかりにレモネードを出してキッチンに引っ込む。

 マスターが引っ込んだ事を、見計らい長四郎は話を切り出す。

「で、聞き込みの結果を教えて頂けますか?」

「お、そうやね。えっとね、まず三屋楽志。本名・飛山 大二は都立兄貴高校平成17年度卒業生。所属していた部活動は、陸上部やね。7年前の事件当時は、母校に落語に触れようという企画で訪問しとるね」

「被害者の方はどうです?」

 長四郎の質問に答える為、情報が記載されているスマホをスクロールする。

「被害者の子はね。え~っと、峯 遥君。

この子は、先生、生徒からも評判も良くてね。生徒会長もしていたらしい」

「そうですか・・・・・・」

 長四郎は、下を向き考え込む。

「犯人はやっぱり、あの楽志っていう落語家なの?」

 燐は長四郎に質問するが、長四郎は答える気配は見せずに口元をぶつぶつ小さく動かしている。

「あ~今、長さんに話しかけても無意味やけん。ゾーンって奴に入っているから」

「そうなの?」

 長四郎の姿を見て、燐は気味悪がる。

「それで、絢ちゃん達は何を掴んだと?」

「それは・・・・・・」困り顔になる絢巡査長。

「サンデーさんのネタ帳を盗んだのが、楽志だってことぐらいですかね」

 ここで長四郎が口を開いた。

「動機は充分ですね」

「そうやね」

 絢巡査長の意見に賛成する一川警部。

「じゃあ、楽志を追い詰めなきゃ」

「ラモちゃん、簡単に言うなよ。毒物の入手経路が分かってないから」

「そんなもの、取り調べで吐かせればいいの。ですよね、絢さん」

 燐の問いかけに絢巡査長は何も答えず、苦笑いをして誤魔化す。

「まぁ、楽志はマークするけん。長さんはこのまま調査を継続しといて」

 一川警部はそう伝えるとレモネードを一気飲みし、店を出る。

「あ、待ってください!!」

 絢巡査長は一川警部を追い、長四郎もそれに続こうとするが燐に捕まる。

「どこ行く気?」

「い、いや一川警部を追いかけないと・・・・・・」

「させるかァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 長四郎を壁に叩きつけた燐は、支払いを長四郎に押し付け退店する。

 一人残された長四郎は、マスターに話し掛ける。

「マスター」

「何」

「お代の代わりに川柳を読むというのはダメかな?」

 マスターは一言こう言うのだった。

「ダメ」と。

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