話合-11
翌日、長四郎は一人、桂太郎を訪ねる。
桂太郎が住んでいるアパートのチャイムを鳴らすと、すぐ様ドアが開く。
「おっさん、どうしたんだよ」
ドアから顔を覗かせながら桂太郎は、用件を尋ねる。
「お前のお父ちゃんが何を言いたかったのか。薄っすらと分かってきたから、確証の為にお前に話を聞きたいと思ってな」
それを聞くと桂太郎は、家の中の方を向き中に居るであろう小春に言うのだった。
「母ちゃん、少し出かけてくる~」
「分かったぁ~」
その言葉を聞き玄関から出てきた。
「少し、歩くか」
「うん」
長四郎と桂太郎は、5分程歩いたところにある公園に向かう。
道中、近くにあったコンビニで桂太郎はジュースとスナック菓子を長四郎はコンビニのブランドコーヒーとコンビニスイーツを購入し再び公園に向かって歩き出す。
「なぁ、おっさんさ。この前、俺が母ちゃんを守れって言ったよな。どうやったら、守れるのか。ずっと、考えてた」
「で、答えは見つかったか?」
長四郎の問いに、首を横に振る桂太郎。
「そうか」とだけ返す長四郎。
「やっぱり、格闘技とかやった方が良いのかな?」
「そういうことじゃないだろう。まぁ、格闘技をすること自体は否定しないけども」
「じゃあ、守るって何なんだよ!」
桂太郎はそこで立ち止まり、先を行く長四郎の背中に疑問を投げかける。
「それは、自分自身で見つけるしかないんじゃないか? 守る方法なんてのは、人それぞれだからな」振り向きざま長四郎はそう言う。
「・・・・・・・・・・・」
桂太郎は何も言わず、一人公園に入って行く。
長四郎はめんどくせぇなと思いながら、桂太郎について行く。
桂太郎はブランコに座り、ジュースを飲む。
「やっぱり、新鮮か? 平日、昼間の公園は?」
長四郎は桂太郎が座っている隣のブランコに腰掛ける。
「んなことはねぇ~よ」
スナック菓子の封を開けてバリボリ音を立てながら食べ始める桂太郎。
「そうかい」
長四郎もまた、コンビニスイーツを食し始める。
「俺に聞きたいことってなんだよ?」桂太郎が本題に入る。
「おいおい、母ちゃんを守る話はどうなった?」
「答えは、自分で見つける。だから、答えろよ」
「はいはい。父ちゃんと再開した時期っていつ頃だ?」
「え~っと、去年の12月」
去年の12月、桂太郎は小学校の見学行事で浅草の寄席を訪れた際、父親のサンデーと再開した。
正確には、サンデーが桂太郎を見かけたところから事は始まった。
その頃のサンデーは子猫と別ればかりで酒も絶ち、芸に生きようと心改め、再出発を始めたばかりであった。
サンデーは夕方からの出番の為、寄席に赴くと小学生の団体が寄席の前で案内役の師匠の話を真剣な面持ちで聞いていた。
桂太郎もこの子達と一緒くらいの年齢になっているんだろうなと思いながら、少しその光景を楽しんでいた。
すると、その中に桂太郎によく似た子供を見つけたサンデー。
声を掛けようか迷っていると、案内役の師匠がサンデーを見つけ小学生達にこう告げる。
「このおじさんは、桂太郎君のお父さんなんだよ」
『え~!!!』そう小学生達は一斉に驚きの声を上げ、羨望の眼差しでサンデーを見る。
「ど、どうも桂太郎がお世話になっております」
そう言い一礼するサンデー。
「父ちゃん、やめてくれよ。恥ずかしいだろ」
桂太郎が嬉しそうな顔でサンデーを見る。
サンデーが「ごめ~んね」とおどけると小学生達は爆笑する。
そこから、小学生達によるサンデーのインタビューが始まった。
「皆、そこまでよ」
引率の先生が区切りの良いところで、インタビューを終了させてくれた。
引率の先生が気を使ってくれ、少しの間だけ親子二人だけで話す時間を作ってくれた。
「母ちゃんは元気か?」
「うん」
こんな時、当たり前の事しか聞けないんだなと思うサンデー。
「父ちゃんは?」
「父ちゃんは、見ての通りだよ」
「ふ~ん」
久々の再開で、桂太郎も何を話して良いものか考えているのがよく分かる。
「新しい父ちゃんとは上手くいっているか?」
「新しい父ちゃん? 俺の父ちゃんは父ちゃんだけだ」
「そういうことじゃなくて、母ちゃんに彼氏とかいるんだろ?」
「いないよ」
「そ、そうか」
「母ちゃん、言っていたよ。「男はもう、うんざりだって」でも・・・・・・」
「でも?」
「酒飲むと必ず「別れるんじゃなかった」って言うんだよ。変だろ? 父ちゃん」
「ああ、変だな」
顔をクシャクシャにし、桂太郎の話を聞くサンデー。
サンデーは改めて過去に小春や桂太郎にしてきたことを悔いる。
稼いできた金は、酒、女そして、ギャンブルに注ぎこれが芸人の生き方だと自分に言い聞かせ、本当に大切にしなくてはならない人を悲しませた結果、捨てられた。
それは、当然の報いだ。
そして、後妻に来た女は家事を一切せず一日中寝てばかり、サンデーが稼いできた金は全て取り上げられホストに使われた。
最後に残ったのは、借金だけであった。
借金は何とか返済できたのだが、手元には何も残らなかった。
「父ちゃん! 父ちゃん!」
そんな考え事をしているサンデーの体を揺さぶる桂太郎を見て、サンデーは我に返る。
「ああ、悪い。良いかカツアゲされるなよ」
サンデーは先生、生徒達に見つからないよう財布から3万円と自分の連絡先が書いた名刺を桂太郎のリュックサックにしまう。
「父ちゃん、これはマズいよ」
「父ちゃんからのお小遣いだ。後、母ちゃんに見つからないようにしろ。良いな」
「分かった」
そう言って立ち去ろうとする桂太郎。
「あ、待って。俺の名刺入れといたから何かあったらそこに連絡しろ」
「分かった! 父ちゃん、またな」
桂太郎はサンデーにそう言いながら、見学に戻っていった。
「またな、か・・・・・・」
その再開をきっかけに、桂太郎は休みの日になる度にサンデーに会いに行った。
だが、それも長くは続かなかった。
一か月が経ったある日、急に金回りが良くなった桂太郎を訝しんだ小春に尾行されサンデーと会っていたことがばれてしまう。
烈火のごとく怒る小春を宥め、啓太郎たっての希望もあり月2回の面会が許されるようになった。
「そういう経緯があって、父ちゃんと再会したって分けか・・・・・・」
長四郎はそう言うと珈琲を口に流し込む。
「うん」俯く桂太郎。
「父ちゃんと母ちゃんは、再会してから仲良くなった感じか?」
「分かんない」
桂太郎はそう答えると、ブランコを漕ぎ始める。
「そうか。ありがとう。
後な、今、お前さんができる事は母ちゃんに迷惑をかけないことだ。
取り敢えず、家の手伝いをすれば良いと思うぜ」
長四郎はブランコから立ち上がり、桂太郎に笑みを浮かべる。
「なんだよ、それ」
桂太郎も笑顔を長四郎に向ける。
「じゃあ、気を付けて帰れよ」
長四郎は桂太郎と別れ、楽志の母校へと場所を移すのであった。
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