仲間-8

「ねぇ、さっきは何の写真を撮ってたの?」燐は上階に上がるエレベーターを待つ間に、隠し撮りした物について質問した。

「これ」

 長四郎はスマホの写真アプリを開き、燐に見せた。

「何か凹んでるね」

「そう、凹んでるの」

「これが気になるの?」

「まぁ~ねぇ~」

 そう答えたと同時にエレベーターが来た。

 二人は乗り込みながら、話を続ける。

「そう言えばさ、新垣って人の話した時に固まってたよね」

「そうだったな」

「新垣って誰の事なの?」

「誰って・・・・・・・」

 長四郎達を乗せたエレベーターは、目的の1階に着いたので降りる。

「ねぇ、答えてよ」

「嫌だ」

 長四郎はそう答えて、一人スタスタと歩いて行くのだった。

 燐は長四郎について行くまま、夏月会長が入院する作田総合病院へと来た。

 夏月会長に面会するのではなく、静に会いに来たようであった。

 そして、当の静とは言うと病院で夏月会長の担当医から診察結果を聞いていた。

「夏月さんは、至って健康そのものです。退院しても問題はないです」

 担当医は遠回しに退院するよう促しているのが、静かにも理解できていた。

「そうですか。会長にこの事は?」

「伝えはしましたが・・・・・・」

 夏月会長は突っぱねたことが、医師のこの発言から垣間見えた。

「そうですか。私からも伝えてみます。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 静は担当医に、頭を下げて謝罪する。

「いえ、そんな」

「では、失礼します」

 静は担当医にそう告げ診察室を出ると、長四郎と燐が部屋の前で待っていた。

「お待ちしておりました」開口一番、長四郎はそう挨拶した。

「どうも、今日はどのようなご用件で?」

「新垣さんという社員の方をご存知ですか?」

 長四郎のその言葉を聞いた瞬間、静の顔が一瞬だけ曇る。

「いえ、存じ上げないですね」

「そうですか・・・・・・」

「あの会長さんは、元気なんですか?」

「はい。元気ですよ。元気すぎて困っているくらいです」

 燐の質問に、頭を抱えていますと言わんばかりの顔で答える静。

「捜査の方に何か進展はあったのでしょうか?」

「いえ、ありません」長四郎よりも先に答える燐。

「やはり、事件の犯人は見えませんか?」

「そうですね。どうして、長部さんを襲撃したのかもまだ掴めていませんし」

 燐は悔しそうに下唇を噛むのに対して、静はどこか安堵しているような表情に見える長四郎であった。

「本当に新垣さんはご存知じゃないんですね?」長四郎は再度、新垣について聞きだす。

「知りません!!」静は語気を強めて返答したので、長四郎と燐は意外な反応に驚く。

「なんか、すいません」長四郎が謝罪すると「いえ、こちらこそ声を荒げてしまい申し訳ありません」静もまた二人に謝罪した。

「じゃあ、俺達は捜査に戻るんで。今日の所は失礼します」

 長四郎はそう断り燐を連れて、その場を後にした。

「なんか、怖かったね」

 病院を出てすぐに、燐が感想を述べた。

「そうだな。鬼気迫るものがあったな」

「その感想に同意するけど、この後はどうするの?」

「どうしようかな」

「新垣って人の事探る?」

「そうしようか」

 長四郎はそう答えて、歩き出すのだった。

 一方の絢巡査長はというと、長四郎が発見した弾丸に描かれていた紋章について捜査していた。

 だが、その紋章の正体が掴めず捜査は難航しており捜査本部で頭を悩まさせている最中であった。

「あ~ダメっ!! 飯行こう、飯っ!!」

 絢巡査長はそう決心し、椅子から立ち上がると食堂へと移動した。

 食堂の前には日替わりメニューが置いてあった。

 今日の献立は、白米、唐揚げ、ヒレカツ、カニクリームコロッケ、キャベツの千切り、大根の煮物、味噌汁であった。

 早い話がミックスフライ定食というべきだろうか、絢巡査長の腹はこのメニューを入れたいと願っていたので、日替わり定食の食券を購入しお盆を持ってカウンターでメニューの品を載せてもらい、空いている席に着いた。

「頂きます」絢巡査長は手を合わせ合掌して食べ始める。

 絢巡査長は美味しそうに頬張りながら、食べ進めていく。

 ものの5分もかからず、皿に載った料理を綺麗に平らげた。

「はぁ~食った。食った」

 絢巡査長は満足そうに、お腹を擦る。

「あんた、良い食いっぷりねぇ~」

 そう声を掛けられたので、振り向くと食堂のおばちゃんがテーブルを拭きながら絢巡査長を嬉しそうに見る。

「ど、どうも」

「あんた、ハゲの部下でしょ」

「ハゲ? ああ、一川さんの事ですよね?」

「そう」

「あの一川さんとはお知り合いなんですか?」

「昔からの腐れ縁って奴」

「はぁ」

「なんか、むしゃくしゃしていたみたいだけど。何かあったの?」

「実は事件の捜査で行き詰っていて」

「大変そうね? 私で良ければ手伝うけど」

「いや、でも」

 おばちゃんは絢巡査長が何を言いたいのか察したらしく話を続けた。

「私がただの食堂のおばちゃんだと思ったら大間違いだよ。こう見えていくつもの事件を解決してきたんだから」

 絢巡査長も自信満々のおばちゃんを見て、いっそのこと相談してみようと思い立った。

「実は、この紋章というかマークなんですけど」

 おばちゃんに銃弾に記載されていた紋章の写真を見せた。

「あーこれ、町田萬侍苦巳まちだまんじぐみのマークじゃない」

「町田萬侍苦巳?」ピンと来ない絢巡査長は首を傾げる。

「そうそう。町田周辺を活動拠点にしている暴走族」

「暴走族ですか」

「うん。でも、ここの組織はとっくの昔に解散したはずなんだけどね」

「もし良かったら、詳しい話を聞かせてもらえませんか?」

「勿論、良いわよ。じゃあ、お近づきの印に」おばちゃんがそう言って、手をパンパンっとと叩くと奥から二人分のケーキとコーヒーを持った職員が絢巡査長の座る席へと持ってきた。

「じゃあ、気合を入れて話さなきゃね」

 おばちゃんはそう言って、絢巡査長の目の前の席に腰を降ろすのであった。

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