仲間-7
長四郎が訪れたのは会長室であった。
ラッキーな事に会長室には鍵はかかっておらず、すんなりと中に入ることが出来た。
「良いの? 勝手に入って」
「あのジジィは絶賛入院中。好き勝手見れるのは、今の内だけだぜ」
長四郎はそう言って、ファイルが収納されている本棚から探索を始めた。
その棚に置いてあるファイル全て中身の無いからファイルであった。
「ここに置いてるのって」
「お察しの通り、飾りだな。ここに置いてあるのは」
長四郎はそう答えると、下段の引き戸を開ける。
そこにもファイルが収納されていた。
「どれどれ」
その中の一つを手に取り中身を確認する。
「決算書みたいだな」
ペラペラとページをめくりながら、ファイルの中身を検める。
「何かおかしなところでもあるの?」
「畑違いの分野だから、分かんなぁ~い」長四郎は軽い感じで答える。
「何それ」
燐は手に持っていた中身の無いファイルで、長四郎の頭を叩く。
「痛っ!!」
燐から逃げるように長四郎は、夏月会長の机の引き出しの調査に乗り出した。
「一番上は、鍵がかかっているわけね」
上段の引き出しを引っ張っても開かなかったので、中段の引き出しを開ける。
中段には、手帳が一つだけ入っていた。
手帳の中身を確認すると、真っ白な手帳であったのだが筆跡だけはあるのに何も書かれていなかった。
「変な手帳やな」長四郎は筆跡が濃い部分のページを写真に収め元に戻して下段に移る。
「どう? 何かあった?」
燐は別のファイルを見ながら長四郎に成果を聞く。
「Nothing」
「そぉ」
そこから沈黙の時が流れ、各々作業に勤しむ。
5分後、長四郎が声を上げた。
「ここは、もういいや。移動しよう」
そう言いながら立ち上がり、燐の方を見ると床にファイルを大量に積み上げて中身を検めていた。
「おい、一冊ずつ戻しながら見ろよな」
「あ~はいはい」燐はそう返事しながら適当に出したファイルを戻していく。
「おい、適当に戻すなよ。背表紙の日付通りに戻せよな」
長四郎は苦言を呈しながら、日付通りに戻していく。
「あんた、そんなに細かいと嫁さん貰えないよ」
「それは逆だわ。そんなにがさつだと旦那さんできないよ」燐の口調を真似する長四郎。
「どういう意味よ!」
「痛い、痛い、やめて!! ラモちゃん、やめて!!!」
燐のぐりぐり攻撃を受ける長四郎は、必死で許しを請う。
燐の攻めから解放された長四郎は、11階に移動した。
11階のフロアは営業部であった。
営業のサラリーマンたちがフロア中を駆け回っていた。
「声かけれる感じじゃないな」
「そうね」
燐もその言葉に同意する。
長四郎はスマホの時計を確認すると、午前10時38分を示していた。
「ここを攻めるのは、別日にしよう。そろそろ目的のメインゲストがここに来るから、そっちに行くよ」
「分かった」
二人は営業部の調査を切り上げて、売店のある3階に降りる。
「はい、受領しましたよ」
売店のおばちゃんが受領書にサインして、河合に渡す。
「じゃあ、明日も宜しくっす」
河合が台車を持って売店を出ようとすると、長四郎達と出くわした。
「トラベル弁当の河合さんですよね?」長四郎は開口一番、そう尋ねる。
「はい、そうですが。お宅は?」
「申し遅れました。私、こういう者です」
河合に名刺を渡すと「俺にどのような用件ですか?」そう聞いてきた。
「大した話ではないんで、駐車場に向かいながら話しましょうか」
「分かりました」腑に落ちないまま話すことになった河合は次の配達先に向かう為、歩き始めた。
「徹田さんの事件を仕組んだのは、夏月会長だっていう噂を流していると聞いたものですから」
「流しているというわけではないっすよ」
「ええ、世間話程度で話したことは想像できるんで、その噂の出所を知りたいんです」
「そういう事っすか」
「そういう事っす」燐が河合の言葉を復唱する。
「それが覚えていないんすよ」
「覚えていない?」
「はい」
三人はエレベーターホールに着き、燐はすぐさまボタンを押しエレベーターを呼ぶ。
「その人がどういう社員だったとか覚えていませんか?」
「男性社員だったかと」
「男性社員ですか? ここの社員さんとはよく話したりするんですか?」
「まぁ、時々っすかね。自分、こういう恰好すけど、気さくに話しかけられるんすよ」
「なんか、良いすね。俺なんかとっつきにくいみたいな感じで、学生時代とかもよく孤立した側の人間なんで」そう言う長四郎の顔が少し寂しそうに燐には見えた。
下行きのエレベーターが来たので、三人は乗り込み地下駐車場へと向かう。
エレベーターには他の社員が乗っていたので話は一時、中断された。
地下駐車場の階について他の社員と別れ話が再会した時には、配送車の前であった。
「最後に、一つだけお聞かせ願えませんか?」
長四郎は、空になったケースを車に積み込む河合に尋ねると「何でしょうか」そう返しながら作業を続ける。
「ありがとうございます。新垣さんという社員さんはご存知でしょうか?」
そう言った瞬間、河合が固まる。
「い、いやそんな社員さんは知らないっす」
「そうですか。ここまで付き合って頂き、ありがとうございました」
長四郎は礼を言い、その場を去る前に車の後部座席をちらりと見る。
工場で見た車と同様後部座席を倒してフルフラットにしていたのだが、後部座席の背面に変なくぼみがあるのを見逃さなかった。
河合に気づかれないように隠し撮りして、燐と共にその場を後にした。
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