結成-11

 それから3日後の朝、新たな事件が発生した。

 赤山が殺されたのだ。

「寒いっすね」

 身体を擦りながら事件現場へ臨場する為、長四郎と一川警部は荒川の土手を歩いていた。

「そうやね」

 4月とはいえ、まだまだ冷え込む。

「で、殺されたのが赤山って子でしたよね」

 長四郎は歩きながら、事件の情報を聞き出す。

「そうそう、例の生徒会のメンバー。最初に話を聞いた男子だったばい」

「そうでしたっけ?」

「そうだよ」

 規制線の前でたむろする野次馬どもを搔き分け、2人は規制線の向こう側へ入る。

 鑑識員の邪魔にならないよう死体があるビニールシート製の簡易テントを潜ると赤山の刺殺体がすぐ目の前で横たわっていた。

 2人は死体を見て、手を合わせ合掌する。

「状況は?」

 一川警部は近くに立っていた所轄署のモブ刑事に、現在までの情報を聞き出す。

「あの貴方は?」一川警部の身元を確かめるモブ刑事。

「ああ、あたしは警視庁捜査一課命捜班・班長の一川です。

と言っても、1人しかおらんのやけど」

 警察手帳をモブ刑事に提示すると階級で判断したのか、すぐさま、一川警部そして、横にくっついている長四郎に敬礼するモブ刑事。

「肩っ苦しい挨拶はいらんけん。事件の説明をしてくらい」

「はっ! 被害者は、私立芸春高等学校に通う赤山」

「それは知っとるからよかよ。死因は何とね?」

「刺されたことによる失血死です」

「どこを? こういう時は具体的に報告せな、いかんばい」

 刑事なり立てであろうモブ刑事に、一川警部は優しく指導する。

「申し訳ありません! 詳しいことは解剖してからですが、現状は胸を一突きされたのが致命傷との事です」

「分かった?」

 一川警部は、モブ刑事の説明を理解できたかを長四郎に確認する。

「はい」

「あの、これって殺人ではあるとは思うんですけど。強盗殺人若しくは普通の殺人。どちらの線で捜査してるんですか?」

「強盗です。すいませんが、貴方も命捜班の方ですか?」

 モブ刑事は長四郎の質問に返答すると共に、長四郎に逆質問をする。

「一川警部が言っていましたよね。命捜班は一川警部、1人だって」

「ということは、貴方は刑事じゃないんですか?」

「はい、そうですけど」

「な、何をやっているんだ!! 来い!!!」

 モブ刑事は長四郎をテントから追い出そうとする。

「ちょっと、ちょっと。何しとると。

こん人はここに居てもらわんと困るから。

責任はあたしがとるからねっ」

 一川警部の説得もあり、モブ刑事は納得したのか不明だが取り敢えず、文句は言わなくなったが、長四郎に対しては終始、白い眼を向けてくる。

「死体に変なところは見受けられませんね」

 赤山の遺体をまじまじと観察し、一川警部に感想を伝える長四郎。

「あたしらが追っている事件とは、関係は薄そうやね」

「あのその事件というのは?」

 モブ刑事が、自殺事件の情報を聞き出そうとする。

「さぁ?」

 ハブらかし長四郎を連れてテントを出ると菅刑事に出くわす。

「あんたら」

 菅刑事もまさか、この2人が臨場しているとは思わず驚いた表情を見せる。

「あ、悪徳刑事だ」

 長四郎は笑顔で、菅刑事を指さす。

「公務執行妨害で逮捕するぞ」

 長四郎を睨み、釘を刺す菅刑事。

「きゃあ~怖い。聞きました。一川警部」

 一川警部はしがみつく長四郎を引き離し、菅刑事に近づき耳元で囁く。

「調子に乗るなよ。クズが。まぁ、残りの刑事人生楽しめよ」

 菅刑事が横目で一川警部の顔を見ると、冷徹な目でこちらを見ていた。

「行くばい。長さん」

 長四郎と一川警部は、そのまま事件現場を去った。


 一方、燐は緊急の全校集会で田中山校長から赤山が事件に巻き込まれたとの説明を聞かされた。

「え~校友が事件に巻き込まれてしまい、残念な結果になりました・・・・・・」

 燐もまた今回の事件との関連性を疑っていた。

 が、長四郎からまだ今回の事件についての連絡がないので考えあぐねていた。

「皆さんも是非、気をつけてください。え~次に生徒会長の青山君からもお話があるそうです」

 そこで青山と入れ替わり、青山はハンカチで涙を拭いながら話始める。

「僕たちの仲間の赤山君が亡くなりました。今にも胸が張り裂けそうな気持ちでいっぱいです」

「ぷっ!!」

 青山のあまりに臭いその一言に思わずふいてしまう燐。

 周りの生徒は、不謹慎だと言わんばかりに燐に冷たい視線を向ける。

「すいませ~ん」

 取り敢えず、燐は平謝りをし、青山の演説に聞き耳を立てる。

「彼と最後に会ったのは昨晩の事で・・・・・・整理が・・・・・・つきません。

僕は犯人が許せません!!」

 青山は叫ぶと一人の男子生徒が立ち上がり「よく言った!!」と言うと他の生徒達も立ち上がりスタンディングオベーションする。

 その異様な光景に燐はゾッとする。

「皆さんの気持ちよく伝わりました。是非、寄付を宜しくお願い致します!!!」

 青山は、名一杯のお辞儀をする。

 要は、香典を出せという事だろうと燐は思う。

 そこからも少し話はあったが葬儀の参加についての話とかで、すぐに全校集会は終わった。

 燐は青山が事件前に被害者の赤山に遭っていたとの事で、青山をマークすることにし直ぐに行動に移す。

 次の休み時間に、青山を尾行していると全校集会で声を上げ立ち上がった男子生徒と空き教室で落ち合っていた。

「これ、報酬」

 青山は茶封筒を男子生徒に渡す。

「おっ、サンキュー」

 男子生徒は茶封筒から1万円札を出して財布にしまう。

「演技、勉強しろよ」

「うるせー」青山の指摘に男子生徒はそう言い返す。

 燐はそんな一部始終を写真に押さえ、陽気にその場を後にする。

 その走り去る姿を青山に目撃されていたとも知らずに。

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