大物-27
森下邸の長い廊下を走る長四郎を慌てて追いかける燐、一川警部、絢巡査長。
「音々さんを家に帰すんじゃなかった!!」
長四郎は後悔の念を抱きながら、、駆け足で廊下を駆ける。
「長さん。自宅近くの警察署から刑事を向かわせたばい」
「間に合えば良いですけど!!」
自分達が乗ってきた覆面パトカーに乗り込み、紅音々宅に向けて大急ぎで車を飛ばした。
「全く。困った爺さんですね」
運転する絢巡査長がそう言うと「ホントに。今度、あの面拝んだらぶっ飛ばしてやる!」燐は怒りを込めた拳を自身の掌にぶつける。
「ぶっ飛ばしといて、よくそんな台詞が吐けるね」
「ホント、ホント」
車内はどっと笑いに包まれる。
「失礼しちゃう」
燐は顔を真っ赤にして隣に座る長四郎に肘うちをする。
「間もなく、家に着きます」
「さ、みんな気ぃ締めていくばい!」
一川警部は残りの三人を鼓舞し、車を降車しマンションへと駆け足で向かう。
音々の部屋に向かうと、部屋の中から凄い物音が聞こえてきた。
「行くぞ!」
一川警部の号令に三人は頷き、一川警部がドアを開けると同時に部屋へ突入する。
長四郎達が部屋に乗り込むと、美麗が数人の黒服達を引き連れて音々の部屋に押し入っていた。
「はぁ~い。それまでよぉ~」
長四郎がそう声を掛けると、男達と美麗は同時に長四郎を見る。
「どうもぉ~」長四郎は恐縮そうに手を振る。
「やっておしまい!!」
美麗の号令と共に、黒服達と長四郎達の闘いが始まる。
「はぁ~ 疲れたぁ~」燐は額から吹き出る汗を拭う。
男達をものの数分で取り押さえた長四郎達。
「離しなさいっ!!!」
手錠を掛けられた美麗は長四郎達を怒鳴りつける。
「離しなさいだってよ」
「無理な話って、分からないのかな?」燐は美麗を嘲笑した。
「私を誰だと思っているの! 森下衆男の秘書なのよ!!」
「虎の威を借りる狐って、所やね」
「一川さん。上手い!!」長四郎が拍手を送ると、一川警部は顔を真っ赤にして照れる。
「良いこと教えてあげましょうか?」と絢巡査長。
「何?」
「森下衆男さん。大物フィクサーって言われる割には、気の小さい人でしたよ」
その頃、警視庁に連行される森下の顔に氷嚢が当てられていた。
事件は解決したが、森下衆男は只で捕まる程、安い人物ではなかった。
自身が逮捕された際に、ある爆弾を仕掛けていた。
それは、自身を頼ってきた人物が幾ら収賄したかを刻銘に記録した帳簿をマスコミにリークし、道ずれにしたのだ。
それは日本社会を揺るがす大事件になった。
政治家はもちろん官僚、有名企業の取締役連中と各々、自分達の希望が通るよう便宜を図ってもらう為に、多額の賄賂を渡していたのだ。だが、それが盛んだったのは二十年も前のことでここ最近は、めっきりと少なくなっていた事も帳簿から判明した。
なので、近年、森下の力が弱まっている事も分かり、厳しい結果が待っている事も決まっていた。
そんな混乱が巻き起こっている中、事件を解決した探偵はというと・・・・・・
「ああ、仕事が溜まっているよぉ~」
長四郎はノートパソコンをパタンっと閉じて、目頭を押さえる。
「馬鹿ねぇ~ 調査の傍らに作っておかないから」
そう言う燐はというと、ソファーに寝転がりながら吞気にジュースを飲みテレビを見ていた。
「誰のせいで、こんな事になっていると思っているのよ」
「私のせいって言いたの?」燐は身体を起こすと、「いえ、そう言う意味で言ったわけでは・・・・・・ さぁ、仕事、仕事」と長四郎は愛想笑いをし再びノートパソコンを開いて仕事に戻るふりをして誤魔化す。
「あ、そういえばさ、富有子さんと音々さん韓国旅行に行くことになったんだって」
「だから、なんじゃい」
「ありがとうって言ってたよ」
「そうですか」
「そうですか。って、あ、こうも言ってたな。報酬を振り込んだって。色を付けたとかなんとか」
燐のその発言を聞き、長四郎はすぐにネットバンキングを確認する。
確かに口座に報酬が振り込まれていたのだが、手付金のはずだった百万円が成功報酬として払われており、色など付いてなかった。
「噓つけ。色なんか付いていないじゃない」
「そんな訳ないでしょ」
燐は面倒くさそうに長四郎がいる作業デスクに移動し、ネットバンキングを確認する。
「色、付いているじゃん」
「え? どこぉ~」
「ほら、ここ」
燐が指した先は振込みの名義人の欄だった。
そこには、“富澤富有子 ありがとう ”という文字が書いてあった。
完
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