映画-9

 長四郎が撮影所で台本を読んでいる時、一川警部と絢巡査長は鑑識捜査員を連れて池元 知美が殺害された港区の倉庫で再捜査に及んでいた。

「いいか!! どんな証拠も見逃すな!!!!」

 鑑識課長の掛け声に、捜査員達も野太い声で返事をする。

「す、凄いですね」

 絢巡査長は鑑識捜査員の熱意に押される。

「これが、我が警視庁が誇る南大門軍団たい」

 一川警部は誇らしげに言う。

「へ、へぇ~」

 絢巡査長は邪魔にならぬよう倉庫を出て、所轄署が調べていた防犯カメラの所在の再確認をして倉庫街を歩いて回る。

 一つまた一つと確認していると、資料にはない防犯カメラを発見する。

 現場の倉庫から30m離れた倉庫の非常階段の1階部分に、それはあった。

 絢巡査長はすぐ様、一川警部を呼び倉庫の所有者を探す。

 1時間後、倉庫の所有者から話を聞き、録画してあった防犯カメラの映像を入手し本部に帰投した絢巡査長。

 一川警部は倉庫で新証拠を未だ探している。

 貰った防犯カメラの映像をチェックする絢巡査長。

 事件当夜の時間まで早送りすると被害者の池元 知美が、タクシーから降りてくる所が映っていた。

 タクシーが走り去り、知美が降車場所で辺りをキョロキョロと見まわしながら誰かを待っているようであった。

 それから5分程経過した頃、1台のバイクが知美の前に止まる。

 ライダーはヘルメットを取る。

 その正体は、恵一であった。

 録音はされないタイプの防犯カメラで、会話の内容は聞こえないが口論しているのだけは映像から見て取れた。

 約15分口論し、恵一はバイクを走らせその場を後にする。

 知美は、むしゃくしゃしていたのか、何かを叫びながら居座っている。

 すると2,3分後、バイクがその場に戻ってきた。

 恵一はメットも外さず、バイクから降りず知美に何かを当てると知美は倒れた。

 知美を引きずりながら、事件現場の倉庫に消えていくのが映っていた。

 それから少し経った辺りで、恵一がバイクを取りに来て倉庫の方に走らせる所までしか映っていなかった。

 時間としては、死亡推定時刻にピッタリの時間であった。

「ふぅ」と息を吐き、化粧ポーチに入っている目薬を取り出し点眼する。

 犯人は恵一なのか、そんな事を考えていると一川警部から着信が入ったのですぐ様電話に出た。

「はい。絢です」

「絢ちゃん、あたしらはここいらで引き上げることになったから。今日は、もう帰りな」

 その言葉を受けて、時計に目を向けると17時を示していた。

「ありがとうございます。

一川さん、あの犯行時刻に長さんが捜索している三玖瑠 恵一が映っていたんですけど」

「それ、ホントね」

「はい」

「長さんに連絡して、そこから長さんの指示に従って。もしかしたら、残業してもらうかもしれんけど。ごめんね」

「いえ、それが仕事ですから」

「そう言って頂けると助かるばい。じゃ、そういう事で」

 通話はそこで終了し、絢巡査長は発見した内容を長四郎にメッセージで連絡するとすぐに電話がかかってきた。

「もしもし、絢ちゃん。メッセージ見たけど、あれマジ?」

「マジです。見ますか?」

「明日でも良い?」

「構いませんけど」

「ごめんね。じゃあ、明日宜しく」

 これまた、一方的に通話を切られる。

 どうして男というものは一方的な生き物なのだろうかと思っていると、今度は部屋の内線が鳴る。

 それに出ると、燐が訪ねてきたとの事であったので1階のフロアに待つよう受付に指示をし、帰宅の準備をして1階に降りていく。

「ラモちゃん、どうしたの?」

 受付近くで俯いている燐に話しかける。

「すいません。お忙しいのに」

 燐は頭を下げて、絢巡査長に謝罪する。

「ううん。もう、帰る所だから。何か、食べに行こう」

「はい」

 2人は、夕飯を食べに行った。

 ジュ~

 網の上で焼かれる肉のいい音がする。

 燐と絢巡査長は、渋谷にある芸能人がオーナーの焼肉屋に来ていた。

「明日も、仕事なのに焼肉食べて大丈夫ですか?」

 燐が肉を焼きながら、ビールをグビグビ呑む絢巡査長に尋ねる。

「良いの、良いの。好き勝手な男どもを少しでも苦しめてやろうと思ってね」

 燐が焼いていた肉を取り、頬張る絢巡査長。

「ホント、それです。こっちが、何を聞いてもはぐらかすし」

「そうなの?」

「そうですよ。里奈のお兄さんの行方を探しているようには見えなくて、真意を聞こうとしたら黙ってついてこいみたいな感じだし」

 燐は良い色で焼きあがった肉を三枚取り、タレにつけ白米と共にかきこむ。

「溜まっているんだね」

「ふぁい(訳:はい)」

 口をもごもごさせながら燐は返事をし、口の中にあった物を飲み込むとある提案をする。

「あの、もし良かったら私と事件を解決しませんか?」

「え?」

「言葉の通りです。あのバカ(長四郎)は、いつもゴリ押しで事件を解決するじゃないですか。

あれなら、私にも出来るかなって」

「そう」流石に、それは無理だろうと絢巡査長は思う。

「で、私がバカ(長四郎)より先に里奈のお兄さんを見つけます。多分、絢さん達が追っている事件と関わりがあるんですよね」

「うん」絢巡査長は思わず素直に認めてしまい、気まずい顔をする。

「だ・か・らこそ、あのバカ(長四郎)とハゲ(一川警部)の鼻の穴を明かすチャンスですよ!!」

「それも・・・・・・そうね!!」

 酒が入っている為か、気が大きくなり燐の提案に賛同する。

「じゃあ、教えられる範囲で捜査情報を教えてください。

私もバカ(長四郎)がどこまで調べているのか、教えますから」

 燐はそこから絢巡査長と持っている情報交換を、焼肉に舌鼓を打ちながら行うのだった。

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