映画-10
長四郎は絢巡査長の約束を果たす為、命捜班の部屋に訪れると一川警部だけしかいなかった。
「あれ、絢ちゃんは?」
そう言いながら長四郎は当たり前な感じで、命捜班に置いてあるコーヒーメーカーで珈琲を作り始める。
「ああ、ラモちゃんとどこか行ったばい。
長さんにこれ見せといてって言われて」
「なんで、ラモちゃんが出てくるんですか?」
「そんな事、私も知らんよ」
「まぁ、小娘2人の事はほっといて俺達は、俺達の仕事をやりましょう」
「そうやね」
長四郎はコーヒーメーカーが珈琲を淹れ終わるまでの間、防犯カメラの映像を一川警部に見せてもらう。
「ん~」
長四郎は映像を見て顔をしかめながら、金田一耕助のように頭をボリボリ掻く。
カチッとコーヒーメーカーから、珈琲が出来た音が鳴る。
「ちょっと、失礼」
長四郎は動画を一時停止し珈琲を長四郎専用のマグカップに珈琲を注いで再び、席に着き再生させる。
珈琲を飲みながら、早戻し、早送りを繰り返しながら1時間近く見ていた。
「長さん、何か分かったの?」
珈琲を飲みながら長四郎の横に座る一川警部。
「さっぱり、ピーマンですわ」
長四郎は、両手を上げる。
「さっぱり、ピーマンね。参ったばい」
一川警部も燦然と輝く頭をぺちぺちと叩いていると、内線が掛かってくる。
「はい、命捜班一川です。おっ、採取した髪の毛のDNAが男性のもの。それと、以前現場から採取していたバイクのタイヤ痕が、防犯カメラのバイクのタイヤと共通の車種やったとね」
長四郎にアイコンタクトを送ると、長四郎はすぐに里奈へと連絡を取る。
「どうしました? 熱海さん」電話に出たのは、舞香であった。
「今、里奈さんは撮影中ですか?」
「ええ、そうですが」
「では、撮影終わり次第、至急連絡して欲しいと伝えてください。すいません。宜しくお願い致します」
「はい、分かりました」
いつもとは違う長四郎の口調に只ならぬ事態だと感じ、舞香はすぐに了承し通話を切る。
「長さん、犯人は・・・・・・」
「どうでしょうね。その髪の毛が恵一のものかで、今後の捜査方針が決まりますけど」
「長さんは、これからどうするの?」
「バイクのウラも取りたいですけど。連絡待ちな所があるんで、このマネージャーと恵一が揉めていたのは現マネージャーから証言は取れているんでそれのウラを事務所から取りたいんです」
「じゃあ、事務所行こうか」
「うっす!!」
長四郎と一川警部は、里奈の事務所へと向かった。
里奈が所属する芸能事務所は六本木にあった。
一応、アポなしで突撃する訳にはいかないので、事前に連絡をして訪れるとすぐ様、事務所社長から直接話を聞けるとの事で2人は応接室に通された。
「なんか、場違いな感じやね」
一川警部は田舎から出てきた勤労少年のように、キョロキョロと部屋を見回す。
「そうすね」
長四郎は適当に返事しながら、恵一の事を考えていた。
仮に、恵一が犯人だとして最初の被害者以外、殺害する理由が思い当たらない。
それに、最初の事件現場にだけ痕跡を残している。
最初の事件と残りの7件の事件は関係ないのか?
そんな事を考えていると一川警部が「長さん、長さん」と呼び掛けてくる。
それで我に返ると目の前に、事務所社長が座っていた。
「ああ、すいません。探偵の熱海です」
長四郎は咄嗟に挨拶しながら、名刺事務所社長に差し出す。
「話は小倉から聞いています。里奈のお兄さんを探しているとか」
「ええ、そうです。そこまで知られているのなら、話はすぐに済みます」
「というと?」
「殺害された池元さんが里奈さんのお兄さんと揉めていたというお話を聞きまして」
「そうですよ。その件で、お兄さんが1か月前にこちらに訪ねてきましたし」
「え? 1か月前ですか? 池元さんが殺害されたのは2ヶ月前でしたが」
「私も不思議に思いながら、応対したんですけどね」
「どの様な内容を聞かれたとですか?」
一川警部がそこで交わされた内容を質問する。
「確かぁ~
里奈が池元とトラブルがあったのではないかと聞かれました」
「実際、そのような事はあったんですか?」
「私もね、忙しいのでそこまでは把握していないと答えました。只・・・・・・」
「只?」
長四郎は復唱する。
「原因は、あなたにあるんじゃないですかとだけは言いましたね」
「因みに何ですけど、どうして池元さんと揉めていたんですか?」
「それは・・・・・・」
それまでペラペラと話していた事務所社長は、口ごもる。
「教えて頂けませんかね? あなたの所属するタレントにキズが付く可能性がありますけん」
一川警部のその言葉を受け、事務所社長はバツが悪そうに話し始める。
「里奈が住んでいるタワマンの家賃を払っているのは事務所ですからね。
それにお兄さんはヒラのサラリーマンで、あそこの家賃を支払える能力がないのに妹のあにだからって住まわれてもね。事務所としては、池元と住まわすつもりだったので。
でも、海外にいるご両親からもお兄さんとの暮らしを望んでいらっしゃったんで、渋々」
「それで追い出そうとあれこれ嫌がらせをしていたと?」
長四郎は適当な事を言って、相手がどう出るか様子を見る。
事務所社長は、長四郎を睨み付ける。
「どういう意味です?」
「深い意味はありません。
これで、失礼します。行きましょう、一川さん」
「そうやね。また、話を聞くかもしれませんがその時は宜しく」
一川警部はそう事務所社長に伝え、事務所を後にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます