映画-11

 長四郎が事務所を後にしてすぐに里奈から折り返しの連絡があり、撮影場所のロケ地から里奈の家に行くことになった。

 その為、ロケ現場へと移動した2人。

 近くの駐車場に車を停め、ロケ現場に移動すると燐と絢巡査長が撮影を見学していた。

「絢ちゃん、何しとうと?」

 一川警部は真っ先に、絢巡査長へこの場に居る理由を尋ねる。

「ああ、実は彼女からお兄さんの話を聞きに来たんです」

『ふ~ん』と長四郎と一川警部は二重唱で答えながら、相槌を打つ。

「そう言うバカは、どうなのよ」

「おっ、遂に呼び方があんたからバカに変わったな」

 長四郎は、冷たい目を燐に向ける。

「んなことはどうでも良いの。答えなさいよ」

 燐もその目線に怯まず、長四郎を睨み付ける。

「探偵には守秘義務ってのがあってな。簡単に答えられないの。分かった? バカ女」

 長四郎がその言葉を口にした瞬間、長四郎の体は宙を舞い演技中のイケメン俳優に突っこみそのまま倒れる。

「カット! カット!!」

 監督がすぐ様、カットをかける。

「あんた!! 何、考えてんだ!! 本番中だぞ!!」

 助監督がイケメン俳優を下敷きにしている長四郎の元へ駆けつけ、状況を確認すると、長四郎の唇とイケメン俳優の唇が重なり合っていた。

 映画の撮影と聞き見学と称して来ていた野次馬が、あられもないイケメン俳優の姿をみて奇声を上げる。

 そして、ショックのあまり気絶し倒れる者が出る始末。

 撮影現場は地獄と化し、撮影は中止となり解散となり、イケメン俳優は大事を取って、一晩入院する事になった。

 意識を取り戻した長四郎は、一川警部から里奈の家に行くことになったと伝えられる。

 その里奈は、おばちゃん達に囲まれサインを書いていた。

「あんたも体だけには気をつけなさいよっ!!」

 ヒョウ柄の服を着たおばちゃんが、里奈の肩を叩きながら大笑いする。

「はい、ありがとうございます!」

 可愛い笑顔で里奈は、元気に返事する。

 おばちゃん達と少し談笑し、舞香の切り上げ宣言を受けおばちゃん達は里奈と舞香に飴を渡して帰って行った。

「行きますか!」

 長四郎は自分の尻を叩き、はっぱをかける。

 再び、里奈が住んでいるタワマンを訪れる長四郎達一行。

「里奈ちゃん、部屋に行く前にお兄さんのバイクを見せてくれる?」

 車から降りてすぐ長四郎は里奈にお願いすると「分かりました」と了承し、駐輪場に連れて行ってくれた。

 恵一のバイクは、ホンダのシャドウファントム750であった。

「兄妹揃って、大型のバイクに乗っているんだね」

 長四郎は里奈のバイクを見た時と同じように、マジマジと観察する。

「はい。あの、どうして兄のバイクを調べるんですか?」里奈は自分の疑問を長四郎にぶつける。

「いや、お兄さんがバイクを持っていたと話を聞いてね。もしかしたら、家出の可能性もあるし。バイクを自分の脚として使っているのではないかなと。でも、使ってないみたいね」

「成程」と理解する里奈。

 ここで、一川警部が話に入って来る。

「もし良かったら何ですけど、このバイク。鑑識作業させて貰えませんか?」

「あ、あの兄は何かの事件に関わっているんですか?」

 不安そうな表情を浮かべながら、里奈は長四郎に聞く。

「その可能性も視野に調べてはいますが、あのバカ女から何か変なこと言われたんですか? バカ女に何を言われたのか知りませんが気にしないでください」

「里奈、そのバカの言う事は信用しないでね」と燐が言う。

 里奈はいがみ合う2人に、どの様な対処が正しいのかと苦笑いを浮かべる。

「絢ちゃん、この二人喧嘩するとマジめんどくさいね」

「全くです」

 バイクのナンバーを控えながら、一川警部の言葉に頷く絢巡査長。

「じゃあ、お兄さんの部屋を見せて貰って良いですか?」

「はい」

 長四郎の要望を応えるべく五人は、里奈が住む部屋へと移動し、恵一の部屋へ通された。

「どうぞ。終わったら教えてください」

 里奈は自室へと消えた。

 残された長四郎、燐、一川警部、絢巡査長の四人は、好き勝手に部屋を物色し始める。

 長四郎は恵一のクローゼットや衣装ケースを開け閉め、内容物を確認する。

 一川警部と絢巡査長は、ピンセットとチャック付袋を両手に持ちながら部屋に落ちている髪の毛を採取している。

 燐も負けじとキャスター付きの棚に置いてある本を片っ端から、適当にパラパラとめくる。

 各々が黙々と作業を進めていると、燐が棚のウラにある新聞の切り抜きの端っこを見つける。

「何これ?」

 燐が棚を動かそうとすると、「ああっ!!」といきなり長四郎は棚を動かさないよう押さえる。

「何するのよ!!」

「ここには、大人しか見てはいけない世界がある」

「はぁ? 何それ。意味わかんないんだけど!!」

 燐は必至で動かそうとし、長四郎は一生懸命にそれを阻止していると部屋のドアがノックされる。

『はい!!』

 長四郎と燐は声を揃えて返事すると、里奈が怯えた顔でドアから覗かせる。

「あ、あの、ご飯を頼むんですけど。良かったら、一緒にどうですか?」

「いや、そんな甘えるわけには。お願いします!!」

 一川警部は居の一番に綺麗なお辞儀をする。

「ちょっと、一川さん!!」

 絢巡査長は、その様子を見て呆れる。

「一川さんの言う通りにお世話になろう。

バカ女は、里奈ちゃんと食するモノを決めてこい」

「ああ!? 学習能力ないバカ、さっきのように投げ飛ばしてやろうか?」

 燐は、長四郎がイケメン俳優とキスしている写真を見せる。

「ひゃっ!!」

 長四郎は可愛い声を出して、両手で唇を押さえる。

「何が「ひゃっ!!」よ。キモっ!!!」

 燐の発言に残りの3人は、うんうんと頷く。

「なんにせよ。燐様は、里奈ちゃんと共にご飯を選んで下さい。

宜しくお願い致します」

 長四郎は一川警部に負けない綺麗なお辞儀をする。

「そ、そこまで言うなら。里奈、何食べようか?」

「そうねぇ~」

 そんな会話をしながら、燐は部屋を出て行った。

「行ったか・・・・・・」

 そう言いながら顔を上げた長四郎は、キャスター付きの棚をずらして壁に貼られた新聞記事を一川警部と絢巡査長に見せる。

「これはこれは」

 一川警部はその新聞記事を写真撮影する。

「さ、邪魔者は居なくなったので。本腰入れてやりますか!!」

 長四郎達は部屋の隅から隅まで、事件に繋がる証拠品や痕跡がないか捜索を開始した。

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