詐欺-16

「もしもし?」

 防犯カメラ映像の確認をし終えた燐は今。長四郎に電話をかけていた。

「もすもす。何か分かったの?」

 長四郎の呂律に違和感を覚えた燐は「もしかして、お酒飲んでる?」と質問すると「That’s Right.ヒッグ!!」としゃっくりと共に答えが返ってきた。

「はぁ~」深い溜息をつき燐は話を続ける。

「あの、尾多が化粧品を買ったっていう証言と証拠が取れたわよ」

「あ~そぉ~」気のない返事をした。

「あ~そぉ~って。こっちは足を棒にして頑張ったんだよ!!」

「あ~はいはい。悪いけど、続きは明日ってことで。じゃ」という言葉で通話は終了した。

「何なのよ!! あいつ」

 燐は今にもスマホを床に叩きつけたい気持ちをグッと堪える。

「ラモちゃん、どうかしたの?」一川警部に報告をし終えた絢巡査長が燐に質問する。

「あのバカ、私達がこんなに頑張っているのに酒なんか飲んでいたんですよ」

「いつもの事じゃない。それよりさ、ご飯食べに行こう。私、今日は上がりだから」

「はい、分かりました」

 こうして、燐は絢巡査長と夕飯を食べに行った。

 そして、燐との通話を切った長四郎はBLADE BLOODから鎌飯の尾行を開始していた。

 実はオンジンの編集室に行った際、外出用のカバンに探偵道具の一つGPSを仕込んでおりオンジンの行方を調査していたのだ。

 警視庁で絢巡査長に尾多の件を頼んだ後、オンジンが移動したので長四郎は向かった先を特定し、BLADE BLOODに客として潜入した。

 VIPルームに通されたらしく、オンジンの姿は目視できなかったが飲み終え退店しようとする鎌飯の姿を見つけ、その後を追跡することにし今、鎌飯を乗せたタクシーを別のタクシーに乗りながら尾行する。

 長四郎は道中、鎌飯がどこへ向かっているかを考えていた。

 今、向かっている方向は免許証に書かれていた鎌飯の住所とは真逆の方向であった。

「お客さん、飲み直しですか?」タクシードライバーにそう声をかけられる。

「ええ、まぁ。そんなところです」

「でも、ここら辺に飲み屋はなかった気がしますけどね」

 タクシードライバーの言葉通り、住宅街にタクシーは入ってきた。

「友人の家で飲み直しなんです」

「ああ、前のタクシーに乗っているお客はお連れ様でしたか」

 タクシードライバーは少し不思議そうな感じで、長四郎をバックミラー越しに見る。

 長四郎はタクシードライバーに愛想笑いをし、何とか誤魔化す。

 このタクシードライバーの考えていることはおおよそ察しがついていた。

 タクシーだってタダではない。二人で乗れば、割り勘で料金も半分で済むからわざわざ、別れて別々のタクシーに乗ることが変だという事だ。

 長四郎は、このタクシードライバーが出来るな。と感じながら目的地まで向かう。

 それから間もなくして、鎌飯を乗せたタクシーは止まり長四郎は前方のタクシーを通り過ぎるよう指示を出し、80m先の所で停車してもらい降車した。

 鎌飯が家に入っていった事を確認してから、長四郎はその家の前に移動する。

 その家は流行りのシェアハウスと呼ばれるもので、マンション名であるテラダハウスをネットで検索する。

 検索の結果、このシェアハウスはKuunhuberの為にオンジンとKuunが設立した家で住人全員がKuunhuberの卵若しくは、生計を立てている人間で構成されている事が専用ホームページに書かれていた。

「ここに居るのか?」

 長四郎はそう呟きながら、シェアハウスを見上げるのだった。

 翌朝、長四郎は警視庁に出向き廊下を歩いていると、「熱海長四郎~」という声を共に後方から強い衝撃を受け吹っ飛びながら命捜班のドアに衝突する。

「痛たたたた。さては、ラモちゃんだな」

 後ろを見ると長四郎の推察通り、燐が仁王立ちして長四郎を見下ろしていた。

「おい、よくも昨日は私をこき使ってくれたな」

「いや、俺だって。遊んでいたわけじゃないんですけど」

「あ!?」燐は長四郎に詰め寄る。

「な、何でもないですぅ~」

「取り敢えず、私達の成果を、耳をかっぽじてよぉく聞きなさい」

「はい」

 長四郎は燐に首根っこを掴まれたまま、命捜班の部屋に連れ込まれる。

「おはよう。長さん、絢ちゃん」

「おはようございます。一川さん」長四郎は項垂れながら一川警部に挨拶を返す。

「さ、座りな!」

 燐は長四郎を椅子に座らせる。

「今日はいつにもまして機嫌が悪いんやね」

 燐に聞かれないよう一川警部は、絢巡査長に耳打ちすると「実は・・・・・・」と昨日、長四郎が酒を飲んでいた事に燐が憤慨している事を伝えた。

「ああ、そげな事があればラモちゃんも怒るわけね」一川警部は納得したらしく、頷きながら燐の怒りに触れないように本題を切り出す。

「昨日、ラモちゃんと絢ちゃんが頑張ってくれたおかげで、尾多が事件に関わっている可能性がある事が判明したんやけど」

「ああ、購入していたって言っていましたね」長四郎が返事すると「あんたは、その時、酒飲んでいたけどね」と燐は苦言を呈す。

 一川警部は掘り起こしてしまったと後悔していると、絢巡査長が助け舟を出す。

「今、齋藤君が防犯カメラ映像を入手して来て貰っているんで。それで、長さんも酒を飲んでいただけじゃないですよね?」

「まぁね」

「マジで!!」燐は驚天動地のような表情になる。

「実は行方不明の人間の監禁場所? 的な所を見つけた」

「それはどこなの?」

「そう先を急ぐな」燐を制止し続ける。

「その場所って言うのが、シェアハウスなんだよ」

「という事は、監禁場所には不向きやっていう事やね」

「一川さん、その通りです」

「隠し部屋があるんじゃない?」燐のその一言にその場に居た全員が燐を見る。

「私、良いこと言った?」

「言ったかも!!」

 長四郎はそう言い放ち、命捜班に設置されているデスクトップパソコンのキーボードを叩き何かを検索し始めた。

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