詐欺-15

 六本木にあるキャバレークラブ・BLADE BLOODのVIPルームでは宴が開かれていた。

「いやぁ~今日の酒は上手い!!」鎌飯はそう言いながら、グラスに入ったウイスキーのロックを飲み干した。

「良い飲みっぷりぃ~」

 横に座っているホステスが手を叩きながら、褒め称える。

 そんな中、一人浮かない顔をしている人物が居た。

 オンジンである。

 そんなオンジンの隣に座るホステスは見逃さなかった。

「お客さん、楽しくないですか?」

「いや、そういう訳じゃないんだ。申し訳ないけど君達、席外してくれる?」

『はぁ~い』その場に居たホステス四人は詰まらなそうに返事しながら、VIPルームから出て行った。

「何で、外に出すの?」鎌飯はオンジンに不満をぶつける。

「何でって。鎌飯さん、彼らは、僕の家まで押しかけて来たんですよ。という事はだ。僕らが彼女たちを匿っているのに勘づいているかもしれませんよ」

「そうかもだけど。彼女達の居場所なんて分かりっこない!!」

 そう言いながら、鎌飯はウイスキーの水割りを自分で作り始める。

「鎌飯さん、良いですか? ここで、警察沙汰を起こせば今までの努力は水の泡です」

「水の泡って言うけどなぁ。へケべケを殺している時点でそのセリフは似合わないぞ」

「そうかもですね。そう言えば、尾多さんは今どうなっているんですか?」

「ああ、あいつは拘置所で自殺を図って生死をさまよっているらしい」

「それ、誰情報ですか?」

「俺が雇った弁護士」

「ふっ。そこまで、手配しているとは・・・・・・・」

「お前でもやるだろう」

「そうですね。あいつがいらぬことを言わないよう監視するためにも」

「まぁ、安心しろよ。あいつはその内、おっちじんじまうよ」

「ふざけるな」オンジンは真顔で鎌飯を見つめる。

「へ?」

 オンジンのそんな表情を見たことがなく、鎌飯は変な声を出してしまう。

「気を引き締めて物事にかからないと、足元から掬われますよ」

「そうかなぁ~」

 鎌飯は天井を見上げながら、つまみのピーナッツを口に投げ入れる。

「そうです。良いですか、これからあの刑事達が来ても何も受け答えしないでください」

「おい、それは違うだろ。そんな事してみろよ。逆に変に疑われるぞ」

「ええ、そうでしょうね。だから、鎌飯さんは何もしなくて結構です。後は、僕が彼らの相手をしますから」

「おい、働きすぎじゃないか?」

「僕の事は、気にしないで下さい。今の生活を守るために。それを邪魔する奴は誰であろうとどんな手を使ってでも潰す!!」

 オンジンは持っているグラスをテーブルに叩きつけて割る。

「あ~もうっ!!」

 お手拭きを持ってこぼしたウイスキーを慌てて拭くオンジンと鎌飯。

 その頃、燐はドラッグストアのレジに居た。

「あの、この男性って常連ですか?」

 燐はレジの店員に写真を見せながら尋ねると、「いや、分からないですね」という返答だけが帰ってきた。

 燐が見せた写真は、キャップを目深に被りマスクをしたオンジンがスーパーから出てくる写真であった。

「そうですか。ありがとうございました」燐は肩を落としながら、店を出た。

「ここもダメ」

 スマホのメモに書き記した当該店舗にバツ印を入れる。

「ら~もちゃん!!」後ろからそう声を掛けられたので振り向くと絢巡査長が立っていた。

「絢さん。どうして、ここに?」

「実は長さんに頼まれたことがあってね」

「もしかして、こいつの事を聞き周っているんですか?」

 絢巡査長に店員に見せた写真と同じ写真を見せる。

「ううん、違う。この人じゃないけど、聞きまわっているのは事実」絢巡査長はそう答えながら、燐に尾多の顔写真を見せた。

「ああ、こいつですか。で、どうなんですか。何か分かりました?」

「いや、今のところは成果ないけど。それより、ラモちゃん」

「何ですか?」

「長さんから聞いた話だと、ここら辺の捜査はしていないんじゃない?」

 長四郎が燐に頼んだ事とは、オンジンの自宅から徒歩圏内のドラッグストアで目撃情報がないか、そこで化粧品を購入したかを聞き出す事であった。

 そして、燐が今いる場所はオンジンの自宅から徒歩圏外の場所のドラッグストアであった。

「あいつからは、徒歩圏内って言われていたんですけど。全然駄目で、それでここまで範囲を広げて来たんです」

「そうだったんだ。私、今からこの店に聞きに行くんだけど。来る?」

 その言葉に乗った燐は絢巡査長に同行する。

「あの警察ですけど。少し聞きたいことが」絢巡査長は警察手帳を見せながら、燐と会話を開始した店員に話しかけた。

「何か?」

「この男性がこの店に買い物したことは?」

「いや~ちょっとぉ~」首を傾げて困り果てたような顔をする店員の横を通り事務所に戻ろうとした外国人店員がその写真を見て「キタコトアルヨ」と片言の日本語を駆使しながら会話に入ってきた。

「ホントですか!!」燐が食いつくと、外国人店員が少し驚きながら「ホント、ホント」と答えた。

「女性用の化粧品を購入しませんでした?」

「ヨクワカッタネ。ワタシモヘンダナトオモッタンダ」とうんうん頷きながら、当時の事を話した。

「それって、いつの事ですか?」

「イツ?」

「ああ、何月何日とか何週間前だったかって事です」

「アア」説明補助してくれた店員の言葉を聞いて理解した外国人店員は話を続ける。

「アレハ、イチシュウカンマエ? カナ~」

「一週間前」絢巡査長は頷きながらタブレット端末にメモしていると、燐が長四郎から貰った洗面台の下で撮影した化粧品の写真を外国人店員に見せ「この中のどれを購入したんですか?」と質問した。

「コレト。コレカナ?」

 外国人店員は、手前に置いてあったヘアスプレー缶と化粧液を指差し答えた。

 燐は絢巡査長を見ながら頷く。

 絢巡査長は燐の言いたいことを理解し、店員に告げた。

「あの、防犯カメラの映像を見せて頂けませんか?」

「構いませんけど」

「そちらの店員も協力して頂けませんか?」燐が外国人店員にそう頼むと「ワカッタ」と片言の日本語の返事を受け、事務所で防犯カメラ映像を確認する事になった。

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