大物-3

 長四郎は早速、行動を開始した。

 森下邸は、世田谷区にある大きな和風の豪邸であった。

「ここか」

 森下邸の近くにバイクを停車させて、周辺を徘徊する。

 近所を歩き回る事で、その地域周辺の情報を得られるのだ。

 特にその地域に住むご老人に出会えれば、めっけもん。

 そうこう歩いていると、第一村人ならぬ第一区民を発見した長四郎は声をかけようと近寄っていく。

「こんにちはぁ~」

「こ、こんにちは」

 第一区民は小金持ち風なマダムであった。マダムは見かけない男に声をかけられ、少し戸惑った顔をしながら応対する。

「あの失礼なのですが、ここら辺ってご近所付き合いとかって盛ん何ですか?」

「さ、どうでしょうか。他所の地域を知らないものですから」

「そうですか。あ、すいません。自分、ここら辺に家を買おうと思っているのですが、今、住んでいる所で近所トラブルに巻き込まれて家内も疲弊してまして。引っ越す先は、ご近所付き合いが控えめな所にしようって話してまして」

「そうなんですか。その点でしたら、心配ないかと。町内会はありますが、それも年一回の集まりですし。ご近所付き合いも人それぞれですし」

「そうですか。それを聞いて安心しました。ありがとうございます」

「いえ」

「あのもう一つ、お聞きしても?」

「何でしょうか?」

「あの大きなお宅は、売りに出されているんでしょうか?」

 長四郎は森下邸を指差して質問した。

「あそこの家は売りに出されてませんよ」と嘲笑されながら教えられた長四郎は「そうですか。どうも、ありがとうございました」と恥ずかしそうに頭を下げてその場を後にした。

 あまり長居するとバイクの駐禁で取られるので、バイクの元へと戻る。

 長四郎はエンジンをかけ、バイクを走らせる。

 その姿を物陰から見つめる冷たい視線があった。

「へぇ~ 森下邸で行方不明者ねぇ~」

 一川ひとつかわ警部は扇子で頭にクーラーの風を当てながら、長四郎の話を聞く。

「長さん、依頼内容を話しても大丈夫なんですか?」

 携帯扇風機で顔にクーラーの風を当てるあや巡査長が質問した。

「ホントはダメ。でも、相手が相手だけに、知り合いの刑事には耳に入れておこうと思ってね」

「長さん。どうせ、あたしらが長さんの相手になる事を見越して話をしてくれとうやろ?」

「あ、分かりました? 流石は、一川さん。付き合いが長いだけの事はある」

「でも、その人が森下邸で行方不明になったということは、確定ではないんですよね?」

「そう、それだよ。で、お願いがあるんだけど」

「捜索願が出ていないかを照会して欲しいですか?」

「絢ちゃん。凄いね。俺の考えることお見通しじゃない。超能力者か何か?」

「分かりました。調べてみます」

 長四郎のボケを無視して絢巡査長はすぐ様、照会作業に取り掛かった。

「にしても、あの森下衆男を相手にするとは長さんもスケールアップしたね」

「一川さん。そんな悠長にしていて良いんすか? お偉いさん方から呼び出しくらうかもしれませんよ」

「え~ それはごめんったい」

「分かりましたよ」

「お、早い! 安い! 美味い!」

 長四郎は絢巡査長のデスクに移動し、モニターに映る照会結果に目を通す。

「捜索願は出ていないか・・・・・・」

「一応、行方不明になっている紅音々さんの家族関係を調べたんですけど」

 そう言って、親族関係の照会画面に切り替える。

「彼女は、中学一年生の時に家族を不慮の事故によって亡くしていますね」

「じゃあ、被害届を出すとしたら俺の依頼人か、勤め先の会社もしくは森下邸の人間か」

「そうなりますね。でも、出ていないという事は」

「言わずもがな、だな。ありがとう」

「いえ」

「じゃ。今日はお暇します。なるべく厄介事は持ち込まないようにしますので」

 長四郎は適当な事を言い、命捜班の部屋を出て行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る