対決-17

「にしても、今年の夏は暑いなぁ~」

 勇仁は照りつける陽射しを避けるように日陰に入る。

「お、自販機がある」

 長四郎は近くの自動販売機で経口補水液を購入し、一本を勇仁に手渡した。

「うひゃあ~ 冷たい!」

 勇仁は、キンキンに冷えたペットボトルを頬に当てる。

「それ、俺の心」

「あ、そ」

 勇仁はペットボトルの蓋を開けて、一気に飲み干しゴミ箱に捨てた。

「飲むの早いねぇ~」と言う長四郎も一気に飲み干してペットボトルをゴミ箱に捨てる。

「さ、行きますか」

「おう」

 二人は小岩が潜伏していたドヤ街へと繰り出すのだった。

 目的は、小岩が潜伏している間の情報を手に入れるためだ。

「このドヤ街からどうやって、探すかだな」

 長四郎は周囲をきょろきょろと見回しながら思案していると、「長さん! こっち、こっち!!」と廃墟みたいなビルから手招きする勇仁に向かって近づいていく。

「ここが、どうなの?」

「ま、良いから。良いから」

 勇仁は自分に付いて来るよう促し、ビルの階段を上がっていく。

 カビ臭い匂いが立ち込めるビルだなと思いながら、勇仁に付いて行く長四郎。

「ここだ」

 勇仁はとある部屋の前に立ち止まり、ドアを開ける。

「久しぶりだな。小上!」

 扇子をパタパタと仰いで出迎える老人。

「お久しぶりです」

 勇仁はそう言って一礼すると「こっちは、長さん。若いけどかなり腕の立つ探偵」と長四郎を老人に紹介する。

「小上が認めるとは、中々の若者だな。いやぁ~ 感心。感心。さ、立ち話もなんだ。例の事件についてだろ。守から話は聞いていたから調べてるよ」

 老人はソファーに腰を掛けながら、用意していた資料を乱雑に置かれた物の中から探し出す。

「あった。あった。これだ」勇仁にファイルを渡し「どうも」と受け取る勇仁。

「小岩の足取りを調べたんだが、警視庁にマークされてすぐにこのドヤ街へと流れ込んできたらしい。ホームレスが覚えていたよ。身なりが良くて、スマホをひたすら見ていたってな」

「スマホ・・・・・・」

 長四郎はそこが何か引っかかる物を感じた。

「それでな、羽振りが良さそうに見えてそうでもなかったらしいんだ。これが」

「炊き出しで、目撃されてますもんね」

 勇仁は資料に目を通しながら、答える。

「そうなんだ。なんだ、知っていたのか。あ! でも、良いものがあるぞ!」

 老人はそう言って席を立ち、戸棚から少し重そうな段ボールを取り出そうとするので長四郎はすぐさま老人の持つ段ボールを手に取り、机へと運ぶ。

「いやぁ~ 面目ない。面目ない」

「いえ、当然のことをしたまでですから」と謙遜する長四郎。

「これは?」

 勇仁は置かれた段ボールを開けようとする手を扇子でぴしゃりと叩かれる。

「開けるのは、まだ早い」

 叩かれた手を抑えながら、勇仁は老人の話に耳を傾ける。

「これは」と言いかけた時、「宿に残された小岩の遺留品。ですよね?」と長四郎が老人の台詞を奪う。

「そ、そうだ」

「失礼します」

 長四郎は段ボールを開けて、中身を確認する。

 段ボールの中には、三日分の衣類、横浜の地図そして、ペンケースが入っていた。

「地図? 観光か?」

 勇仁はウキウキしながら、地図を見始める。

「いや、違うな。勇仁、よく見てみろ。地図にマークされている箇所。どれもが人の多い観光地ばかりだ。つまり」

「つまり、テロを行う場所を探していたって事か」

「That’s Right.(その通り)」

「いやぁ~ お見事な推理だ。小岩の足取りを追っていたら、この地図通りの場所で目撃されていたよ。しかも、謎の男と行動をしていたらしいんだ」

「謎の男ね・・・・・・ 長さん、行こうか」

「OK.」

 二人は行動を開始する為、椅子から立ち上がって部屋を出て行こうとする。

「ちょっと、待たれい。今日、インターコンチネンタルで金星創業のパーティーがあるらしい」

 それを聞いた長四郎と勇仁は、ニヤッと笑い合うとサングラスを掛け部屋を出ていった。

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