対決-16
燐と芽衣が慶次の調査をしていた頃、長四郎と勇仁は長四郎の事務所で、来訪者を待っていた。
「長さん。身体の方は大丈夫?」
勇仁は長四郎に腰に湿布を貼ってもらいながら、質問する。
「どの口が言うんだよ。お爺さんのくせに一生懸命、動くから」
「いつまで経っても現役って言いたいけど。そうも行かないか」
「そうですよ。先輩。少しは自重してください」
そう言いながら、事務所に入ってきたのは神奈川県警の虎田守であった。
「守。遅かったじゃないか」
勇仁はゆっくりと身体を起こしながら、守の手の中にある封筒に目を向ける。
「もう、これに目をつけるあたり変わっていないですね」
「首を長ぁ~くして待ってたんだから。な、長さん」
「俺はそこまで待ってなかったけど。あの、珈琲で良いですか?」
「あ、お構いなく」
長四郎はそのまま珈琲を入れる準備を始める。
「で、どうだったか聞こうか」
勇仁はシャツに袖を通しながら、捜査の結果を尋ねる。
「そんなに焦らないでください」
守は勇仁の対面のソファーに腰を下ろして、持ってきた茶封筒の中から捜査資料を机の上に並べる。
「結論から言いますと、死ぬ直前に金星創業の社員と接触していたことが分かりました」
勇仁は珈琲を入れる長四郎に目配せすると、長四郎は頷いて守の話に耳を傾ける。
「その社員は特定出来ているのか?」
「それはまだ。ですが、そいつと共に行動していた殺し屋の正体は分かっています」
守はそう言いながら、資料をめくる。
そこに写っていたのは、昨晩ナイトクラブで派手に闘ったあの男だった。
「名前は、ヤン・イェン。エグザグラムお抱えの中国人の殺し屋です」
「だから、強かったんだなぁ~」
「先輩。こいつとやりあったんですか!!」
「うん。今、珈琲を入れてる長さんとね」
「彼も!」
驚く守に「珈琲でぇ~す」と吞気な声を出しながら珈琲を出す長四郎。
「どうも。君、凄いね」
「いえいえ、それほどでも」
「長さん。この男、見覚えない?」
「うん?」
長四郎は捜査資料に目を向けると「繋がったな」とニヤリと笑う。
「繋がった?」
「守。落ち着いて聞けよ。この社員なんだけど、今現在、行方不明」
「行方不明!」
「それで、勇仁の孫がね。この社員を探しているんです」
「先輩のお孫さんが?」
「正確には、孫のクラスメイトがですけどね」
「クラスメイト」
「そのクラスメイトが行方不明の社員の妹らしいんです」
「ほぉ~」
「守。それで、小岩は殺される前までは横浜で何を?」
「潜伏していたのは、横浜ではなく川崎のドヤ街です。炊き出しに並んでいたのを目撃されています」
「成程」
長四郎は一人納得しながら、自分が淹れた珈琲を飲む。
「すいません。小岩がドヤ街で何をしていたのかは分かっているんですか?」
「いや、そこまでは捜査していない。というより、捜査を止められた」
そう言う守の顔は苦々しいものだった。
「止められたかぁ~」
勇仁はコクコクと頷きながら、思考を巡らせる。
「先輩達が相手にしてるのは、一筋縄ではいかない相手ですよ。政界や経済界と手広く根を張ってます」
「という事は、そう言ったところから攻撃が飛んでくるという訳か」
勇仁は動じることなく余裕の表情を見せる。
「厄介な相手とやり合う事になればなるほど、ファイトが燃えてくるってものですよ」
「君、この人に感化されたら駄目だよ。ホント」
「守さん。大丈夫です。勇仁よりもっと酷い人物が付き纏ってきますから」
「へぇ~」少し興味深そうにする守。
「人の孫をそんな言い方しなくても良いんじゃない?」
「先輩の孫!! そりゃ、手こずる訳だ」
「どういう意味だよ。守!」
椅子から身を乗り出して、守に詰め寄る勇仁。
「いや、深い意味とかはないんですよ。先輩」
「勇仁。落ち着けよ」
長四郎はそう言いながら、勇仁の首根っこを掴み椅子へと引き戻す。
「なんか、すいません」
「いや、いつもの事だから」
「守。お前にしか頼めないことがあるんだけど」
「もうその手は通じないですよ」
「分かった。昔のお前はすぐにでも先輩の為ならと、頼み事を聞いてくれたのに」
勇仁は残念そうな表情を見せ、頼みを聞いてくれと訴える。
「そんな顔しても駄目。昔は昔。今では、僕にも立場ってものがあるんですから。じゃ、これで失礼します」
守は足早に長四郎の事務所を去っていった。
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