異人-11

 その頃、燐は学食でお昼を食べていた。

「はぁ」深いため息をつきながら、カルボナーラの麺をクルクルとフォークでかき回す。

「どうした? 元気ないじゃん」

 ミックスフライが載った定食のお盆を持ったリリはそう声をかけ、真向かいに座る。

「あ、リリ」

「探偵さんに会えないから、ヤキモキしてんの?」

「そんな訳ないじゃん。あんた、どういう妄想してるわけ?」

「恋愛推理ドラマ?」リリはそう言って、かまととぶる。

「どんなドラマだよ」

 そんな燐のツッコミを無視し、リリはカニクリームコロッケを口に入れる。

「でも、珍しくない? 燐が悩んでいるの?」

「なんかその言い分だと、私が普段から何も考えていないバカって聞こえるんだけど」

「多分、探偵さんもそう思っているんじゃない?」

「それ聞いたらなんか向かっ腹立ってきた」

 燐は勢い良く皿に残ったカルボナーラを食べ終える。

「復活した」リリのその言葉と共に燐はマッスルポーズを取る。

「リリ。悪いんだけど、次の数学の授業はキャンセルで」

「分かった」

 燐はお盆を返却口に返して、そのまま学校を早退し長四郎がいる元へと向かった。

 一方、長四郎はミシェルから聞き込みを行っていた。

「ミシェル。道前がした経緯、分かる?」単刀直入に質問する長四郎。

「ええ、素行調査は必要だから。道前は殺人を犯して母国の日本へ逃亡した。それを手助けしたのは彼の友人、杉田すぎた 慎吾しんごという男よ」

 長四郎はベンガンサの社長の名前が杉田慎吾だったことを思い出しながら、ミシェルの話に耳を傾ける。

「その杉田という男の所に身を寄せている事は分かっていたの。だから、杉田の事も調査しようとしたんだけど」

「素性が掴めなかった」

「その通りよ」

「という事は、ミシェルが寄越した調査員に何かしらの危害が加わったの?」

「いえ、済んでの所で日本を脱出出来たから、無事よ」

「それは良かった。じゃあ、その調査員は道前が豊島周辺の企業に勤めている事までは突き止めたが命を狙われそうになったから、あんなまどろっこしい方法で調べていたんだな」

「そういう事。ねぇ、私からも聞いていい?」

「何?」

「私が犯人だと思っている?」

 その言葉に長四郎は無言で、首を横に振り否定し話を続ける。

「その可能性は低いと思っている」

「じゃあ、誰が犯人だと考えているの?」

「道前が勤めるベンガンサの関係者かなと」

「根拠は?」

「う~ん、それを言って良いものか、どうなのか」

 取調室にあるマジックミラーを見る長四郎。

 マジックミラーの向こう側にいるであろう一川警部にお伺いを立てるのだが、勿論の事、一川警部の姿は見えることはなくこの行動自体意味を持たないのだ。

「教えてよ」ミシェルがそう言った時、取調室のドアが開き厭那が入ってきた。

「お前の動機が分かったよ」

 厭那はそう言いながら、椅子に座る長四郎を押しのけ自分が座り話の続きを始める。

「復讐殺人だったんだな」

 厭那のその一言にミシェルの眉がぴくんと動く。

「それ、どういう意味?」長四郎のその質問に仕方なく厭那は答える。

「道前はこいつの父親、トム・ガルシアを殺害した容疑で国際指名手配されている。しかも、事件が起きたその日にだ。偶然にしては出来すぎだ」

「そだねー」長四郎はつまらなさそうに返答する。

「お前は事前に国際指名手配をし、道前さんの元を訪れてアメリカへ連行しようとしたが拒否された。怒りに身を任せたお前は、道前さんを殺害した。違うか!」

 決まった。と言わんばかりのドヤ顔でミシェルを指差す厭那。

「ち、違う。確かに奴を捕まえてアメリカへ連行しようとしたわ。でも、殺してない! 私が部屋に入った時には奴は死んでいたのよ!!」

「そんな事言っても言い逃れできないぞ」

「長四郎からも何か言ってよ!」

 ミシェルに助けを求められる長四郎は肩をすくめるのだった。

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