異人-12

「それで、のこのこ帰ってきたの?」

 燐はそう言い終えると警視庁に来る途中、スタバで買ってきたフォダンショコラフラペチーノを飲む。

「まぁねぇ~」長四郎は髪を振り上げるジェスチャーをしながら答える。

「長さんは、復讐殺人やと考えとうと?」

「一川さん。ミシェルのようなこと聞かないでくださいよ」

「あんた、ミシェルさんになんて答えてあげたの?」

「何にも言ってない」

「はぁ!? 普通、犯人じゃないって言い切る所でしょうが!!」

「そんな事言われてもぉ~」

 身体をくねくねしながら、しょぼくれる長四郎を見て燐は深いため息をつく。

「取り調べをしてた時に言っとたけど、ベンガンサの社員が犯人やと考え取るとね?」

「そうすね」

「ベンガンサって、被害者が勤めていた会社だよね?」

「そう」

「どうしてそう思ったわけ?」

 燐が立て続けに質問すると、ふんっと鼻を鳴らした長四郎は椅子から立ち上がり命捜班の部屋を出て行こうとする。

「ちょっと、どこに行くのよ」

「帰る」

 その一言だけ言い、長四郎は命捜班の部屋を後にした。

「ホントに行っちゃったよ」

「ラモちゃん、追いかけたら?」

 一川警部の言葉に従い、そのまま長四郎の後を追う。

「若いって、えええなぁ~」

 燐の行動力に感心していると、すれ違いで絢巡査長が戻ってきた。

「一川さん。調べて来ましたよ」

 絢巡査長が1枚の資料を一川警部に見せた。

「お~手際が良かね」一川警部は資料を受け取り、中身を確認する。

「一川さんに言われた通り、ベンガンサ社長の杉田は中々きな臭い人物でした。会社を立ち上げたのは被害者の道前さんが入社した年です。最初の頃は、郊外に設立された商社でした。そこから年月を経てメキメキと頭角を現し、現在の規模まで成長したようです。ですが、その規模拡大についてきな臭い噂が」

「HANSHA系ね」そう答えながら、顔を上げて絢巡査長を見る一川警部。

「そうです。杉田は広域指定暴力団の中村商会の力を借りてここまで成長しているという噂があるとマルボウの同期から聞けました」

「なるへそ」

「そう言えば、長さんは?」

 取り調べを終え、命捜班の部屋でくつろいでいた長四郎の姿が見えないので絢巡査長が質問した。

「ああ、帰ったとよ。そういや、追っかけて行ったラモちゃんとすれ違わんかったと?」

「いえ」

「あ、そう。ん~にしてもHANSHAが相手やと手が出しずらいったい」

「その心配は大丈夫です。マルボウの協力は得られる手筈になっているので安心してください」

「そこまで手を回してくれてありがとうございます」

 一川警部は椅子から立ち上がり、深々と部下の絢巡査長に頭を下げたのだった。


「どこ行くの?」

 燐は長四郎の後ろを歩きながら尋ねた。

「この世のどこか」長四郎はそれだけ答えて、歩を進める。

「ねぇ、どうしてそう真面に取り合わないわけ? そんなんだからモテないのよ」

「俺、こう見えて結構、モテるのよ。飲み屋の姉ちゃんに」

「それはお金を落としてくれるからでしょ」

 燐に図星な事を言われて内心、凹む長四郎に燐は話を続ける。

「あんたもさ、良い年なんだから。もう少し有意義なものにお金を使いなさいよ」

「なんで、高校生にそんな事言われなきゃいかんのよ。じゃあ、具体的に有意義なものってのを教えなさいよ」

「そ、それは・・・・・・釣り?」

「聞いた俺がバカだったよ」

 顔を手で覆い長四郎は話を膨らましてしまった事を後悔する。

「何? その態度。すっげームカついてきた」

「ラモちゃんはカルシウムが足りてないよ。牛乳飲みな。あ、着いた」

 長四郎がいきなり立ち止まったので、思い切り長四郎の背中にぶつかる燐。

「痛ぁ~」燐はおでこを抑え悶絶していると「そんなん良いから、行くぞ」と長四郎はとあるビルに入ったので燐もそれに続いて入っていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る