異人-10

 翌日、長四郎は一川警部を連れ立って道前が勤務するベンガンサへと訪れた。

 2人は道前が担当していた営業部門の津崎つざき 修平しゅうへいという社員から話を聞けることになった。

「それで、道前さんの話でしたよね?」津崎は眼鏡を中指でクイっと挙げながら話を切り出した。

「そうです。実はこれを見て頂きたいんですけど」

 長四郎は道前役員解任の資料を津崎に見せると、大きく目を見開きどうしてこれをといった顔をする。

「これ、道前さんの部屋に置いてあったとですよ」

 一川警部の説明に納得したのか、津崎はうんうんと軽く頷いた。

「そうでしたか。でも、これが道前の事件とどう関係しているんですか?」

「それを解明する為に、こうして話を伺っています」

「成程。ですが、報道では外国人女性が犯人であると言われていましたがこれと関係しているんですか?」

 そんな質問をされるとは思っておらず、長四郎は面食らう。

「そこんところが知りたくて来とるんですたい」

「はぁ」

「それで、この資料は事実なんですか?」

「道前さんがお亡くなりになったんでお答えしますが、口外しないでください」

「分かりました」

「その資料に書かれていることは事実です。それに話はこれ以上に進んでいました。次の役員会議で決裁されるところまで話は進んでいました」

「その役員会議はいつの予定だったんですか?」

「今日です」

「今日」一川警部は手帳にその事をメモする。

「失礼ですが、何故、解任案が出されたんでしょうか? こちらの資料には書かれてい無かったので」

「これも他言無用でお願いしたいのですが、横領、パワハラ、セクハラで、そのような事が発覚しまして。それで、このような形を」

「失礼ですが、被害者の方の名前を教えて頂けませんかね?」

「それはちょっと。私の判断では出来かねます。それにその社員はもう退社していますし」

「そうですか」少し残念がる一川警部。

「私からも良いですか?」質問を求める津崎に「どうぞ」と長四郎が許可した。

「道前のマンションから会社の人間が目撃されたといったことはないのでしょうか?」

「というのは?」長四郎が詳しい理由を尋ねる。

「いや、深い意味はないのですがこの資料を持っているということなので道前と内通している社員がいるのではないかと」

「そういう事でしたか」

「ええ、それでどうなんでしょう」

「居なかったとあたしは報告を受けていますけど」一川警部がそのように答えた。

「そうですか」

 どこか安堵した様子を見せる津崎。

「津崎さんはこの資料が事件に関わっていると思いますか?」

「それはないかと」津崎は自信満々に即答した。

「そうですよね。すいません。変な質問をしてしまって」

「いえ、そんな事は」

 それからすぐに聞き込みを終えた長四郎と一川警部は帰り道、とんこつラーメンを食べながら津崎との話の整理をする。

「長さん的には収穫あった感じ?」そう聞きながら、ラーメンをすする一川警部。

「何とも言えないですけど、気になる事は一つだけありましたね」

「何かあった?」

「ありましたよ。という事で、道前解任案について少し調べましょう」

 長四郎はそう答えると、トロトロチャーシューを頬張るのだった。

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