監禁-10
絢巡査長は二重の職場へ訪ねた。
「すいませぇ~ん」そう断りを入れながら配達会社に入って行くと「あ、保険のセールスですか? それならお断りですよ」と受付近くに座る女性社員に話しかけられた。
「いや、違います。私、こういう者です」
警察手帳を見せると、「あ、申し訳ありません。それで御用件は何てしょう?」女性社員はすぐ謝罪し用件を尋ねる。
「実は御社にお勤めの二重さんに二、三お伺いしたい事がありまして・・・・・・・」
「分かりました。ですが、二重は配達に出ておりまして。待ってもらう事になりますけど、それでも宜しいでしょうか?」
「後、どれくらいでお戻りになるのでしょうか?」
「そうですね。早くて2時間といった所でしょうか」
「分かりました。また、その時間になったらこちらに来ます。では、失礼します」
絢巡査長が出て行こうとすると「すいません」と声をかけられて呼び止められた。
「何でしょうか?」
「今朝も警察の方が来られて二重の事を聞かれたのですが、何か事件に関わっているのでしょうか?」
「いいえ、その逆です。彼が巻き込まれている可能性がありまして」
「あ、そうでしたか。なんか、ごめんなさい。変な事を聞いてしまって」
「いえ。失礼します」
再びそう言い放ち、絢巡査長はその場から去った。
少し離れた所で絢巡査長は、長四郎に二重と接触出来なかった事を報告し配達会社付近に廃倉庫はないか探索を開始する。
歩き始めて数分が経過したあたりで、長四郎から返信が入る。
「共犯がいる可能性あり。捜査には充分注意せよ」とメッセージには書いてあった。
「共犯」
絢巡査長はポツリと呟くと、心当たりの人物が居ないか考えながら廃倉庫を探し回る。
一時間が経過したあたりで、表裏の病院と出くわす。
「ここの病院って、まぁまぁ近いのね」
表裏の病院は、二重の勤務先から徒歩30分の所にあったのだ。因みに、これは真っ直ぐこの病院へと向かった際の話である。絢巡査長は周辺を丁寧に調べていたので、それだけの時間がかかったという事は悪しからず。
「あれ? 今朝の刑事さんじゃないですか!」
いきなり、後ろから声がしたので驚きながら振り返ると表裏が背後に立っていた。
「あ、先生でしたか。どこかへお出かけだったんですか?」
「ええ、往診に」
「往診もなさっているんですか?」
「引きこもりの学生向けにですけどね」
「へぇ~」絢巡査長はそんなこともするのかといった反応を示した。
「では、私は午後の診察があるので」
表裏はそう断りを入れ、病院に戻って行った。
その際、すれ違ったのだが絢巡査長は表裏の手が絆創膏だらけだったのを見逃さなかった。
今朝、会った時にはなかったものであった。
「まさかね・・・・・・・」
絢巡査長は自分の推察に信じられないといった顔をして、二重の会社へと戻った。
絢巡査長が会社前に着いたときに、二重が会社に戻っていくのが見えた。
駆け足で会社に向かい、息を切らしながら入ると驚いた顔で絢巡査長を見る二重と目が合う。
「二重さん、お忙しいところすいません。私、警視庁の絢と申します」
「はぁ。朝も別の刑事さんが来られましたけど。それと同じ内容でしょうか?」
「別件と思って頂ければ幸いです」
「分かりました。少しだけ待って頂けませんか?」
「はい」
二重は応接スペースに絢巡査長を案内し、自分は仕事に戻っていった。
それから10分程して、二重が戻ってきた。
「お待たせしてすいません」そう言う二重の手は、表裏と似たような手をしていた。
「いえ、こちらこそ。突然、押しかけてしまって申し訳ありません」
「そんなことは。それより事務員から聞いたのですけど、私が事件に巻き込まれている可能性があるとのことですがどういう事でしょうか?」
「はい。実はうちの刑事が拉致監禁されてまして、その犯人が貴方の事件が冤罪だと申しているんです。何か心当たりはないでしょうか?」直球の質問をぶつける長四郎。
「いえ、特には」と答える二重の声は少し高揚しているように絢巡査長は感じた。
「そうですか。失礼ですが、今現在、別人格の時の記憶はあるのでしょうか?」
「いえ、治療のおかげで快方の方に向かっているのですが記憶は戻らないんです」
「そうでしたか。失礼しました」
「気にしないで下さい。それより、私の事件が冤罪と言うのはどういう事なんですか?」
「我々もその事実に気づいたのが今しがたでして。絶賛、調べている最中なんです」
「そうでしたか。僕に何か協力できることがあれば何でも言ってください」
「ありがとうございます。では、今日の所は失礼します」
絢巡査長はそう言って席を立ち、一礼して出て行った。
これ以上、話をしたらいらぬことを話してしまい二重にこちらの手の内を見せてしまいそうだったので、絢巡査長はここで切り上げたのだ。
二重の勤務先を後にした絢巡査長は、齋藤刑事が居る警視庁本部へと向かった。
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