結成-8

 翌日、長四郎は3人目の被害者・西谷笑の実家に来ていた。

 訪問理由は、西谷笑の事件当時の様子や事件後の警察、学校の対応がどのようなものであったかを遺族から聞く為であった。

 その為、一川警部も同伴で訪問していた。

 長四郎と一川警部に応対してくれたのは、西谷笑の母(以降の通称・西谷母)であった。

 西谷母は、長四郎と一川警部に終始冷たい視線を向ける。

 今頃、何しに来たのかと言わんばかりに。

「で、ご用件というのは?」

 長四郎と一川警部にお茶を出しながら、西谷母は用件を尋ねてくれる。

「蒸し返すような形で申し訳ないのですが、娘さんの事件についてお話を・・・・・・」

「今更、何ですか!!!」

 一川警部が言い終える前に、西谷母が激昂する。

「いくら私達、家族が事件の再捜査を訴えていたのに全く取り合ってくれなかったじゃないですか!」

 西谷母は、涙目で2人を見る。

「い、いや。そのぉ~何と言いましょうかぁ~」

「誠にお恥ずかしい話ですが、担当していた刑事が不祥事を起こしましてね。

担当していた事件の再捜査を行う事になりまして」

 返答に困っている一川警部に助け舟を出す長四郎。

「本当、何ですか?」

 西谷母は猜疑心溢れた表情で、一川警部に確認する。

「本当です」きっぱりと答える一川警部。

「そうですか・・・・・・

すいません。失礼なことを言ってしまって」

 西谷母は、自分の非礼を詫びる。

「いえ、お怒りになるのも無理ないとですよ」

 一川警部がフォローする。

「そう言って頂けると、助かります」

「では、本題に入っても?」長四郎が許可を求める。

「どうぞ」

「先ず最初に、この刑事から事件の説明を受けましたか?」

 手始めに長四郎は、菅刑事の写真を西谷母に見せる。

「はい。そうです」

「では次に、事件当夜のお母様が知っている事や学校でお嬢さんが抱えていた問題とか教えて下さい」

「事件があった夜は、生徒会の集まりがあるとかで18時頃、家を出ました。

それからの事はちょっと・・・・・・」

 事件当夜の事を思い出し、西谷母は言葉に詰まる。

「すいません。辛いことを思い出せてしまって」

「いえ」

「学校の問題の方はどうですか?」

「その事なんですけど・・・・・・

実は、笑が学校でいじめに遭っていると教えてくれた子がいまして」

「もしかして、この男の子ですか?」

 一川警部が岡田槙太の写真を見せる。

「この子です!」

 目を開き何故、分かったのかと言わんばかりに西谷母は驚く。

「この男子生徒はどのようなことを伝えたのでしょうか?」

 長四郎がさらに内容を深掘る。

「笑が学校であらぬ噂を立てられて孤立していて、そのせいでいじめに遭っていたと」

「そうですか。それで、再捜査の依頼を出されたんですね。

同じ警察官として、謝罪させてください。誠に申し訳ございませんでした!!!!」

 一川警部は警察官を代表して土下座して謝罪した。

「えっ、そんな。頭を上げてください」

「いえ! そんな訳には!!」

 頭を地面にこすりつけて再び謝罪の意を現す。

 そんな一川警部を長四郎は横目で見て、10年経っても正義感とは変わらないのだなと思う。

「岡田君は、いつ頃こちらに訪ねたんですか?」

 長四郎は一川警部そっちのけで聴取を続ける。

「あれは、二ヶ月前でした」

「つい最近なんですね。

それまで娘さんの事件を疑っていなかったんですか」

「正直のところ申しますと、ショックのあまり警察の捜査結果を鵜吞みにしてしまったんです。

お恥ずかしい限りで」

「いえ、大事なお子さんを失って正気でいられない方が当然です」

「そう言って頂けると助かります」

「今日の所は失礼いたします。行きますよ。一川さん」

「あいよ」

 すぐさま頭を上げて二人は揃って「ありがとうございました」と礼を言い西谷家を後にした。


 燐は学校で昨日、全校集会で話していたモブ女子高生二人から話を聞くことに成功していた。

 彼女達から話を聞く為に、学食人気一番のD定食を奢るという条件のもと、話を聞けることになった。

「岡田君が痴漢したっていう話でしょ」

 モブ女子高生Aが席に着くと同時に、話を切り出す。

「そうそう」

「でも、良いの? お昼ご飯ご馳走になって」

 モブ女子高生Bは申し訳なさそうに燐に尋ねる。

「気にしないで。お近づきの印ってことで」

「じゃあ、遠慮なく」モブ女子高生Bが宣言し。

『頂きます!!!』

 二重唱で食事の挨拶をするとモブ女子高生はD定食にがっついて食べ始める。

 傍ら、燐はかけうどんをすする。

「あの話はね、バスケ部の子から聞いたのよ」

 箸を燐に向けながら話すモブ女子高生A。

「バスケ部。事件の詳細とか分かる?」

「あ~なんか通学途中の電車の中でOLにしたとしか聞いてない」

「時期とか分かる?」

 矢継ぎ早に燐は、モブ女子高生Aに質問する。

「さぁ?」

「あ、思い出した」

 ここで、モブ女子高生Bが口を開いた。

「何?」

 燐が身を乗り出して聞く。

「私、岡田君が万引きしたって。つい最近、聞いたわ」

「万引き? それは誰から聞いたの?」

「え~っと、生徒会の黄山きやまっちから聞いた」

「黄山って、女子? 後、何組の子?」

「女子、女子。なんでそこまで聞くの?」

「いや、暇だから。探偵ごっこしたいなぁと思って」

「変なの」

 女子高生Aは、哀れんだ様な目で燐を見る。

「ありがとう。ゆっくり、D定食味わってね」

「は~い」

 モブ女子高生Bは軽い返事をし、A,B共に食事を再開する。

 燐は生徒会の黄山に接触する為、再び根回しを開始した。


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