彼氏-2

 海部リリの彼氏は、日本有数の偏差値を誇る阿保田大学に通う2年生の日向ひゅうが 悠真ゆうまという学生で、リリとの出会いはヘロンのトークルームのオフ会という事であった。

 そして、長四郎は今、日向のSNSを調べていた。

 大学名、学年、学部学科で検索をかけたら、一発で該当の人物を見つけることができた。

 いくらネットリテラシーを学んでいる世代とは言え、世代特有の承認欲求を求める傾向があるので簡単に個人情報を得られるのだ。特に意識高い系と呼ばれる人物は特にだ。

「ふ~ん」

 長四郎はスマホの画面をスクロールし、日向がフォローしているアカウントを見ていく。

 そうしていると、事務所のドアが突然開いた。

 長四郎が驚いてドアの方を見ると、依頼が持ち込まれた元凶の羅猛燐、その人が立っていた。

「ラモちゃん・・・・・・」

「ラモちゃん・・・・・・じゃないでしょ。リリ、ここに来たでしょ」

「来ましたよ。依頼したいんですけど!」と似ても似つかないリリのモノマネをする長四郎。

「そう。それで引き受けたの?」

「まぁねぇ~」

「やっぱり、怪しいかった?」

「ねぇ、その怪しかったって何? ラモちゃんは何を持ってご友人の彼氏さんにいちゃもんを付けたわけ?」長四郎は身を乗り出して質問する。

「それは。てか、そこら辺をリリから聞いてないの?」

「聞いてないよ。詐欺師って言われるって事だけ」

「成程ね。あいつの彼氏の話を聞く限り、羽振りが良すぎるっていうか。何というか」

「大学生が金持っているだけで、詐欺師かい。ひどい奴だねぇ~」

「うっさいわね。写真見たでしょ。イケメンなのは良いけど、なんか胡散臭いのよね」

 燐はそう答えながら、リリが口を付けずに残していった冷めたコーヒーを飲む。

「胡散臭いか。悔しいことに的を得ているんだから、参っちゃうよな」

「どういう事?」自分の直感が当たっていたのか嬉しそうに質問してくる燐。

「これ見てみそ」

 長四郎はそう言って、燐にスマホを見せた。

 それは、先程まで長四郎が見ていた日向がフォローしているアカウントの一覧であった。

「これ何?」

「観察力のないガキだなぁ~よく見てみ。フォローしているのはお友達だけじゃないでしょ。投資集団とか投資の教材を販売中とかアカウントに書いている奴もフォローしているでしょ。こういう奴ってのは、金に困ったり、持ってそうな奴から言葉巧みに大金が手に入りますよってお誘い&お金をせびる一種の詐欺集団だな」

「金に困ってそうな奴って?」

「アカウントのプロフィール若しくはアカウント名に低所得とか作家してますとか役者してますとかそう書いている人とかな。勿論、売れていない地下の地下の作家や役者とかのアカウントとかをターゲットにしているんだよ」

「へぇ~そんな奴いるんだ」

「いっぱい居るよ。そんでそういう奴らと相互フォローしてるのよ」

「そうなんだ」

「そうなんだって・・・・・・まぁ、胡散臭いのは確かだよな」

「じゃあ、リリの彼氏はこのアカウント関わっているって事?」

「それに近いようなアルバイトとかしているんじゃないのかというのが、俺の推理」

「それで、その推理を確かめるって訳?」

「そうしたいんですけど、私もねぇ依頼が立て込んでおりましてね。そう簡単に動けんのです」

「ま、良いわ。なる早で頼むね。あ、私への報告も逐一するように」

 燐はそう告げると、事務所を出ていった。

「何で、あいつに報告しなきゃいけないわけ?」

 長四郎は首を傾げながら時計を見ると、不倫調査を依頼してきた嫁が来る時間が差し迫っていたので、慌ててその準備に取り掛かるのであった。

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