監禁-14

「この5ヶ所に、一川さんは監禁されていない」

「じゃあ、どこに一川さんは居るの?」

 その燐の質問に「分からん!!」と長四郎は即答する。

「まぁ、分からないのも無理ないけど。時間があまりないんですよ。どうするんですか?」

「こういう時こそ、急がば回れだぞ。絢ちゃん」

 長四郎は絢巡査長に諭すと、地図を見始める。

「絢ちゃん、二重の勤務先と表裏の病院の近所は調べたんだよね?」

「はい。ですが、全て調べたわけではないのでまだ残っている物件もあるかと」

「了解」

 長四郎はそう返事すると地図にもう一度、目を落とす。

 地図と睨めっこし5分が経過した頃、長四郎が口を開いた。

「ラモちゃん。ここの拡大地図をアプリで良いから見せて」

「分かった」燐はすぐにご所望の物を長四郎に見せる。

 その地図を見ながら、長四郎は該当しそうな物件にマークをつけていく。

「今、マークを付けた場所を調べよう」

「分かりました。捜査員を向かわせます」

「ちょっと、待って!」

 長四郎は声を大にして、制止させる。

「どうしたの?」燐が説明を求めると「いや、相手もバカじゃないから多分、監視カメラとかつけているはずだし、刑事がうろついていたら爆弾を起動させるかもしれない」

「という事は、通常の捜索ではダメという事なので、変装とかした方が良いということでしょうか?」

「そういう事」絢巡査長に指パッチンをしながら答える。

「変装って。逆に疑われない?」

「ラモちゃん、変装って言うのは服を一新させる事だけだと思っているみたいだけどそれは違うぞ」

「どういう事なの?」

「長さんが言いたいのは、職業を刑事と思わせないようにしろって事。一応スーツを着ているわけだから、片方は不動産会社の社員、もう片方はその物件を内見しに来た客って感じで」

「成程ぉ~」

 燐は理解しましたと言わんばかりに首を大きく振り頷いて納得する。

「方針は決まったんで。絢ちゃんは二重の方に向かってくれる? 俺は表裏の方に行くから」

「私は? 私は?」燐は自分を指差しながら、自分の行動を問う。

「ラモちゃんは、ここで一川さんの監視」

「え~」

「え~じゃないよ。ラモちゃんが一川さんの身に危険が及んでいないかを確認してもらわないと俺達が好き勝手動けないから。宜しく!!」

 長四郎はサムズアップし、そのまま事務所を出て行った。

「じゃ、ラモちゃん。宜しくね!」絢巡査長も長四郎に続き事務所を出た。

 一人残された燐は、する事もないのでソファーに腰を下ろしTVのスイッチを入れた。


「熱海さぁ~ん」

 看護師に呼ばれた長四郎は黙って挙手し、診察室へ入って行く。

「熱海さんですね~今日はどうしたんですか?」

 診察室の椅子に長四郎が座ったと同時に、表裏は質問した。

「はい。ここ数日。寝れなくて困っているんです」

「そうですか」

 そう返答しながら、表裏はパソコン上のカルテに睡眠障害と入力した。

「具体的には、いつ頃からですか?」

「そうですね。3日前からでしょうか」

「3日前。それ以前はどうでしたか?」

「それ以前は、寝れていたような気がします」

「では、3日前に何か大きな出来事はありましたか?」

「ありました。ありました。実は知り合いが事件に巻き込まれまして。とても心配で、夜も寝れないんです」

 その回答を聞いた表裏は原因が分かっているのに、どうして来たのかと思ったがそれを声出さず診察を続ける。

「事件ですか。それは心配ですね」と当たり障りのない感想を述べる表裏に長四郎は「心配でしょうがないんです。犯人は分かっているんですけどね」と答え表裏の様子を伺う。

「そうですか。警察には言ったんですか?」

 動揺せず淡々と質問を続けていく表裏。

 そんな表裏を見てそう簡単にはいかないと踏んだ長四郎は、別の作戦で攻める事にした。

「先生。患者を弄んで犯罪の道に誘い込む医者をどう思いますか?」

 その言葉に、表裏はピタッと動きが止まる。

「それは倫理的に許されないと私は思いますけどね」

「ですよね。良かった。心の中にある錘が取れたような気がしました」

「そうですか。それは良かった。寝れそうですか?」

「どうでしょうか?」首を傾げながら、長四郎は不敵に笑う。

「では、睡眠薬を出しておきますので」

「分かりました」

 長四郎はここで引き下がる事にし、そのまま診察室を出て薬を貰い病院を出た。

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