彼氏-20
日向が逮捕されてから、一週間が経とうとしていた。
長四郎は普段通り浮気調査に精を出し報告書をまとめていると、絢巡査長がホットコーヒー2つ持って事務所を訪れた。
「どうしたの? 絢ちゃん」珍しい訪問で驚く長四郎に「いや、事後報告をするように、後半出番の少なかったハゲからお達しを受けて来たんです」と答えた。
「ああ、そういうこと。でも、事後報告なんてしなくても良いんだよ」
「まぁ、今日は暇だったんで。勘弁してください」
「俺は暇つぶし相手かい」
「そういう事です。それで、日向が円山美歩さんを殺害した経緯なんですけど・・・・・・」
そこから、絢巡査長の口から事件の顛末が語られた。
日向は事件当夜、美歩から呼び出され美歩のマンションを訪れた。
そこで、美歩から日向の浮気現場を目撃していた事を告げられた。当然の如く、日向はこれを否定した。
だが、美歩は一歩も引かなかった。
理路整然と日向を追い詰めていく美歩に、日向は逆切れし手を挙げた。
必死に抵抗する美歩は、身を守る為にキッチンに置いてあった果物ナイフを手に取り日向に突きつけて身を守ろうとした。
だが、日向は怯むことなく美歩からナイフを取り上げようと揉み合いになり、刺殺した。
そして、日向は自分に捜査の目が及ばないように美歩のスマホに入っている写真データを削除して部屋を後にした。
そんな日向が逃げ込んだ先は、近所のマンションに住む浮気相手の女の所であった。そこで置いてあった服に着替え凶器を隠して朝を迎えるまで待ち、マンションを出た。
血塗られた服をマンションの植え込みに隠して、後日処理しようと思っての行動だった。
「ふーん。それで後日、取りに来たけど。急いでいたから、見つけきれずにラモちゃんに見つけられたっていうわけか」
「そうみたいです。でも、彼は詐欺罪でも立件されるので当分は出てこれないかと。まだ若いのに、人生の大部分を刑務所で送らなければならないんですから」
「そうだねぇ~」長四郎はそう答えながら、絢巡査長が持ってきたコーヒーを飲む。
「でも、女ったらしって、本当にムカつきますよね」
「どうして、そう思うわけ?」
「いや、近所に住んでいた女の子は、犯人隠避の罪で捕まるかもしれなかったんですよ」
「え、捕まってないの?」
「ええ、まぁ。一応、彼女の言い分では日向は暴漢に襲われて返り討ちにし、その時に付いた返り血という説明を受けたらしいので」
「成程。フフッ」
「何が可笑しいんですか?」
「何でもないよ」と答える長四郎は内心、女性が捕まりたくない。その一心で噓をついているのであろうと察した。
「ま、難にせよ。日向の送検は無事に終わりましたので、協力ありがとうございました」
「別に礼を言うことじゃないよ。俺も成り行きで協力する事になっただけだから」
そう長四郎が返答した時、事務所のドアが開いた。
「お願いがあるんだけど! リリの彼氏の素行調査して!!」燐は入って来るや否やそう告げた。
「しただろ。この前」と答えると「違います。新しくできた彼氏です!!」リリも事務所に入って来て事情を説明する。
「燐が新しい彼氏も詐欺師だって言って聞かないので」
「本当の事じゃない」
「今度は、違いますぅ~」
そう言い合いをする女子高生2人を見て、長四郎と絢巡査長は「はぁ~あ」と大きな溜息をつくのだった。
完
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